10話 望まぬ奇蹟
横転したり、追突したトラックから銃が連射されていたけれど、魔物は窓ガラスを破って、中の人を引きずり出そうとしていたよ。
リアムたちのいる場所は銃の射程距離からは遠く、攻撃できずにいたんだ。
一台のトラックの運転手が引きずり出された途端に、黒い魔物たちが群がったよ。
「くそ!一人やられた!」
「もっとスピードは出せないの?」
「傭兵のガキは黙ってろ!」
アクセルを全開にしていても、まだまだ遠かったよ。
クレマンたちの車は横転したトラックに阻まれ、荷物が散乱していて動けなくなっていたんだ。
また一人と引きずり出されて、魔物が貪っている間に車から出て群れに向かって銃を撃っている人がいたんだ。
「マルタン!」
マルタンの生存に安堵したけれど、銃で魔物に傷を負わせただけで殺せなかったみたい。一体がマルタンへ飛びかかって、首を噛んだんだ。
「マルタン!!」
マルタンの首は胴から離れ、黒い魔物が飛びついたんだ。
「あ…そんな」
「ガキ、戦闘初めてか?なんでついてきた。ショック受けてる場合じゃない。そんなんじゃ次はお前が食われるぞ!」
兵士は銃身が長い銃を構えながら叫んだよ。こちらに魔物の注意を引き付けるように連射したんだ。
遠いためか中らなかったけれど、中ったら危険だと思ったのか魔物はパッと車から離れたよ。
いくつかの血溜まりと食い散らかしたあとが道にあったのが見えたよ。一体がエルヴァの腕を口に咥えていたんだ。
リアムは怒りで身体が震えたよ。
「魔法なら射程圏内だったのに、どうして使わなかったんだろう」
「何言ってるんだ。大砲クラスじゃないと届かないぞ!」
あと少しだと兵士たちは窓から身を乗り出して銃を構えてたよ。
向かってきた一体の魔物が急に止まって、倒れたんだ。
「爆ぜろ」
リアムが言うと倒れた魔物の口から血が溢れて、痙攣していたんだ。
「何が起きた!」
兵士たちは戸惑っているとリアムは剣の柄に手を置いたよ。
「心臓を魔法で潰しただけだ」
「心臓?そんなこと出来る使い手はほとんどこの国にはいない。十六年前の戦争でみんな死んでしまった」
「そんなこと今はいいだろう?俺を降ろしてくれないか?車に乗ったままだと剣が振れない」
「銃はないのかよ!馬鹿かお前は。ルーカニバルは牙と爪に強化魔法をかけられる。普通の防御の魔法具では食いちぎられるし、至近距離の攻撃は自殺行為だ」
魔物が次々とこちらに向かってきたんだ。一撃では死なず、なおも迫ってきたよ。
やむ終えず車を停止すると、リアムは降りて魔法で近くにいた魔物の脚の血を逆流させて動きを止めたんだ。動かなくなった魔物の首を剣ではねたよ。
「剣で!あいつ何者だ?」
兵士は撃つのを忘れてリアムを見ていたよ。というかリアムが魔物の近くにいたから撃てなかったんだ。
リアムは魔物の脚を止めては首をはねて、脚を止めてとやって埒があかないことに気づいたよ。
「ここは土と水があるね」
魔物たちを一斉にぬかるみにはめて、一体ずつ殺していったよ。魔物が動かないとみて、兵士たちも車から降りて倒していったよ。
「なんなだあいつ!あんな魔法見たことないぞ」
若い兵士はリアムの異様な強さに手が震えていたんだ。
「ランバートの英雄…」
中年の兵士が呟くと、この場にいた年長の兵もそうだと言い始めたよ。
「水葬のシャルル。あいつは土に細工をして敵がぬかるみにはまってる間に、水魔法で溺死させた。だから水葬なんて物騒な二つ名がついた。あいつはあの男にそっくりだ」
兵士たちが残りを殺してくれるとわかって、リアムは怪我人を探したんだ。
可視化魔法でトラックの陰に人を見つけたよ。駆け寄ると片腕と片足を失ったセザールが倒れていたんだ。
「セザール!!今止血するから」
リアムが仰向けにすると防御の魔法具は粉々に壊れて、胸には大きな引っ掻き傷があったんだ。
「あの魔物。防御魔法具が効かなかったんだぜ。驚きだ。お前がここにいるのも驚きだが」
「兵士に送ってもらった」
「の、ようだな。お前。すげえ強いじゃねえか。シャルルより強いんじゃないか?」
