13話 田舎少年
喫茶店を出るとビル群を抜けて、ニ、三階建ての古いビルが並んでいるエリアに行ったよ。日本で言う雑居ビルという感じかな。
「この辺りは傭兵御用達の店が多い。足りないものはここに来ればだいたいは揃う」
「あとマッサージ屋もあるぜ?」
バヤールが指差した先に、女の人がビルの前で何人か立っていたよ。
「バヤールちゃぁん?」
アルマンの威圧にバヤールは何でもないっすと、口笛を吹いて明後日の方向を向いていたよ。
あとでリアムは、風俗店だとガレオに教えてもらったんだ。
ガレオたちのお勧めの銃屋さんに行くと兵士や傭兵らしき人たちがいたよ。
「そいつが水葬のシャルルの子どもか。そっくりだな」
年配の店主や見知らぬ傭兵からも声をかけられたよ。
「…俺。知らない間に有名人になってる?」
「リアム、すまん」
ガレオはさすがに悪いって思ったらしいよ。
ここの銃屋さんにはコアが内蔵されているものしかないらしくて、別の店なら魔石タイプの魔法具が買えるらしいよ。
「魔力はあるか?シャルルの息子だから、あるだろうが」
「あんまり魔法使えないんだ。だから魔力が入っているタイプにしたいなって」
魔法が使えると言ったら、偉い人たちにこき使われたくないから嘘をついたよ。
「そうか。お袋の方の血が出たか。シャルルからは魔力が少なかったって聞いている。それだったら値は張るが、魔力搭載型がいいな」
銃を買うと今度は魔法具のお店に行ったよ。
クレマンから買った防御の魔法具を見せると、使えないとあっさり言われてしまったよ。
「商人ならいい防御力だが、戦士では物足りない。性能の高いものは値も応じて高くなる。金のない初心者に売り付けるには妥当だがな」
ガレオが選んだものと、クレマンがくれたものをお店にある小さな射撃場で試しに使ってみたんだ。
的に防御の魔法具をかけて、銃を打ち込んだよ。
両方とも発動したけれど、クレマンの方が五回目で的を貫通してしまったんだ。つまり、魔法具が耐えきれなくなってしまったってことだね。
「高くても一番防御力のあるものを選べ。今度の戦争は、兵士と傭兵を守ってくれる騎士も英雄もいない」
騎士はエドおじさんで、英雄は親父のことだとリアムは思ったよ。
ガレオがこのお店で一番高くて性能のいいものをリアムに押し付けたよ。
「これもらうぜ」
店主にガレオがお金を払ってくれようとしていたよ。
「あ、俺が払うよ」
「バカ言え、金あんのか?宿に何日も泊まらなきゃいけないし、飯代もかかるんだ」
リアムはまだまだ余裕はあるけれど、田舎の貧乏人だろう少年が大金を持っているのは怪しいよ。
「あたしも出すわ。傭兵になるお祝いよ」
ガレオとアルマンが買ってくれたよ。
もらった魔法具の腕輪をつけて、ニコニコと笑っているリアムに、アルマンはキュンキュンしていたみたいだよ。
「セザールも言っていたようだが、俺はお前がそのままエドガール様のところに帰ってほしいんだが」
ガレオは新しい装備を嬉しそうにつけて、死んでいった新入りたちの顔を思い浮かべていたよ。
リアムも友人シャルルのように戦死させたくないと思っていたんだ。
「ありがとう。でも決めたから。生き残って、エドおじさんが俺と旅に出ても大丈夫だって安心してもらいたいんだ。
非国民って呼ばれない場所を探して、エドおじさんが自由になってほしい」
「リアムちゃん…。いい子ね」
アルマンは涙を浮かべて感動していたよ。
「ねえねえ。属性変換できる魔法具あるって聞いたけど」
リアムは水属性以外の魔法を使ってみたいらしいよ。
「火をつける魔法具は持っておいた方がいいぞ。野営するとき暖をとったり、飯作るとき必要だからな。後は…」
治癒魔法の魔法具、岩や鉱物を作れる魔法具とか色々あったよ。
「こういうところで売っている鉱物の魔法具を使って剣を作るとか考えるなよ?すぐ折れる剣の出来上がりだ」
「自分で作れるかなって思ったのに」
