52
卒業の半年前になると、僕たちは結婚について具体的に話しあい、卒業の1年後に籍を入れようということになった。
料亭の完全個室で両家の顔合わせを兼ねた和やかな会食後、親達は先に帰ったが、まだ貸し切りの時間が残っていたので、僕たちは残っていた。
「義兄さん、姉さん、改めて、結婚おめでとう。」
義弟が爽やかに祝福してくれる。
「ありがとう。」
彼女が涙ぐんでいる。
義弟が、僕に向かって、にこやかな顔で言う。
「義兄さん、お願いがあるんだ。」
僕が笑顔で促すと、義弟が爆弾発言をする。
「僕は姉さんとこれからも関係を続けたいのだけど、いいかな?」
・・・・・・・・・は?
「キスして、姉さんを裸にして触るけれど、許して欲しいんだ。」
義弟は、爽やかに、爽やかに!言う。
僕が慌てて彼女を見ると、目を潤ませて喜んでいる。
僕はめまいがした。
「妊娠はさせない。僕は弟だから。」
「当たり前だろ!」
僕はかっとなって怒鳴った。
「そうよ! 当たり前でしょ!」
珍しく、彼女も怒っている。
「私は弟と裸で抱き合っても、それ以上のことは何もしないわ!」
見損なわないでよ!と、言いたげだ。
これが他人だったら、二股疑惑で即別れさせるのだけれど、この二人は姉と弟だ。別れるも何も、付き合ってすらいない。
「裸で、抱き合う、だけ?」
僕は彼女に確認する。
「そうよ! 他に何があるの?」
彼女は、僕の目を真っすぐ見る。
僕は義弟を見た。
義弟はかなり衝撃を受けているらしく、固まっている。
裸で、抱き合う、だけ。それって、生殺し?
「全く、私をなんだと思っているのよ! あなたとすら、必要なときにしか、しないつもりなのに! ね!」
彼女が僕に同意を求める。
え? しないの?
「そうよね?」
彼女はにこやかに、僕に確認する。
「そうだね、、。」
僕は無理して笑顔を作る。
彼女は満面の笑みで、僕と義弟を交互に見た。
「私を幸せにしてくれて、ありがとう。」
僕は笑うしかない。
彼女が幸せで、僕も嬉しいのだから、まあいいだろう。
義弟は爽やかさに欠けるものの、笑顔になっている。
よっぽど姉が好きなんだな。男として抱き合うわけではないのだから、見逃してやるか?
姉離れできない可愛い義弟に、僕は情をかけてやることにする。
彼女が、席を立って僕の頬にキスをした。素早く動いて、義弟の頬にもキスをする。
「愛してる。」
彼女が嬉しそうに言う。
おい! それは、どっちに言った台詞だ?!
義弟が、彼女の頬にキスを返した。
「愛してる。」
二人が見つめ合いそうなのをぶった切るように、遅れて僕も、義弟が触れた頬の反対側の頬にキスをした。
僕は彼女の腰を抱いて、彼女の耳元にささやく。
「愛してるよ。」
彼女の耳が赤く染まっていく。
義弟の視線が痛いほど刺さるが放置する。
「お兄ちゃん!」
食後に席を離れていた妹が戻って、可愛い笑顔で僕に寄ってきた。
「結婚、おめでとう!」
「ありがとう。」
妹に祝福されるのが、とってもうれしい。
「お義姉さま、これからよろしくお願いします。」
「私こそ、よろしくお願いします。」
義姉と義妹の麗しい挨拶だ。
「お兄ちゃんはよく私と一緒にいるので、お義姉さまと過ごす時間は少ないかもしれませんが、兄妹で仲良くしているだけなので、許してくださいね。」
「大丈夫よ。私も、弟のところに入り浸ると思うから、心配しないで。」
何の会話だ?!
