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流刑の覇王  作者: 卯月よひら
第二章 賢王リアムの話
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11話 あなたの捨てた世界で俺は生きる

 マリアスが力作というから一丁か二丁かと思ったら、普通の大きさのものから手のひらサイズの小さいものまで合計七丁あったよ。


 絶賛作製中のもあるんだって。いくつ作るつもりなんだろうね。帝国製のコアを使わなければ天然の魔石を使うから、とても高いはずなんだ。金持ちの道楽ってやつかな?


「これはだね」


 長々と…ではなく、懇切丁寧に一丁一丁説明してくれたよ。


 たくさん説明されると、結局どれがいいのかわからないよね?


 買い手の心理も知り尽くしている商人マリアスは、迷っているリアムに手のりサイズの銃を勧めてきたよ。


「普通の大きさの銃はどこでも売っているし、安いものもたくさんある。コアを使わない小型の銃はあまりないだろう。小型のものは隠し持っておくのにいい」


 マリアスがズボンの裾をまくると小型の銃があったよ。


「隠し銃?かっこいい」


 リアムが目を輝かせると、マリアスはとても気分が良くなったみたい。


「だろう、だろう。ベルトも譲ってあげよう。これなら取り締まりをされても隠せるだろう」


「取り締まり?」


 マリアスは布を引き出しから取り出して、銃を拭きはじめたよ。


「ああ、帝国がね。コアを使わない魔法具は、犯罪に悪用されるかもしれないから取り締まりが必要だとか言っていてね。私としてはそんなおかしな話はないよ。

 連中はすべてのコアと魔法具は製造番号が振られていて、帝国が管理しているから、悪いことをしたら誰のものかわかるというんだ。

 ないものは管理されていないから悪い人たちに使われてしまうという言い分だ。盗品だったら元の持ち主が犯人とも限らんしね。それにコアを魔法具から外して、他の魔法具に付け替えることも可能なんだ。

 現にこの国ではコアだけで売っている店もある。転売も自由だ。誰がどこでつくったかもわからない魔法具が普通に露店で売られている。製造番号は帝国が売った相手までしかわからないし、その先に誰の手に渡っているか帝国にもわからないはずなんだ」


 アキバの電気街みたいなところがあって、コアが部品として売られているらしいよ。


 メイドさんいるのかって?


 貴族や金持ちの家にはいるけど、街頭でお店のチラシを配っているメイドさんはいないと思うな。


 マリアスが使い方を教えてくれると、会社の建物とは別に敷地内に小屋のようなところがあったよ。


 射撃場になっていて、いくつも人や魔物の形をした的があったよ。


「うちは銃の取り扱いもしているから、不良品がないか試し撃ちしてお客様にお売りしているんだ。もちろん来社されたお客様に試し撃ちしていただくこともある。私が作ったのも見せることもあってね」


 主に射撃場はマリアスの自作銃の自慢の場になっていると、社員さんや使用人さんは思っていたそうだよ。


 社員さんと使用人さんの違いってなんだって?


 厳密に決まっていないらしいけど、社員さんはカレ商会がお金を払って雇っている人。使用人さんはマリアスやクレマンが個人的にお金を払って雇っている人らしいよ。


 会社のお金かポケットマネーかの違いみたい。


 社員さんは製品の売り買い、会社の運営をしている人たち。使用人さんはマリアスの住む部屋のお掃除やご飯を作るハウスキーパー的な人らしいよ。


 キミたちの世界の銃とは違って、破裂音はしないんだ。だから耳当てとかせずに、リアムは撃ち方と構えをマリアスから教えてもらっただけで撃てたよ。


 初めての銃に緊張しながら、構えて的を狙ったよ。


 前にも似たようなことをしたことがあると思ったよ。長い銃身を片手で押さえて…。


「両手で持ちたかったら、片手を持ち手の下にして支えるといい」


 マリアスの声に、掴みかけていたものが霧散したよ。


「あ、うん」


 撃ってみたら、中ったからマリアスはたくさん褒めてくれたよ。


「上手い、上手い。初めてなのに中るなんて凄いな」


「…これは初めてだけど。もっと銃身が長いのを撃ったことある気がする。初めて使ったとき、魔力の込め方がわかんなくて爆発させてしまって…」


「爆発?今は魔力を過剰にこめないよう装置がついているから、滅多に爆発はしない。初めてじゃなかったのかい?」


「初めてだけど、初めてじゃない気がする」


 リアムはもう一度構えてみてから、銃を下ろしてため息をついたよ。


「思い出せると思ったのに。他の銃…魔力砲ってあったりする?」


「魔力砲?うちは骨董品は扱わないからね。若いのに魔力砲を知っているのか」


 マリアスはしきりに感心してくれていたよ。


 リアムはマリアスと銃を交互に見て、言おうか悩んでいたよ。


 クレマンは馬鹿にしなかったけど、知らないはずの知識があると言って信じてもらえるかなって考えたんだ。


「どうしたんだい?」


「あの…マリアスさんって、転生者に会ったことある?」


「転生者?ないが、なんでだい?」


「たまに知らないはずなのに知ってることがあって。俺、帝国の人と知り合いがいないのに、帝国の言葉がわかるんだ。文字もアナベルで使われている文字がわからなかったのに、エルスターの文字はわかったりして。