「誰もが思うさ。俺の同期がやろうとして金を無駄にしたのをみたからな。
魔力があれば、他の属性にどんな魔法をも転換してくれるものもある。ただ魔法の知識がないと使えないものだ。使うなら、魔法学校出た奴くらいだろうな」
ガレオはお前は使えないだろうと言いながらも、売場を教えてくれたよ。
「一番高いのは杖だな。剣や銃を持っているから杖は邪魔だ。俺らには関係ないものだが…」
リアムは目をキラキラさせて、頑丈に施錠されているガラスケースの中の杖を見ていたよ。
「かっこいい。デキる魔法の使い手になれそう」
「デキる魔法の使い手しか杖は扱えないぜ。売場を戻って火の魔法具を…」
「全ての属性変換できるのはないの?」
「あるがメチャクチャ高いし、扱いきれずに無駄金にするぜ。やるならたくさん魔法を覚えてからにしろ」
「わかった。これにする」
全ての属性変換タイプを手に取ったよ。
「魔法知らないんだろう?変換はやめておけ」
「これってどのクラスまで使えるの?」
「中級下だぜ。下級ならこっちの…」
「中級下か。これにしようかな」
「人の話を聞け」
リアムはニコニコしていて、魔法具の指輪をはめていたよ。
この頑固さに覚えがあって、シャルルの子だなと思ったらしいよ。
「お前、実は上級の魔力を持っているだろう」
「さあ?魔力をはかったことないから」
「雨降らせたりできるのか?」
「さあ?やったことないからね」
「はい。嘘。何だよ、シャルルの血を引いてるじゃないか」
「傭兵は詮索しないって、暗黙のルールがあるって聞いたけど?」
ガレオは肩を落としたよ。ルール違反してるのはガレオだからね。
「上級レベルならすぐに傭兵ではなく、使い手の方へ応募しろ。傭兵の給料より数倍高いぞ。少しでも使えるという奴は魔法の使い手になりたがる。傭兵から貴族になったやつもいるくらいだ」
「そうなんだ。でも俺は剣士になりたいから。ガレオには理由話すから後でね」
バヤールとジョゼフはアルマンと一緒に離れたところで魔法具を見ていて、リアムの周りに人がいなかったよ。確認しているリアムに、ガレオも察したよ。
「無理に話さなくていいからな」
「ありがとう」
魔法具を見終わるといよいよ、傭兵組合に行ったよ。ファンタジー小説系でいうなら傭兵ギルドってやつだね。
ギルドと言えばワクワクしている人いるかもしれないけれど、日本語にしたら組合っていう意味だからね。
コーヒー組合の話したときに日本語採用してしまったわけだし、ハイドランジアの各地に傭兵組合はあるけれど、言葉も様々、呼び方が様々だから組合で言い方統一しておくね。
一階が受付で、夕方のせいか人がまばらだったよ。
「文字書けるか?」
受付で申請用紙を受けとると、ガレオが手招きして記入台を叩いたよ。
「うん。難しい単語じゃなければ。名前は」
リアムと書いて次に進もうとしたから、ガレオに姓も書けと言われたんだ。
「姓って何?」
「は?お前、自分の姓も知らないのかよ」
「え?おかしい?」
「学校で自己紹介したりするから、教えてもらったんじゃないのか?」
「俺、学校行ってなかったし」
自己紹介したときはリアムと言っただけだからね。
「お前の姓はアルクだ。シャルル・アルクの息子、リアム・アルク」
「弓…」
字はなとガレオは近くにあった用紙に書いて見せたよ。
手元に置かれたアルクという文字をリアムはじっと見ていたんだ。
「早く書けよ。受付しまっちまうぞ」
「…」
「リアム?」
記憶の奥のまた奥の方にちらりと掠めたのを逃してしまったよ。
ガレオの書いた字の下にペンを置くと、どうしてか別の文字がすらすらと書けたんだ。
「何書いてんだ?」
「この文字はどこのかわかる?」
「わかんないのに書けるのか?悪いが、俺はよその言葉はわからない。バヤールはエルスターの言葉がわかったと思う。おい、バヤール。来てくれ」
入り口付近でバヤールはアルマンたちといたよ。
「何だよ」
