15話 運命の出会い
目を覚ますとジョゼフの姿がなくて、リアムは困惑していたよ。着替えをすませるとジョゼフが帰ってきたんだ。
「起きたか。昨日朝飯買ったけど、いつもの一人分の感覚で買っちゃったから足りないかと思って」
「起こしてくれれば買いに行ったのに」
「土地勘ないだろう?俺が音立てても全然起きなかったし、疲れてたなら休んだ方がいい」
「ありがとう」
ジョゼフは買ってきた食材で、パパッとサンドイッチを作ってくれたよ。
コーヒーを淹れてくれてリアムは飲めるかなって顔したから、ミルクを出してくれたんだ。
「リアムって顔にすぐに出るな」
「そうなのかな?うん、飲みやすくなった」
朝食を食べ終わると、ジョゼフは地図でリューリッシュの街について教えてくれたんだ。
「リューリッシュに家がない奴は傭兵仲間の家に泊まってることが多い。金がもったいないしな。俺は別に構わないぜ」
「いいの?一週間以上あるよね?」
「一日はアル姐のところに行った方がいいかもな。へそ曲げるし。
泊まったら襲われないように気をつけろよ」
「アル姐はそんなことしないよ。みんなを楽しませるように言ってるだけだと思うから」
「どうだか。寝込み襲われそうになったっていう奴いたぜ」
ジョゼフはリアムの分も洗濯してくれたよ。リアムは嬉しそうにニコニコしてたんだ。
「みんな優しいなって。リューリッシュに来てよかったなって」
どうしたと聞かれたからそう答えたよ。
「優しい人ばかりではないよ。ガレオやアル姐は面倒見がいいから、新人の世話をしてる。俺も世話になったし。
リアム。自由になりたいって言ってたけど、傭兵は雇われて誰かの命令に従わないといけない。時には仲間を殺せと言われたら殺さないといけない。それが仕事だから。
傭兵には自由はないぜ?」
「親父がしたことをしてみたかっただけ。ずっと傭兵でいるつもりはないよ」
「そっか。でも逃げるなら今だぞ?戦地に行ったら逃げられない」
「ありがとう。決めたことだから」
ジョゼフは頑固だなと笑っていたよ。
お昼前にアルマンと約束したお店に行ったよ。
バヤールはがっちりアルマンに腕を押さえられていて、逃げられなかったみたい。
「あたしずっと介抱してあげたんだからね」
「感謝してるけど、もう少し寝かせてほしいな」
バヤールは二日酔いみたいだよ。
「リアムに礼を言えよ?高級魔法具買って自慢するのはいいが、盗もうとする奴もいるんだからよ」
ガレオもいたよ。三人はガレオの家から来たみたい。
「バヤールが無事でよかった。あの男の人、トイレで銃出そうとしてたから」
「そうだったのか。ありがとうな、リアム。
そいつが俺を襲おうってよくわかったな。エドって人の仕込み?」
「仕込み?チラチラこっち見てるから気になってただけ」
リアムたちはアルマンが教えてくれたお店に入ると、とても混んでいたよ。
お皿にはみ出るほどのサラダとステーキがテーブルに運ばれていたよ。
「ここ安くてボリュームがあるのよ」
食べ盛りのリアムは喜んでいたけれど、バヤールは食べ物の匂いを嗅ぐのも嫌らしいよ。
アルマンおすすめのステーキセットをリアムが美味しそうに食べるから、アルマンも幸せそうだったよ。
「いい食べっぷりね、リアムちゃん!ライスとパンはおかわり自由よ」
「本当?やった!」
「親戚のおっさんになってるぞ、アル姐」
「おっさんって言わないでよ。お・ね・えさんだって。ガレオだって親戚ポジションでしょう?
