13
彼女とは、サークルの合宿でやっと会えた。連絡をしないと、僕たちは二人で会うこともままならない。
最後に彼女に会った日のことを、僕は繰り返し思い出していた。
彼女の告白を、僕はたくさん受けた。
でも、最後に会った日の告白は、僕に向けられたものだった。
僕に向けられた告白に、熱はこもっていない。友達に対する「好き」の気持ちを、彼女は僕に示してくれた。
彼女には、好きな人がいる。それは僕ではない。僕ではないけれど、彼女はフラれるのだから構わない。
僕は友達のまま、彼女と付き合う。
愛とか恋とか執着といった面倒な感情のない、気楽な付き合いの方が後々うまくいく。
僕たちは、きっと気が合う。
僕は彼女を他の人から離れたところに連れ出して、彼女に話しかけた。
サークル内で、僕たちは付き合っていることになっているので、僕が彼女と手を繋いでも誰も不審に思わない。
「その後、どうなった?」
彼女は僕の手を振りほどかず、そのまま話しだした。
「まだ、告白していない。」
僕は彼女を握る手に、力を入れた。
「いつ、告白するの?」
彼女が僕を真っすぐ見た。
「決めていない。」
彼女の顔からは、考えが読めない。
僕は恋は苦手だ。駆け引きも得意ではない。だからこれまで何となく、でしか付き合えなかった。
面倒なことは嫌なのに、僕はこの女性に、僕にもっと関心を持ってもらいたいと思ってしまった。
「好きだ。」
僕は彼女の興味を引こうとして告白した。
付き合ったことがあるのに、女性に告げたのは初めてだった。
告げてから、急に緊張してきた。こんなこと、言うつもりなかった。
「ありがとう。私たち、付き合える?」
彼女はすぐにこたえてくれた。
僕は汗ばんできた繋いだ手をそのままにして、もう片方の手で、彼女の腰に手をかけた。
僕たちの距離が、一気に縮まる。
「今も、付き合っているよ。」
言ってから、僕は彼女にキスしようと顔を近づけた。
「私たち、付き合っているけれど、友達よね?」
彼女は僕の目を見たまま言った。
僕は姿勢を戻して答える。
「まだ、友達だね。」
彼女は微笑んだ。
「告白したら、きちんと報告するわ。それまで待って。」
僕は期待して待つことにした。
彼女は約束通り、僕に連絡をくれた。
僕は彼女を家に呼んで、僕の恋人にしようとした。彼女は抵抗しない。
僕たちは普通に付き合って、普通に結ばれる。
どこもおかしくない。
彼女のスマホから、着信音が鳴る。
彼女は僕から離れてふらふら歩いて手提げからスマホを出し、優しく笑ってスマホを操作している。
彼女がスマホから顔を上げて、明るい声で僕にきいた。
「迎えがくるの。住所を教えて。」
僕は彼女のスマホに直接住所を書き込んだ。
相手は弟のようだ。弟と仲がいいのはいいけれど、今日くらい、時間が欲しかった。
彼女を迎えにきた彼女の弟と彼女が告白した男は、彼女をタクシーに乗せて帰って行った。
帰る前に、彼女の弟が僕に頭を下げる。
「ご迷惑おかけしました。」
優秀そうな、整った顔の、礼儀正しい彼女の弟。弟からは、彼女からきいていたような可愛いげは見つからない。隙がないのだ。
「彼女は私の娘のようなものです。大切にしてくれてありがとう。」
彼女が告白した男は、僕にそう言った。彼女の言う通り、大人の、綺麗な男性だ。僕に、彼女を大切にするよう、牽制した。
彼女は清廉な騎士に護られた、お姫様だった。だったら、僕が王子サマになって姫を迎えにいかないといけないのだけれど、僕はそういう柄ではない。
僕はこれまで通り、友達のような彼女と、友達のような付き合いを続けていくのだろうと漠然と思った。
僕は部屋の中の、飲みかけの酒を片付ける。
彼女の声と匂いと唇の柔らかさを思い出す。
いや、彼女は、友達だ。
友達の顔と、一緒に飲んだ酒の味と、話したことを思い出す。
「あなたが友達でよかった。」
そう言った彼女の笑顔がちらつく。
僕は残った酒を順に飲んだ。
彼女は友達。友達だけど、付き合っている。
彼女は僕に振り向かない。
振り向かない彼女と、僕は付き合っている。
彼女は僕の恋人にならない。
恋人にならないからといって、手放したいと思わない。
友達のまま、ずっと付き合って、彼女のそばにいる。
そういう関係も悪くない。
僕はきついことが嫌いだ。感情の振れ幅が大きい、恋というものが、最も嫌いだ。
恋人と友達の境にある今の適度な距離が、一番心地好い。
この距離のまま、僕は友達を彼女として好きになる。
迎えが来る直前に、彼女が僕に言った。
「私もあなたが好き。」
そうだね。友達として、好きなんだね。僕は彼女として、好きなんだよ。
友達のまま、僕に抱かれてもいいの?
僕は言いたいことを飲み込んで、もう一度彼女にキスをした。
やっぱり彼女は抵抗しない。
玄関のインターフォンが鳴って、僕は先の行為に進めなかった。