 魔物を倒すときも、習ってないのに殺し方がわかって身体が動いた。銃も持ったとき銃身が長いような気がして。

 あ、おかしいよね」


 マリアスが黙っていたから、恥ずかしくなってきたよ。


「エルスターの転生者?銃を持って思い出した、か。ふーむ。魔力砲、魔力砲。模型ならあったと思う。ちょっと来なさい」


 射撃場の奥に扉があって、開けると階段になっていたんだ。二階に上がると作業部屋があって、部品や作りかけの銃が置いてあったよ。


「リューリッシュは人が多くて騒がしい。ここは作業するにはちょうどいい静けさなんだ。

 この箱かな」


 大小様々な箱がたくさん積まれていて、一番下にあった長方形の長細い箱を出したよ。埃を払って蓋を開けると、リアムは息を飲んだんだ。


『これだ。俺の知っているのは』


 リアムがいきなりエルスターの言葉で話し始めて、マリアスは驚いたよ。


「リアム君?」


「持っていい?」


 マリアスが手渡すと、リアムは流れるように構えたよ。


 小型の銃とは違う手に伝わる重量感、金属の感触。


 模型だから撃てはしなかったけれど、手慣れた様子でカバーを開けると魔石を模したガラス玉が現れたんだ。


「あの模様がないね」


「神帝時代の初期のモデルだからね。コアはなかったと言われている。

 知り合いの銃マニアが作って私にくれたんだ。魔力砲には興味がなかったから、しまったまま忘れていたよ。

 前世で魔力砲を持っていたってことかな?」


「多分…。銃身に何か他の紋様があったと思う」


「銃の歴史書によると、貴族が家紋を入れていたことがあったそうだ。もしかしたら、リアム君の前世は貴族だったのかもね」


「…信じてくれるの?」


 マリアスはリアムの肩を軽く叩いて、ニカッと笑ったよ。


「転生はロマンじゃないか!神話となった王に、英雄、賢者に最上級の魔法の使い手。そして新たな人生を歩み、前世の先の未来を見られる転生。

 私は商人だから他の人から金ばかり扱って現実主義と言われているが、ロマンは捨てていないよ。ロマンなくして、人生はない!」


「マリアスさんも物語好き?俺は光の王に会ってみたい」


「光の王か。いいね。私も子どもの頃会ってみたいと思っていたよ。

 君が聞いた話はどんな話だ?」


 マロおじさんから聞いた話をしたよ。マリアスさんはうんうんと耳を傾けてから、リアムに言ったんだ。


「リアム君が話した光の王は、アナベルによく伝わっている話だ。地方によって、レナータの医者は医者ではなく、神使や聖神使だったという話がある。神使や聖神使と伝わっているのは、レナータの北の地域とギムペルが多いと聞いている。

 レナータやアナベルに伝わったのが神使・聖神使ではなかったのは、神の使いである神使が、神のごとく語られる王に教えを乞うのは格好のいいことではないと神使たちが考えたからとも言われている。

 エルスターにはあまり光の王の話はない。エルスターで光そして水といえば、シエロ教の神、始祖を意味してしまうからね」


「へえ。そうなんだ。マリアスさんは帝国が嫌いなんだっけ?だけど帝国のことは知っているんだね」


 リアムは模型の魔力砲を返すと、マリアスはしまいながら違うと言ったよ。


「帝国が嫌いなわけではないよ。コアの製造を独占しているからだ。一つの国が独占するということは競争が生まれない。競争は時に人を傷つけることもあるが、互いに高めあうことができる。帝国が独占するということは技術の停滞を招くということだ。