昨日の夜ずっとリアムちゃんの話してたじゃない。シャルルさんの息子は俺の息子的なこと言ってたわよね?あ、親バカってやつぅ?」
ガレオはノーコメントだったけど、頭を掻いていたよ。
「エドおじちゃんがいたらもっと楽しかったのにな」
リアムは心底思ったよ。
「リューリッシュに来るのは難しいだろう。戦争終わったらお前のいた村を案内しろよ」
「あたしも久しぶりに会いたいわ。エド…さんが農家やってるって想像できないし」
ガレオとアルマンはエドおじさんに会いたいみたい。
だからエドおじさんの話をたくさんしてあげたんだ。
「料理できないって当然だろう。専属の料理人が作ってたし、剣を持っても包丁は持ったことないだろう」
「そうなんだよ。洗濯物も畳めなくて。どっちが子どもかたまにわからなくなったよ」
ガレオが大笑いして、アルマンも楽しそうだったよ。
食べ終わると、昨日買った銃を持って射撃場へ行ったよ。
傭兵たちで賑わっていて、ガレオとアルマンは会う人みんなに声をかけられて二人は有名みたい。
「そいつか?水葬のシャルルの」
いかにも老人という感じの男の人が、ガレオに声をかけてきたよ。
「師匠じゃないか。引退したのに、なんでここにいるんだ?」
老人はガレオの師匠らしいよ。
「招集がかかっただろう?」
「そうだが、あんたは七十近いから断れるはずだぞ」
「知っているさ。このごろ物覚えが悪くてな。
このままボケるよりも若いころ決めたように、戦場で死のうと思ってな」
「そんなこというなよ。かみさんに怒られるぞ」
老戦士は寂しそうに笑ってから、いないと言ったよ。
「先月死んだ。あいつが俺の戦っているところが格好いいと言ったから、俺は戦いの中で死ぬことにした」
「…そうか。あんたが決めたことなら俺は止めないよ」
「ありがとよ。そいつが、シャルルの…ええっと名前はなんだっけか」
「リアムだ」
「そうだった。リアムだ。
俺が若かったら、手合わせしてほしかったな。期待してるぞ!」
気のよさそうな老戦士に、リアムは好きになったよ。
リアムは買ったばかりの銃を手にして的の前に立つと、多くの人に見られたよ。
ヒソヒソとシャルルの息子という声が聞こえて、嬉しいやら悔しいや不思議な気持ちになったんだ。
ガレオがリアムの構えを確認しながら言ったよ。
「気にするな。今は的だけを見ろ。うん、構えはいいな。エドさんから習ったのか?」
「銃はなかったから、習ってないよ。マリアスさん…カレ商会の会長に教えてもらった」
「あそこの会長は銃好きって聞くからな。押し売りされなかったか?」
「されなかったよ。たくさん銃について教えてもらったけど、よくわからなくなった」
「マニアックな話をされたんだろう。俺だって銃を使っているが、構造まで聞かれたらわからねぇよ。
撃ってみろ」
構えてみたけれど、前世の記憶は思い出せなかったんだ。
銃口の先、的を見つめると後ろのヒソヒソ話は聞こえなくなり、的しか見えなくなったよ。
引き金を引くと、すんという小さな音がして魔力の弾が発射されたんだ。
ドンと的に中る音がしたら、どよめきがおきたよ。
的のド真ん中に中っていたんだ。
「凄いわ、リアムちゃん。銃をはじめたばかりなんでしょう?」
「こりゃ驚いた。センスはシャルル譲りだな」
老戦士は愉快そうにしていたよ。
「まぐれだ」
「ビギナーズラックだろう?」
後ろのヒソヒソたちは、リアムが的に連続して中てると静かになったよ。
「すげぇな、坊主。これやってみるか?」
アルマンよりもムチムチな大柄な男が、リアムの半身くらいの長さの銃を担いできたよ。
ライフル銃のようなもので、リアムは魔力砲に似ていると胸が高鳴ったよ。
「うん、やってみたい」
「普通の銃より反動がすげぇから気を引き締めろよ?」
持つと想像より重くて、筋肉ムチムチ男は笑ったよ。
「足に落とすなよ?地味に痛いぞ。銃に脚がついているだろう。それを地面に置いて…」
「寝そべって撃つんだね」
「そうさ。破壊力抜群だ。これがあれば敵も木っ端微塵だぜ」
寝そべって撃つ銃用に低い的もあったよ。
一発撃つと振動が凄くてリアムは咄嗟に放してしまったんだ。
「おいおい。放すなよ。痛くねぇからさ。そいつを手放すということは戦場で裸になるようなもんさ」
魔力消費も大きいんだけれど、普通の銃よりも飛距離はあって、威力があるんだって。魔力を圧縮して飛び出すからとても振動が大きくなるらしいよ。
リアムは反動に慣れると、集中して的を狙ったよ。
中るようになった途端に、連続してド真ん中をぶち抜いたんだ。
「どうかな?」
