14 姉 4
お兄ちゃんが家に戻って来てから、私は浮かれていろいろとしくじってしまった。
弟のことも友達のことも、私はもっと気を引き締めないといけない。
私はやっぱりお兄ちゃんが好きだった。
友達と、告白の報告をすると約束してしまった。
付き合うとか、結婚するとかということに、本当は興味がない。
でも、お年頃?の私が、誰ともそういう関係になっていないということは、悪い意味で人の関心を引いてしまう。
ほどほどの時期に、私にそこそこの好意を持ってくれる人と、普通の関係を結ぶのが一番楽だと思っている。
その点、友達は全ての条件を満たしている。
私たちは同じ年齢で、同じ思考で異性と接し、世間的に問題なく普通に付き合っていられる。
お兄ちゃんへの告白は、タイミングが難しい。昼間、お兄ちゃんと二人きりになれる時間がほとんどない。
下の階に行くことは、お兄ちゃんのプライベートを守るため禁止されている。
父さんが言うには、「親しき仲にも礼儀あり」、だそうだ。
お母さんが下の階によく行くのでお父さんに文句を言うと、お母さんは特別なのだと言った。
お兄ちゃんはお母さんの親友で、プライベートを共有しても問題ないらしい。
お兄ちゃんに抗議しても同じことを言うので、仕方がないのであきらめた。
お兄ちゃんへの告白は、付き合って欲しくてするものではない。
付き合わなくても、お兄ちゃんはすでに私の家族で、一緒に住んでいる。
私は単純に私の気持ちを伝えて、お兄ちゃんに私の気持ちを知って欲しいだけなのだ。
だから、断られても全く構わない。
お兄ちゃんとの関係が変わるわけではないし、お兄ちゃんが私を避けることはないと、私は知っている。
断られても構わないけれど、せっかくの告白だ。
お兄ちゃんと二人きりで話したい。
私はお兄ちゃんにわざわざスマホで二人で会いたいと連絡して、おやつの時間にお兄ちゃんと下の階のリビングで会った。
上の階と下の階を繋ぐ階段は、それぞれの入口にドアがあり、普段は鍵をかけている。
完全二世帯の造りだから、玄関は別々にあるので、外出はそれぞれの階からできる。
今日は連絡を入れたので、お兄ちゃんが特別に下の階のドアの鍵を開けてくれている。
リビングでは、お兄ちゃんが紅茶とクッキーを用意して、私のことを待ってくれていた。
お兄ちゃんはいつもの笑顔を私に向けて、私に座るようすすめてくれた。
「好き。」
私は座ってすぐ、唐突に告白した。
お兄ちゃんは向かい合った席から、私を優しい目で見て微笑んでくれた。
「ありがとう。私のことをずっと好きでいてくれたんだね。」
「え?知ってたの?」
「5歳のときに、お父さんとお母さんの前で、私と結婚する、って言ってくれたよ。」
え? えー? そんなことあった?
私が記憶を掘り起こそうとして考えていると、お兄ちゃんが私の目を見て言った。
「約束通り、大人になってから告白してくれたから、私もきちんとこたえるよ。」
お兄ちゃんは、とても澄んだ目で私を見ている。
「私には、ずっと好きな人がいるんだ。私はその人としか恋愛しないし、私はもう、その人のものだから、他の人に心をあげることができない。」
お兄ちゃんは強い意志を感じさせる目をしている。
「お兄ちゃん、、、恋人が、いるの?」
私は今、どんな顔をしているんだろう。
「恋人ではなくて、妻がいるんだ。」
「お兄ちゃん、結婚してるの?!」
私は驚いて、少し声が大きくなった。
「正式な結婚ではないけどね。」
お兄ちゃんは、とろけるような優しい表情で、私ではないところを見ている。
私はフラれた。完全に、フラれた。でも、ショックではなかった。
どうしてなのかわからないけれど、悲しくない。もしかしたら、失恋の痛みは後からくるものなのかもしれない。
それにしても、「正式な結婚ではない」というのはどういうこと?
お兄ちゃんの考えはわからない。
婚姻届を出せない事情があるのか?
何か主張があって婚姻届を出さないのか?
流石にそこまで質問しづらい。
私は普通にお茶とクッキーをご馳走になって、そのまま部屋に戻って練習に付き合ってくれた友達に連絡した。
『やっぱりダメだった。』
『僕の家においで。』
私は夕方に、素直に友達の家に行った。
友達は私を出迎えてくれた。テーブルの上に、つまみや酒が並んでいる。
「こういうときは、飲もう。」
友達が明るく言う。
私は初めてお酒を飲んだ。
ビールは苦いので、飲めなかった。
缶に入っているチューハイは、ジュースみたいに美味しいものがあった。
「飲める味のものを飲むといいよ。」
友達は、私が缶を開けて一口飲んで、美味しいと思ったものだけを飲ませてくれて、他は自分で飲んでいた。
子供の頃のお菓子パーティーに、ジュースのようなお酒が加わっている。
お菓子の種類は少し違って塩分のあるものが多いけれど、酒のつまみだからちょうどいい。
私は友達に、お兄ちゃんのことをたくさん話した。
お兄ちゃんはお父さんの代わりで、かっこよくて、優しくて、素敵で、綺麗で、私のことを甘やかしてくれる。
一つ一つ、思い出を語っては、お酒を飲んでいく。
美味しいジュースみたいなお酒は、どんどん私のお腹に入っていく。
頭がふわふわしてきて、お手洗いを借りようと立ち上がると、足元が覚束なかった。
友達が心配して私を支えようとするのを断って、私はお手洗いの後に手を洗いながら、備えつけの鏡を見た。
お酒に酔った、みっともない私の顔があった。
私が部屋に戻ると、友達がコップに水を入れて渡してくれた。
私はお礼を言って受け取り、飲みたいだけ飲んだ。
友達がコップを受け取り、そのまま私の腰に手を回す。
抱き寄せられ、そのままキスをした。
友達のキスで、私の頭は一気に冷えた。
顔を離した友達の目に、火が灯っている。
この人は、思っていたよりも純粋で、情熱的な人なのかも知れない。
少しだけ、胸が痛んだ。




