12 弟 5
今のタイミングを逃すと、次にいつ三人で会えるか分からない。
ぼくの問題は、ぼく一人で抱えるには大きすぎる。
ぼくを嫌悪したり逃げたりせず、正面から正しい助言をくれる人が欲しかった。
これは家族間の問題でもあるので、恥ずかしいけれどぼくの口から家の大人に伝えないといけない。でも、母さんには申し訳なくて、自分から言うことができない。二人の誰かが母さんに伝えてくれるだろう。ぼくはまだ、未熟で甘ったれな子供だった。
ぼくは二人に言った。
「ぼくは、姉ちゃんが好きなようです。」
二人とも、ぼくの言葉を否定したりうろたえたりしない。
「答えがでたの?」
兄さんが優しい声でぼくにきいた。
「多分。」
ぼくの体は、とうとう大人になった。
「実際に、お姉ちゃんとそういうことをしたい?」
兄さんはぼくの問題に向き合ってくれている。
「よくわからない。ただ、姉ちゃんを思い出して、する。」
ぼくは父さんの前なのに、姉ちゃんとの妄想を告白した。
恥ずかしがっている場合ではない。これが一時的なものならいいけれど、生涯続くことになれば大問題だ。
普通の家だったら、ぼくはこんなことを親に相談しなかった。自分の中だけに留めて、自分一人で悩んでいただろう。
でも、ぼくの家は普通ではない。普通ではないから、普通ではないぼくの相談をした。
兄さんだけでなく両親も、ぼくを受け入れてくれると信じて話した。
「実際にしたくなったら、連絡して。魔法の言葉を教えてあげる。」
「魔法の言葉?」
兄さんの言葉に父さんが反応した。
兄さんが父さんを見て言う。
「大切な人を守るための、特別な言葉。」
父さんが苦いものを食べたように顔をしかめた。
ぼくは意味がわからず、その時がこないことを願いながら頷いた。
翌年、ぼくは兄さんに「魔法の言葉」を教えてもらった。
同時に、ぼくは兄さんからいろいろと性的な知識を教わった。学校で習わないような男女の体の違いとか、意識の違い、ぼくがこれからどうなるのか。
親にきくのが恥ずかしいことも、兄さんになら照れずにきけた。
ぼくは、母さんと兄さんのことを否定できるような、正しい人間ではなくなった。
姉ちゃんが大学に入り、ぼくは姉ちゃんの部屋に出入りするようになった。これまでは自分の真実が怖くて姉ちゃんを避けていたけれど、自分の気持ちがわかって納得した今は、避ける理由がない。
いつかぼくたちは大人になり、一緒にいられなくなる。
今だけ。ぼくはそう思いながら、弟であることを逆手にとって、姉ちゃんが弟であるぼくに向ける愛情をしっかりもらった。
姉ちゃんは、母さんと同じ、天然魔女だ。ぼくたちの心を惑わせて、恋に落ちても気づいてくれやしない。
父さんと兄さんは母さんの魅力に負けた。ぼくは弟なのに姉ちゃんの魅力に負けた。
ぼくが母さんと兄さんのことに気づけたのは、姉ちゃんに対する自分の気持ちに気づいたからだ。人を好きになる気持ちを知って、ぼくは惹かれ合う人の心が少しわかったような気がした。
夏頃から、姉ちゃんに男の影がある。ぼくは男として姉ちゃんに未来をあげることができない。姉ちゃんを幸せにする他人が必要だ。
それでも、不快だし、胸が苦しい。
姉ちゃんの手料理を食べて、部屋で何をしているのか? 嫌な妄想が膨らむ一方で、姉ちゃんの心には兄さんという最高の男性がいるので、まだ二人の仲は進展していないと考えた。
姉ちゃんは、兄さんが好きだと思っていればいい。兄さんが好きなのだから、姉ちゃんが他の男に恋をしないはずだ。
でも、姉ちゃんに、幸せになってもらいたい。
兄さんは最高の男だけれど、母さんのものだ。姉ちゃんの家族になっていても、パートナーにはなってくれない。
姉ちゃんの幸せを考えるのなら、他人を好きになってもらった方がいい。
「好き。」
姉ちゃんの声が聴こえる。優しく、髪を梳かれている。
ぼくの寝たふりを、おそらく姉ちゃんは知っている。
姉ちゃんがどういうつもりで寝ているぼくに言うのか、ぼくは知らない。
知らない方がいい。
姉ちゃんは天然魔女だ。天然たらしで、どうしようもない。
ぼくは姉ちゃんに魅力されたけれど、捕まってはいない。捕まってあげても、姉相手ではどうにもならない。
ぼくは不毛な関係におちいりたくないので、ほどほどに姉ちゃんを好きになり、頑張って我慢して、二人の幸せを掴もうと思う。
姉ちゃんが二十歳になった夜、姉ちゃんの告白に、ぼくは涙を流していた。
ぼくがここで起きても、きっと姉ちゃんはとぼけたことを言って、告白したことを認めてくれない。矛盾しているけれど、それが姉ちゃんの優しさだ。
姉ちゃんはぼくが弟であることを、きちんと理解している。
だから、これは、弟に対する、家族としての「好き。」という気持ちだ。それ以上でも、以下でもない。
ぼくはぼくの気持ちに手一杯で、姉ちゃんが本当に望んでいることよりも、姉ちゃんと自分のあるべき未来だけを考えていた。