銃の反動のせいでまだ少し手が震えていたから、さすりながら振り返ったよ。
筋肉ムチムチ男は、はっとなって頬をひきつらせながら無理に笑ったよ。
「ビギナーにしては上出来だ。センスあると思うぞ?」
「やった!お金貯めたらその銃にも挑戦しようかな」
「そうしろ。一緒に練習できる日を楽しみにしてるぜ」
「俺も楽しみにしている」
慣れない銃を使ったせいか、リアムは疲れてしまって練習を切り上げたよ。
アルマンが買い出しを手伝ってくれるというけれど、たくさんの荷物を持つ元気はなかったんだ。
一人で街を散策したいと言ったら、しつこく誘ってこなかったよ。
「うちに来なさいよ」
アルマンのお誘いに、ガレオが一回は行ってやれというからお泊まりすることになったんだ。
夕食は一緒にねとゴリ押しされて、リアムは苦笑したよ。
「リアム。貞操は自分でしか守れないからな」
「気をつけろよ」
バヤールとジョゼフがそれぞれエールを送ってくれたから、アルマンの家に行って平気かなってリアムも不安になったよ。
「アル姐はいい人だし」
リアムは頭を切り替えて、傭兵御用達のお店がある通りに向かったよ。
色々な武器や魔法具を見るのが楽しかったんだ。
一時間くらい見て回ってから、別のところに行こうとして、雑多な感じの道に出たよ。
バヤールがマッサージ屋さんがあるって言ってたところだったんだ。
少年リアムはさあ行こうとは思わず、行ってはいけないところかなと思って踵を返したよ。
若い女の人とすれ違って、どことなくニノンに似ていたんだ。
はっとなって、後ろ姿を見たけど、ニノンより背が高くて髪の色も明るい茶色だったんだ。
肩に力が入っていて、手が震えていたんだ。
女の人はいくつかの風俗店の前を足を止めては、看板を見てというのを繰り返していたんだ。
何かの事情で風俗店で働かなくてはいけない。
とても怖いけれどそうしないと生きていけない。
リアムはすっと頭に浮かんだと思ったら、声を出してたんだ。
「あの、すみません。道を教えてほしくて」
声をかけられた女の人は、警戒と驚きの表情を浮かべて振り返ったよ。
リアムは心底困ってるって顔をして、女の人が警戒しないように頑張って話したよ。
「傭兵になろうと昨日リューリッシュに来たばかりで、このあたりに武器屋があるって聞いて来て歩きまわっていたら迷ってしまって…」
「ああ。武器屋さんならその角を…」
もうわかりませんという困り顔をすると、女の人は力が抜けたように小さく笑ったよ。
彼女が笑ったから、リアムは安心したんだ。
この人はニノンとは違うんだって。
「ごめんなさい。声をかけて。急いでました?」
「…いえ。急いではいなかったわ」
「よかった」
リアムのほんわかした笑顔に、女の人もつられて笑ったよ。
「歩き回って疲れちゃった。どこか安くて美味しいお店知ってますか?」
「それなら…」
案内してくれたお店はこじんまりとしていて、店主一人で切り盛りしている静かなお店だったんだ。
「道案内してくれたお礼したいから、一杯おごりますよ」
女の人は目を瞬いて困った顔をしたよ。ナンパされてるって思ったみたいだけど、すぐに微笑みを浮かべたよ。
「ありがとう。私も喉渇いていたの」
窓際の席に座ると、飲み物がコーヒーしかなくて、しかも色々種類があって困ったよ。
「どうしたの?」
「コーヒーってたくさんあるんだね。俺、コーヒー農家だったけど、あんまり飲んだことなくて」
「あら、田舎から出てきたの?メニュー見せて」
彼女が教えてくれたけれど、店主もリアムの好みを聞いてお勧めしてきたよ。
それを頼むとリアムは自己紹介したよ。
「俺はリアム。傭兵になるために田舎から出てきたばかりなんだ。人も多いし、夜なんて街がキラキラ光ってて驚いたよ」
女の人はクスクス笑ったよ。
「私の名前はジョゼフィーヌ。私もこの街の出身ではないけれど、幼い頃に来てここで育ったわ」
「ジョゼフィーヌは都会人なんだね」
「ふふ。そうね。でも都会で暮らすって大変なのよ」
また暗い顔になったから、リアムは話題を変えようとして地図を広げたんだ。
「ここってどこ?」
「ここは」
なんとなく場所はわかっていたけれど、わからないふりをしたんだ。
ジョゼフィーヌは親切に大通りへの近道や安い飲食店を教えてくれたよ。
地図をしまいながら、リアムはニコニコ笑っていたよ。
「ジョゼフィーヌのおかげで、一週間乗りきれそう」
「帝国が宣戦布告してきたってニュースでやってたけれど、リアムも北に行くの?」
「まだ配置の指示はでてないけど、そうなるね。だから色々準備しないと」
