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振り向かない彼女を飼う方法  作者: 一会
第1章
12/81

12 弟 5



 今のタイミングを逃すと、次にいつ三人で会えるか分からない。

 ぼくの問題は、ぼく一人で抱えるには大きすぎる。

 ぼくを嫌悪したり逃げたりせず、正面から正しい助言をくれる人が欲しかった。

 これは家族間の問題でもあるので、恥ずかしいけれどぼくの口から家の大人に伝えないといけない。でも、母さんには申し訳なくて、自分から言うことができない。二人の誰かが母さんに伝えてくれるだろう。ぼくはまだ、未熟で甘ったれな子供だった。


 ぼくは二人に言った。


 「ぼくは、姉ちゃんが好きなようです。」


 二人とも、ぼくの言葉を否定したりうろたえたりしない。


 「答えがでたの?」


 兄さんが優しい声でぼくにきいた。


 「多分。」


 ぼくの体は、とうとう大人になった。


 「実際に、お姉ちゃんとそういうことをしたい?」


 兄さんはぼくの問題に向き合ってくれている。


 「よくわからない。ただ、姉ちゃんを思い出して、する。」


 ぼくは父さんの前なのに、姉ちゃんとの妄想を告白した。

 恥ずかしがっている場合ではない。これが一時的なものならいいけれど、生涯続くことになれば大問題だ。


 普通の家だったら、ぼくはこんなことを親に相談しなかった。自分の中だけに留めて、自分一人で悩んでいただろう。

 でも、ぼくの家は普通ではない。普通ではないから、普通ではないぼくの相談をした。

 兄さんだけでなく両親も、ぼくを受け入れてくれると信じて話した。



 「実際にしたくなったら、連絡して。魔法の言葉を教えてあげる。」

 「魔法の言葉?」


 兄さんの言葉に父さんが反応した。

 兄さんが父さんを見て言う。


 「大切な人を守るための、特別な言葉。」


 父さんが苦いものを食べたように顔をしかめた。

 ぼくは意味がわからず、その時がこないことを願いながら頷いた。



 翌年、ぼくは兄さんに「魔法の言葉」を教えてもらった。

 同時に、ぼくは兄さんからいろいろと性的な知識を教わった。学校で習わないような男女の体の違いとか、意識の違い、ぼくがこれからどうなるのか。

 親にきくのが恥ずかしいことも、兄さんになら照れずにきけた。

 ぼくは、母さんと兄さんのことを否定できるような、正しい人間ではなくなった。



 

 姉ちゃんが大学に入り、ぼくは姉ちゃんの部屋に出入りするようになった。これまでは自分の真実が怖くて姉ちゃんを避けていたけれど、自分の気持ちがわかって納得した今は、避ける理由がない。

 いつかぼくたちは大人になり、一緒にいられなくなる。

 今だけ。ぼくはそう思いながら、弟であることを逆手にとって、姉ちゃんが弟であるぼくに向ける愛情をしっかりもらった。


 姉ちゃんは、母さんと同じ、天然魔女だ。ぼくたちの心を惑わせて、恋に落ちても気づいてくれやしない。

 父さんと兄さんは母さんの魅力に負けた。ぼくは弟なのに姉ちゃんの魅力に負けた。

 ぼくが母さんと兄さんのことに気づけたのは、姉ちゃんに対する自分の気持ちに気づいたからだ。人を好きになる気持ちを知って、ぼくは惹かれ合う人の心が少しわかったような気がした。


 


 夏頃から、姉ちゃんに男の影がある。ぼくは男として姉ちゃんに未来をあげることができない。姉ちゃんを幸せにする他人が必要だ。

 それでも、不快だし、胸が苦しい。

 姉ちゃんの手料理を食べて、部屋で何をしているのか? 嫌な妄想が膨らむ一方で、姉ちゃんの心には兄さんという最高の男性がいるので、まだ二人の仲は進展していないと考えた。

 姉ちゃんは、兄さんが好きだと思っていればいい。兄さんが好きなのだから、姉ちゃんが他の男に恋をしないはずだ。


 でも、姉ちゃんに、幸せになってもらいたい。

 兄さんは最高の男だけれど、母さんのものだ。姉ちゃんの家族になっていても、パートナーにはなってくれない。

 姉ちゃんの幸せを考えるのなら、他人を好きになってもらった方がいい。





 「好き。」


 姉ちゃんの声が聴こえる。優しく、髪を梳(す)かれている。

 ぼくの寝たふりを、おそらく姉ちゃんは知っている。

 姉ちゃんがどういうつもりで寝ているぼくに言うのか、ぼくは知らない。

 知らない方がいい。

 姉ちゃんは天然魔女だ。天然たらしで、どうしようもない。

 ぼくは姉ちゃんに魅力されたけれど、捕まってはいない。捕まってあげても、姉相手ではどうにもならない。


 ぼくは不毛な関係におちいりたくないので、ほどほどに姉ちゃんを好きになり、頑張って我慢して、二人の幸せを掴もうと思う。



 姉ちゃんが二十歳になった夜、姉ちゃんの告白に、ぼくは涙を流していた。

 ぼくがここで起きても、きっと姉ちゃんはとぼけたことを言って、告白したことを認めてくれない。矛盾しているけれど、それが姉ちゃんの優しさだ。

 姉ちゃんはぼくが弟であることを、きちんと理解している。

 だから、これは、弟に対する、家族としての「好き。」という気持ちだ。それ以上でも、以下でもない。


 ぼくはぼくの気持ちに手一杯で、姉ちゃんが本当に望んでいることよりも、姉ちゃんと自分のあるべき未来だけを考えていた。




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