「見てたの?」
「足止めして首をはねたところをな。リアム。お前は名前の通り、強い戦士だ。お前は傭兵になるな。十分強いし、一人前だ。エド…様と一緒にこの国を出ろ」
「セザール。喋らないで!血が止まらない」
「もう目の前が真っ白で、耳が聞こえなくなってきた。さ、むい。
リアム。お前は、親父み、たいになる、な。国に、使われ、て捨て、られ、るだけだ。エドガール様と、一緒に逃げ…て、生き…」
セザールは半分口と目が開いたまま、心臓が止まったよ。
「セザール?セザール!!嫌だ。死なないでよ!」
「生存者がいるぞ!」
兵士が叫ぶとリアムはそっちに走ったよ。
呆然とした様子のニノンがベコベコに潰れた車から救出されたんだ。
「あの、人は?娘は?」
「車にはいないようです」
「娘が車から投げ出されて、あの人が…」
リアムは周囲を確認したくなかったよ。でもゆっくりと車の周りを見たんだ。
胴と首が離れたクレマンらしい遺体と、そばにモニクの服らしい切れ端。
「嘘よ。なんで?私が生き残るの?モニクはまだ三歳なのよ!何したっていうの?あの人はこんな私を愛してくれたのに。私に優しくしてくれた人は、みんないなくなるの!」
「奥さん、落ち着いて」
「ニノンさん。よかった。あなたが生きていて」
リアムはみんな死んだと絶望的な気持ちになっていたから、ニノンが生きていて心が少し明るくなったんだ。
ニノンはリアムに近づいて突き飛ばしたよ。
「よくなんかないわよ!傭兵がなんで生きてて、あの人は死んだのよ!役立たず!」
兵士がニノンとリアムの間に割って入ったよ。
「落ち着いて。彼は我々と…」
「やっと幸せになれると思ったのに!幸せはすぐになくなってしまう。
…殺してよ。あの人のいない世界で生きていけない。こんな理不尽で優しくない世界で、どうやって生きていけというのよ!私をあの人とモニクのところに行かせて…」
「ニノンさん、家族は…」
「いないわよ。全部消えちゃった!全部、全部全部!!」
ニノンは泣き崩れ、兵士に抱えられながら、あとから来た車に乗ったよ。
「傭兵の坊主。気にするな。傭兵も兵士も遺族に罵られることはいくらでもある。
その髪と顔立ち。お前、水葬のシャルルの縁者か?」
リアムは話す気力もなくて、黙って頷いたよ。
「そっか。道理で強いと思った。俺らも行くぞ」
年長の兵士がバシッと背中を叩いたけれど、鈍い痛みにしか感じなかったんだ。
リアムはニノンとカレ商会のデジャルダン支店に行ったんだ。
商会の人たちはニノンを励ましていたけれど、ニノンは自分の殻に閉じ籠ったように部屋から出なかったんだ。
リアムはニノンが心配でリューリッシュに向かわず、クレマンの伯父でカレ商会の会長という人を待ったよ。
翌日、六十代くらいの男の人が慌てた様子で建物に入ってきたんだ。
その後少し経ってリアムはカレ商会の会長という人に呼ばれたよ。
マリアス・カレに会ったとき、リアムはクレマンに似ていて泣きそうになったよ。
「傭兵のリアムといいます」
「傭兵?君が?クレマンが雇ったのは中年の三人の男だ」
事情を説明してほしいと個室に呼ばれて、会長と二人きりだったんだ。
「傭兵志望と言った方がいいかもね」
列車を間違えて降りた駅で困っているところをクレマンが助けてくれたことから、魔物に襲われたところまで話したんだ。
「そのままデジャルダンに入ってれば…。クレマンは私のいる支店に行こうとしたのだろう」
両手に顔を埋めてしばらく会長は動かなかったよ。ふうと息を吹き返したように吐くと、顔を上げたよ。
「取り乱してすまなかった。ニノンさんを助けてくれてありがとう」
「俺は他の人を助けられなかった。彼女が助かったのは奇跡だった」
「そうだな。神が起こしてくださった奇蹟なのだろう。
でもどうして彼女が助かったのか不思議だ。か弱い女性が真っ先に狙われてもおかしくないのに。
これと関係しているのかな?」
会長は机からリアムが預けた羽根の入った箱と封筒を出したよ。
「彼女がこれを持っていた。依頼主は君で合っているかね?