「…ありがとう。私たちのために戦ってくれて」
リアムはキョトンとした顔になったから、ジョゼフィーヌは変なことを言ったかしらと思ったよ。
「あ、そうなるね。考えてなかった」
「リアムは何のために戦うの?」
「うーん。自分のためかな。傭兵ってほとんどの人は自分のためだと思うよ?」
「自分のため…」
ジョゼフィーヌはどこか思い詰めている顔をしていたよ。深入りはいけないと思いながらも、リアムは聞いてしまったんだ。
「ジョゼフィーヌは自分のために生きていないの?」
「え?」
まさか衝撃を受けたような顔をされるとは、リアムは思わなかったよ。
「ごめん。変な事を聞いて」
「ううん。私は…。家族のために生きているわ」
「素敵だね。俺、両親が幼いときに死んだから、家族っていうのはよくわからない。
可愛がってくれた知り合いのおじさんはいたけど、やっぱり違うというか…」
「苦労してきたのね。あなたに比べて私は幸せなのかもしれないのに。
母が病でね。ベッドから動けないの。父は亡くなって、他に頼る人もいなくて。働いてお金を稼がなきゃいけないのに、母は一人でトイレにもいけない。長時間放置できないの。
だから短時間で稼げるお仕事探してて」
風俗店に行こうとしていたみたいだね。
「…私のために生きる。そうしたいと何度でも思ったわ。最低よね。お母さんは何もできない赤ちゃんだった私を世話してくれてたのに、見捨てたいなんて思ってしまって」
「お金もなくて誰も頼る人いないなら、そう思っても仕方ないよ。俺は育ててもらった養父母に何も言わずに出てきたから。ジョゼフィーヌは心で思いながらもお母さんを見捨ててないじゃない。偉いと思う」
見ず知らずの男の子に励まされて、ジョゼフィーヌは涙を浮かべたよ。
「ごめんなさい。会ったばかりなのにこんな話して」
「いいよ。俺も誰かに話したくなるときあるし。そういうときに限って言える人っていなかったりするもん。俺、養父母だいっきらいだったけど、ジョゼフィーヌの話を聞いて反省した。赤ちゃんって何もできないのに邪魔と思いながらも育ててくれたわけだし」
「わ、私、偉そうなこと…」
「ううん。ためになった。ありがとう、話してくれて」
ジョゼフィーヌはコーヒーを飲みながら、チラリとリアムを見たよ。ナンパ男かと思ったけれど、もしかしたらジョゼフィーヌが思い詰めた顔をしていたことを心配して声をかけてくれたのかと思ったよ。
「私もありがとう。リアム」
「どういたしまして」
コーヒーを飲み終わると、二人はなんとなくこのまま別れるのは嫌だったから、お話しながらジョゼフィーヌが薬屋さんに行くと言うからついていったよ。
「母が最近下しててね。お腹の調子をよくするお薬がほしくて」
薬屋さんは雑居ビルが並んでいるところにあって、入り口も小さくてお店がやっているのか初めて来た人はわからないくらい、暗かったよ。
「いつものか?」
無精髭を生やして、服も少し汚ならしくて薬屋さんに見合わない清潔感ゼロな男の人がカウンターに座ってたよ。
「お腹の薬ある?下痢が酷くて」
「ああ。それなら」
男はポンと袋に入った薬を出したよ。リアムはそれにひっかかったんだ。
男は下痢と聞いただけで薬を出したんだ。下痢でもたくさんの原因があるから、詳しい症状を聞かずに薬を出すのはおかしいよ。
それにこの薬屋さんは薬屋独特の薬草の臭いがしなかったんだ。
医者は魔法での治療をして、薬は薬草が主流だったよ。
薬は薬屋さんが作っているところが多かったから、作っていないところは腕の悪い薬師しかいないと考えられていたよ。
薬が買えてジョゼフィーヌは安心しているようだけど、リアムはあの薬屋さんに不信感でいっぱいになったよ。
「ジョゼフィーヌ。あの薬屋って腕いいの?」
「人に勧められたの。お医者様やいい腕の薬師がいるところは高いし…」
日本のように健康保険とかなくて、すべて自腹だったんだ。風邪でも一度医者にかかれば、何日もの給料が吹っ飛んでしまうこともあったよ。
ランバート国民は命の危機にひんしない限り、医者にかからないよ。医者に診てもらいたくてもジョゼフィーヌのようにお金のない人たちは我慢するしかないんだ。
「治癒魔法を少し使えるんだ。もしかしたら下痢を治せるかもしれない」
「え、本当?」
―――親切にした方がいい人にたまに会う。
クレマンが言ったことを思い出したんだ。
ジョゼフィーヌは初対面の男の子を頼るほど、自分の手にはおえなくなっていたんだ。
リアムはそんなジョゼフィーヌが危険だと思いながら、彼女の家に行ったよ。