義弟が笑い出した。
「おい! わかっているだろうな!」
義弟に、姉離れを促すように声をかけると、義弟が爽やかな笑顔で言いやがった。
「ええ、わかっています。姉が妊娠するようなことがあったら、義兄さんの妹も、すぐに妊娠しますよ。
大丈夫です。僕が責任とって結婚しますから。」
なんだか納得できない。
妹を見ると、得意げな顔になっている。
「お兄ちゃん、離れて暮らすと寂しいから、近くに住もうね。」
「そうだよな。お兄ちゃんから離れると、寂しいよな。」
妹が悲しそうに言うので、調子を合わせて言う。
「それなら、兄さんが所有しているマンションに空きが二部屋あるので、そこに住みませんか?同じマンション内だと、行き来が楽ですよ。」
「それ、いいわね!」
「わあ!いいな!」
義弟の話に、彼女と妹が喜んだ。
「ちょっと待て! 家賃は? 場所は?」
話がスムーズ過ぎて、ついていくのに必死だ。
「僕たち姉弟が兄さんから借りるので、家賃は払わなくていいそうです。」
気前のいい人なんだな。彼女が家族同然と言っていたのも頷ける。
「場所は僕たちの自宅からすぐですよ。」
義弟はとってもにこやかだ。
家賃がタダなのはとてもありがたいし、断る理由もない。
何より、彼女と妹が手を取り合って喜んでいる。
この二人、仲良くなったんだな。
同志よ!という言葉が聴こえる。何の同志だ?
問題はあるものの、なんとかなりそうなので、僕は良しとした。
僕たちは入籍と同時に引っ越した。この春大学を卒業し、就職する妹も一緒だ。
母は、義弟が学生の身分で結婚することに反対どころか真っ先に賛成して、父を説得していた。
「早い者勝ち」「玉の輿」「ネタの宝庫」
家の中で、母と妹が楽しそうに話している内容に、かなり引いた。
母と妹は、ある特殊な趣味を分かち合う、友達のように仲のいい母娘だ。結婚しないつもりだった妹の結婚相手を知ったときから、母は妹と共に積極的に結婚に向けて準備していた。
引っ越し場所は、妻の実家と同じマンションだ。義弟が幼児期にマンション内の住人にいたずらされそうになったので、妻の両親の友達がマンション内の部屋を順に買い取ったとか。話を聞いたときにはどんだけ資金力があるのかと、顔が引きつった。
僕と妻、妹と義弟がそれぞれの家で同居する。
荷物はそれほどないので直ぐに片付き、僕たちは四人で外で夕飯を食べ、それぞれの家に帰った。
同居初日の夜、お風呂から出てきた妻を後ろから抱きしめて耳にキスすると、妻が僕の方に身体の向き変えてきいてきた。
「子供の名前、考えてある?」
え?! もう、作っちゃっていいの?!
妻の少し潤んだ艶めく目を、僕は目をそらせずに見ている。
「そうだね、考えておくよ。」
僕は続けて「今から作ろうか?」と言おうとして、唾を飲み込んだ。
インターフォンが鳴る。無視して妻にキスしようとしたら、また鳴った。
前にもあったパターンだけど、もう、無視していいよね?!
僕のスマホの着信音がする。同時にまたインターフォンが鳴った。
僕が仕方なしにスマホに出ると、相手は妹だった。
「お兄ちゃん、ドア開けて!」
なんだ? 何かあったのか? あの義弟がやっぱり嫌になったのか?!
僕は急いでドアを開けた。
「お兄ちゃ~ん!」
妹が僕に抱き着いて来るのを僕は受け止め、家に上げた。
「私ね、お兄ちゃんといないと、寂しい!」
おお! 僕もだよ。でもね、今夜は同居初日だし!
僕がちらりと妻をみると、妻は笑顔で自分のスマホを持って立ち上がっていた。
「お兄ちゃん、私、今夜ここに泊まりたい!」
僕が妹を落ち着かせようとしている間に、妻は自分の部屋に行って部屋着に着替えていたようだ。
「弟のところに泊まりに行くから、今夜は義妹と一緒に過ごしてね。」
妻はさきほどと変わらない笑顔で僕に言った。
え? 何もしないの?
「お義姉さま、こちらは心配なく~!」
妻は妹を優しい目で見て、そのまま玄関を出ていってしまった。
僕は茫然とした。今夜は記念すべき、同居一日目の夜なのに!
「あのね、お兄ちゃん。」
妹がさっきと打って変わって落ち着いた様子で、僕の前に座って話し出した。
「私、お兄ちゃんのことが、好きなの。一緒に寝ちゃ、ダメ?」
首を横に倒して、妹が僕にお願いをしている。
そんなのもちろん!
「いいに決まってる!」
妹は、可愛いのだ。
僕は真剣な顔で頷いた。
次回から、第4章に入ります。