「この字ってどこの字だ?」
「あ?これ?エルスターの言葉でアルコ。弓だ。これが?」
「リアムは自分で書いたくせに、どこの字かわからなかったんだ」
「は?田舎少年の次は謎の少年かよ」
ジョゼフが面白そうな話しているとこちらに来たよ。
「アルコはレナータも使うぜ」
「ジョゼフはレナータ語がわかるのか?」
バヤールは初耳だと驚いていたよ。ジョゼフは肩を落としたよ。
「話せたらかっこいいかなって単語だけ覚えた。ほぼ忘れてるけどね」
「そういう口か。で、次のはどこのだ?」
「アル…クスって読むのか?」
ジョゼフはわからないみたい。リアムは書いた文字を見つめて、はぁと溜め息ついたよ。
「思い出せると思ったのに」
「何がだ」
ガレオはリアムが真剣に考えてるとは思っていなかったから、相づちするように聞いたよ。
「前世の記憶」
バヤールとジョゼフは同時に吹いたよ。
「謎の少年の次は転生少年かよ」
「オカルト入ってそうだな。前世ってどこの誰だったんだよ」
ジョゼフは軽い気持ちだったけど、リアムが真剣な顔をしていたよ。
「こいつ天然か?」
バヤールはヒソヒソとジョゼフに言ったよ。
「さあな」
リアムは思考に入っていたけれど首を振ったよ。
「多分。俺の前世はエルスターの人。習ってないのにエルスターの言葉がわかるんだ」
「へぇ。『何を話してるかわかるか?』」
バヤールがエルスターの言葉で話したよ。
「何を話しているかわかる?でしょう?」
「普通にわかってるじゃん、お前」
「ちょっとイントネーション違うけど」
「だろうな。お前は田舎少年だし、なまってんだろうよ。ま、俺も現地人からは巻き舌酷いって言われたことあるけどな」
「俺はなまってないよ。言葉は時と共に変化して…」
伝わらないこともある。
急に思い出してリアムは口を閉じたよ。
また思い出そうとするけど、消えてしまったんだ。
途中で話すのをやめたから、バヤールは怪訝そうにしたよ。
「どうした?」
「何でもない。早く登録しないと受付しまっちゃうからね」
リアム・アルクと書いて、次は出身地とあるからこれまた困ったよ。
「どこどこ領って大雑把で大丈夫だぞ」
「そうなんだね。教えてくれてありがとう、ガレオ」
ガレオは素直なリアムに照れたのか、頭を掻いたよ。
シャルルとは性格が違うようで、調子が狂ってるみたい。
書き終わると窓口に提出して、しばらくすると組合員である会員証をもらったよ。
へへと笑いながらリアムはガレオたちに会員証を見せたよ。
「登録できた」
「おめでとう。もうすぐ夕飯ね。ごはんは何が食べたい?」
アルマンがリアムの腕を組んでいると、組合に来た傭兵たちが、アル姐の恋人かと言うものだから喜んじゃってるみたい。
「リアム。少しは嫌がった方がいいぞ?」
長年アルマンの被害にあっていたバヤールがこそこそ助言をしたよ。
「親切にしてもらってるし…」
「田舎天然少年。都会の荒波に揉まれて世の中を知れ」
「何を言ってるの?バヤールちゃん!純粋で可愛いリアムちゃんを穢さないでよん!」
「飯はどこにいくの?」
ジョゼフは若干マイペースさんらしいね。というか、リアムが純朴さを失おうがなにしようが、興味はないみたい。
「昼間呑み損ねたから、呑みに行くか」
ガレオがどこ行くかとジョゼフたちにお店の話をしはじめたよ。
「あ…。魔法具試せるところってある?」
買った魔法具を触りながらリアムはそわそわしていたよ。
「キュン死、キュン死~」
「アル姐、うるさいぞ。組合の練習場もあるが人がたくさんいるし、ルーキーは絡まれることが多い。
汚いが安くて射撃場もついている店を紹介してやるよ」
「本当?やった」
「あたしが教えてあげるわよ」
ジョゼフとバヤールは先に飲み屋に行ったよ。
ガレオに教えてもらった練習場は、摩天楼がそびえ立つ整備された首都の顔から一変して、ゴミが捨てられ、崩れそうなビルや建物が並んでいるエリアだったよ。