火の鳥の羽根は私も図鑑でしか見たことがなかった。とても貴重で頭の飾り羽根ならば数億オーロになるだろう。
これはとても状態がいい。大金の取引はまだクレマンには任せてはいなかったが、あの子は勝手にやったようだね。
この契約書には私の名前、マリアス・カレの名があるが、私がクレマンの代理人になっていいのかな?」
「いいです。俺はクレマンさんにとても親切にしてもらいました。羽根を持ち歩くのは危険だと思ったし、預けた方がいいかと思って」
「その方がいいだろう。
展示においての収入か。展示というのはクレマンの提案かね?」
「俺です。売ったお金はそのまま俺にくれる代わりに、手数料として展示の収入をクレマンさんが受け取れることにしました」
つい昨日までクレマンと話していたのが嘘のように感じていたよ。涙がこみあげて来たんだ。
「傭兵になるんだってね。傭兵は昨日一緒いた仲間が今日死ぬ。そういう世界だ。
君は優しそうな子だ。傭兵なんてやめて、うちの従業員として働くといい」
「クレマンさんにも誘われた。でも俺は親父がやってきたことを知りたいし、一人前になりたくて」
「一人前になるのは何も傭兵になることではないだろう?」
リアムは口をつぐんだよ。嘘をつけるような余裕はなかったんだ。
黙っていると会長・マリアスはペンをとって、契約書にサインをしようとして手を止めたよ。
「この羽根の出所を聞いていなかったね。一応盗品ではないか確認したい」
「俺の暮らしていた村の森で見つけた。どこだとは言えない。その羽根は死んだ火の鳥のもので、ヒナがいた」
場所を伏せたのはフーが巣立ちしてその森にいるから、欲をかいた人がフーを捕まえるんじゃないかと心配したからと説明したよ。
マリアスは目を輝かせたよ。
「貴重な話だ。是非本にしないかね?」
クレマンそっくりでリアムは吹き出したよ。伯父のマリアスにクレマンが似たといった方がいいかもね。
「クレマンさんも同じこと言ってた。俺の話を信じない人もいるだろうし、フーで金儲けしたいと思わないから断るよ」
「ああ、そうかい」
マリアスはポリポリと頬をかいたよ。ちょっと恥ずかしかったみたい。
マリアスには跡取りがいなくて、クレマンが幼いときに両親を車の事故で亡くしてから引き取って育てたんだって。
クレマンを自分の息子のように可愛がり、跡取りを失って、マリアスはとても悲しかったけれど、涙は見せなかったよ。
「ニノンさんは大丈夫ですか?食事もしていないみたいだけど」
「彼女は天涯孤独の身でね。魔物に住んでいる地域が襲われて、彼女だけ生き残ったそうだ。孤児になった彼女を引き取ったのは、裏で人身売買をしている人間だったようで、売られてしまったんだ。とても酷い扱いを受けたようでね。
色々売られていったところに、たまたま働いていた取引先のお宅に行ったクレマンと会ってね。クレマンが彼女に惚れたんだ。
やっと幸せになれたはずなのに、今回のことがあって立ち直れるか…」
マリアスがニノンに神が起こした奇蹟だから、クレマンとモニクの分まで生きなさいと慰めたんだ。別の部屋にいたリアムにもニノンの叫び声が聞こえたよ。
「そんな奇蹟いらないわよ!だったらクレマンが生き残ればよかったのよ。こんな私ではなくて!伯父様もそう思ってるんでしょう!
私をいつ奴隷商に売るの?」
「ニノン。私にとって君は娘みたいなものだ。捨てたり酷い目にあわせたりしないから」
「嘘よ、そんなの嘘!そういって騙して私を売るのよ!」
リアムは聞くのが堪えられなくなって、外に出たんだ。
外で商談でもするのか、テラスがあってちょっとしたお庭になっていたよ。
眺めて気晴らしにしようとしていたところ、マリアスが呼んでると使用人に言われてこうして二人は向かいあっていたんだ。
リアムはエドおじさんから奴隷はいないと聞いていたから、あれっと思ったようだよ。
「奴隷商っているの?」
「いない。禁止されているから、裏とか闇という言い方をして、人を売り買いしている。
奴隷という身分はなくとも、金銭的に心情的にその人が逃げられない状況にして、搾取するのは奴隷だよ。
残念ながら、本人の意思という理由で搾取する側は主張するからなくならない。この国はそういう人たちで支えられている部分もある。
商人として、善良な市民として、できる限りのことはやっているが、国が腐敗してはな。
悪い。若者に話すようなことではなかったね。
リアム君は剣士のようだが、銃を持たないのかね?」
「え?剣士でも銃は必要なのかなって思ってたけど、買う機会がなくて」
「これから買うのかい?私の力作をあげよう」
「いいの?」
そういえばクレマンがマリアスは帝国製のコアなしで、銃を自分で作ってるって言っていたよね。
マリアスはいい人だなとリアムは思いながら、マリアスの後についていったんだ。
卯月「前作でも後書きで書きましたが、家のネット環境が死んでいるので、スマホでチマチマ文章を書いています。
最近そのスマホの調子が悪く、もしも投稿が滞っていましたら、こいつのスマホついに死んだんだなと思ってください。
スマホの話題のついでに、文字予測してくれる機能は便利ですが、とてもトラップが多いのです。覇王を文章化するにあたり、えっとなったり、クスッとなったことをご紹介します」
テラ「そんなことで、ボクを呼んだの?」
卯月「でははじめに…」
テラ「無視?最近キミ、無視多くない?」
卯月「テラ→寺」
テラ「トップバッターはまさかのボク!日本語でテラってお寺くらいしかないよね」
卯月「ルド→ルドラ」
テラ「ルドラって誰?」
卯月「デスペハード→デスペラード。これ一番誤字でやってる気がします」
テラ「ならず者の帝国!物語変わってしまう!ある意味悪の帝国」
卯月「エドおじさん→江戸おじさん」
テラ「ハイドランジアにない日本が出てきてびっくりするね!」
卯月「エドガール→江戸ガール。予測出てきた瞬間に吹きました」
テラ「エドおじさんの本名がついに出てきたと思ったのに、変なイメージついちゃうじゃない!江戸好きな女の子。あるようでなさそう」
卯月「また面白い誤字変換ありましたら、お知らせします」
テラ「それより、お話進めようよ。公園だと会えないときあるからさ。住所教えてよ。ボクが無料で出張してあげるよ」
卯月「絶対に来ないでください」