 帝国は人は平等といいながらも結局、大国の力に任せて弱い国々に圧力をかけて不平等な世界を作っている。

 だが、弱い立場の市民を助け手を貸す。一概には悪いとはいえん」


「クレマンさんも言ってた。コーヒー豆協会と商人について。農家に妥当なお金を払わない人たちを帝国は罰を与えるって」


「クレマンが?そうか、そんなことを話していたのか」


  マリアスは少し寂しそうな顔をしていたよ。クレマンのことを思い出しているのかもね。


「もし、俺の前世が帝国の人だったら、マリアスさんは俺のこと嫌いになる?」


「嫌いにならないさ。君はランバート王国のリアムだ。前世は関係ない」


「よかった」


 へへと笑うとあどけなさが残って、マリアスは心配になったよ。


「本当に傭兵になるのかい?」


「うん。なればわかることもあると思って。小さい頃から、村にいるべきではない、どこかに帰らなきゃって思ってて。あちこちいけば思い出すかなって」


「君が本当に傭兵になる理由はそういうことか。死ぬなよ、リアム君」


「うん。あ、何か小さな布の袋はない?」


「あるが、何に使うのかい?」


 マリアスは自作銃のコア用に入れていた魔石の袋を机から出したよ。


「これでいいかい?」


「うん。大丈夫」


 リアムはズボンのポケットから袋を出したよ。


 火の鳥の干し肉を入れていたんだ。小さく切ったのを、渡された袋に入れたよ。


「フーがいたら魔物や家畜が怖がるんだ。ニノンさんが魔物に襲われなかったのは、羽根を持っていたからだと思う。

 行商行くとき、必ず持っていってね。あ、動物飼ってたら嫌われちゃうかもしれないから気をつけて」


「これが火の鳥(オワゾ・デ・フウ)の肉か。ありがたくもらうよ」


 マリアスはポケットに袋をしまったよ。


 射撃場から誰かが階段を上がってくる音がしたんだ。女性の使用人だったよ。


「どうした?」


「会長。ニノン様のお姿が見当たりません。お食事を下げにいったら、お部屋にいらっしゃらず…。会社の方の建物も探したのですが」


「一人でどこかにいったのだろうか?車は使われていないのかね?私も探してみよう」


「俺も手伝う。ニノンさんが行きそうな場所わかる?」


 ニノンはあまりこの支店に来たことがないそうだよ。


 外に出たのかもしれないと使用人や社員さん総出で探したよ。


 リアムは射撃場の二階の窓から辺りを見回したけれど、ニノンらしき姿は見当たらなかったよ。


「食事を運んだときにはいたというから、まだ遠くには行っていないはずだが」


 マリアスも窓から顔を出して、ニノンの姿を探したよ。


 もう一度屋敷を探そうとマリアスが踵を返し、リアムは窓を閉めていてふと下を見たよ。


 木の陰に女の人のスカートが見えたんだ。


 足が浮いているように見えておかしいと思った瞬間、リアムは震えたよ。


「マリアスさん!あそこ!」


 大きく窓を開けるとマリアスは身を乗り出してリアムの指先の方を見たんだ。


 マリアスは眉をきゅっと寄せて目を細めてから、それが何かがわかるとぱっと駆け出したよ。


 リアムも後に続いて外に出て、射撃場の裏に回ったよ。


「ニノン!」


 マリアスは首を吊っているニノンの変わり果てた姿に、ああとその場に立ち尽くしたよ。


「なんてことだ…」


「マリアスさん!ニノンさんを早く下ろそう」


 リアムの声に我に返ったマリアスはニノンの身体を支えて、リアムは木に登ってロープを切ったよ。


 首からロープを外して、リアムは急いで治癒魔法をかけたけれど、ニノンの脈を取っていたマリアスがもういいと言ったよ。


「でも!」


「もう死んでいる」


 涙を流した痕を見つけ、ハンカチでマリアスはニノンの顔を拭ってやったよ。


「なんで、死んじゃうんだよ。せっかく、助かったのに!」


 リアムはニノンが自殺したことを受け入れられなかったんだ。魔物に襲われて絶望的な状況でただ一人生き残った。助けられたというリアムの誇りになったんだ。


 初恋の人に罵られて傷つけられたとしても。


「リアム君。彼女の人生はつらいことばかりだった。この世にいること自体が彼女にとって苦痛だったのを、クレマンが救った。そのクレマンがいなくなって絶望したのだろう」


「死ぬほどつらいことって何?俺だって育ての親に犬扱いされて、必要のない人間だと思ったことあったけど、生きていればクレマンさんやマリアスさんみたいにいい人たちと出会えた。

 何で…何でだよ!」


 涙でグシュグシュになったのを拭わずに、何でと繰り返していたよ。


「会長」


 ニノンの発見を聞いて社員さんが医者と兵士を連れてきたんだ。医者が正式にニノンの死を告げ、兵士が事件性がないか聞き取りをしたよ。


 来た兵士は、クレマンたちが襲われたときにリアムと一緒に向かった兵士だったよ。


「傭兵の坊主。まだいたのか。嫌なもの見ちまったな」


「助けられなかった…」


「くよくよするな。お前のせいではない。死を選択したのは彼女だ。そこまで傭兵が背負うことはないし、そもそも契約終了後の事故はお前とは関係ないだろう?」


 そもそもクレマンに雇われていなかったしね。


「そう、だね」


 と言うものの、リアムは納得していなかったけれど。


「お前さん。リューリッシュに行くんだってな。帝国が宣戦布告したから、兵の募集が始まった。俺らも駆り出されるかもしれん。また会うかもな」


 ポンポンと肩を叩いて、兵士さんは行ってしまったよ。


 マリアスもリアムに行きなさいと言うから、後ろ髪を引かれる思いでカレ商会を後にしたんだ。


 

 ニノンが受けた死にたいほどの苦しみをリアムは知らない。


 酷い人間もいるし、救いのない世界だということは知っている。



 そんな中でも、クレマンやマリアスのような優しい人もいるし、兵士さんのように見ず知らずの少年傭兵に気遣ってくれる。


 優しい人たちがまだいるのに、ニノンはこの世界はつらいことしかないと生きることを諦めたんだ。

 

 リアムは重い足取りで進み、一度振り返ったんだ。


 あなたの捨てた世界で俺は生きる。


 荷物を背負い直して、前を向いて歩きだしたよ。

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