「治安はあんまりよくないから、ここに来たかったら俺やアル姐に声をかけろよ。
タダで飴とか菓子くれる奴がいるが、絶対に受けとるな。麻薬だからな」
「麻薬…」
リアムはガレオたちに挟まれて歩いていたけれど、路上にいる人たちの視線を感じていたよ。
カモがいないかってね。
リアムは気を引き締めると、都会に慣れてないとバレて逆に狙われるとガレオに言われてしまったよ。
「都会って怖いね」
「こんなんで怖がってたら傭兵は勤まらないぞ?」
あははと笑って、ふと横にいるガレオの先の細い路地に、妙に細い子どもが大人に連れられて建物に入っていったよ。
「リアム。あそこは俺らには関係のない世界だ」
「どういうこと?」
「あくまでも噂よ。この辺りは人身売買をしてるお店があるんだって」
アルマンは声を潜めて、少し嫌そうに言ったよ。
「マリアスさんから聞いたけど、本当にあるんだね」
「リューリッシュは人も金もモノも集まる。だが輝かしいものばかりが集まるわけではない」
「ガレオ、その言い方かっこいいわよ。博知識っぽくて」
「だろう?」
リアムは笑うと緊張が溶けたよ。
目的のビルは、ひび割れたコンクリートの壁と床がむき出しになっていて、老人が一人カウンターにいるだけで、お店に誰もいなかったよ。
繁盛はしてないのはよくわかるね。
前払いだというから、リアムはお金を払ってから練習場に入ったよ。
この時代では、魔力には血液型のように属性によってタイプが異なるということがわかったんだ。
魔力の属性変換が可能になったよ。
アニバルの時代にも変換出来たけれど、魔法具にできたのは一つの属性と一つの魔法だけしかなかったんだ。
リアムの時代には、どんな魔法でも属性変換ができるようになったんだ。もちろん、魔法のクラスが上に行くにつれて魔法具に内蔵されている魔方陣は高額になるけどね。
リアムは試しに水を生み出す魔法を火に置き換えてみたよ。
指の先から水ではなく、火が出たんだ。
「面白い!」
火の壁を作ってみたり、指で輪を描いてみたりとあれもこれもと試していたんだ。
「次は土属性を…」
「リアム。お前、本当に学校行ってないのか?」
息をするように魔法を使うから、ガレオは疑っているようだね。
「行ってないけど、知ってるんだ」
「そんなことはないだろうが」
「リアムちゃんは転生少年だもんね」
転生者かどうか本気で信じてるかわからないけれど、アルマンはリアムのことを凄いと褒めていたよ。
「ねえ、リアムちゃん。剣士じゃなくて、魔法の使い手で登録した方がいいわよ。お給料もいいし、後方で戦うから傭兵や一般兵とは違って危険は減るわ」
一般兵とは、平民や魔法を使えない正規の兵だよ。
コアがあっても、いくらか呪文を覚えていないと戦えないから、魔法の使える人たちとは待遇が違うんだって。
「俺は…」
リアムはプラット村で奴隷のように働かされたから、偉い人に魔法がたくさん使えると知られると同じ目に合うと思ったことを話したんだ。
「なるほどな。しかもシャルルの息子と分かれば、国は英雄の再来とかいってお前を一番危険な場所に送り込むかもしれない」
マリアスや死んだセザールも、いい道具としてリアムが国に使われるのではないかと心配していたよ。
「あたしたちはリアムちゃんが魔法を使えることを黙っておくわね。だからあんまり魔法具で遊んじゃだめよ」
「うん、わかった」
「それで、どこまで魔法が使えるんだ?」
ガレオは訓練場には誰もいないけれど、小声で聞いてみたよ。
「雨を降らせて、畑に水を撒けるよ。エドおじちゃんはお前が貴族だったらって言ってたけど、俺は貴族には絶対なりたくないよ。エドおじちゃんを悪者にした人たちだし」
ガレオは魔法具なしで、雨を降らせるところか、幼稚な言い方にかわからないけれど、呆れていたよ。
「リアムの魔法の技量もわかったし、飯を食いに行くか」
バヤールとジョゼフのいる飲み屋へ向かったよ。




