15 風花
もうここに何日いるのだろう。時の感覚はとうに薄れ、ただここから出られる時を待つだけの日々。私がいる独房には、私の他に人も、看守さえおらず、孤独に狂ってしまいそうなくらいの静けさだけがあたりを満たしている。
魔女殿はどうしているだろうか、と。もはやそれしか私の頭にはない。逃げてくれれば良い。もう私とは二度と出会えないとしても、私は彼女が無事であれば、それだけで良い。
「……イシア様!」
はじめは、幻聴を聞いているのだと思った。まさか、ここにイリナの声がするはずはないと。ただ、その声は次第に大きくなって。そして、私の胸に確信となって迫る。近くに、イリナがいる……! そして、そう経たないうちに、薄暗い独房の中に、彼女の姿が現れた。
「イリナ……! なぜここに?」
長いこと声を発していなかったので、声はガラガラでひどい状態だった。私の声を聞いたイリナは、一瞬だけぱっと顔を明るくして、そしてまた顔を厳しくさせる。
「話は後です。このままだと、魔女殿が処刑されてしまいます! 早く助けなくてはなりません!」
「魔女殿が処刑!?」
「はい。魔女殿を殺し、その内に秘める魔力を爆発させることで反乱軍を一掃するつもりです。城も爆発の影響で崩れると、大混乱になっているのです。その混乱に乗じて、鍵を手に入れることに成功しました」
そう言いながら、イリナは素早く胸元のポケットから鍵を取り出して、私の手錠と牢の錠を開く。
「立てますか? このまま処刑場に行きましょう。何としてでも止めなきゃ……!」
ふらつきながら立ち上がり、私は駆けた。満足にものを食べていない私の身体は驚くほど重く、少し走っただけだというのに、息切れが止まらなかった。靴を履いていない私の足はすぐに切れ、そこから血が出ている感覚もする。しかし、痛みはなかった。自らの情けなさと、怒りと、焦燥で、今は何も感じられなかった。
魔女殿を守るはすが、こんなことになってしまうなんて――。
処刑場への道のりは、とても遠く感じた。城の目の前に作られたというそれは、遠くにいてもその禍々しさが伝わるようで。走っても走っても、なぜかそこには少しも近づいていない気がする。そびえ立ったそれに、あと少しで彼女の首が切り飛ばされるのだと思うと、焦燥で胸が張り裂けそうだった。
どうか。どうか。
この脚に、手に。もっと力を。
彼女を守るための力を。
外に出た。時計台を見ると、あと少しで正午。間に合ったと思った直後、処刑台の上に現れたのは、紛れもなく魔女殿で。今から処刑されるというのに。何の罪もなく殺されようとしている人間の顔とは思えないほど、彼女の表情は清々しいものだった。
処刑を知らせる王の声が響く。
「……魔女殿っ!!」
響く声に、彼女は私に気づいて笑いかける。
そして――
銀の刃が閃いた。
膝を付く私の頬に、何かあたたかいものが触れた。はっとして処刑台を見ると、そこにはあるはずの彼女の遺体など、どこにもなく。
そこにいる誰もが、今目にした光景を信じることが出来ないようだった。
呆然とする私たちの中に、ひらりひらりと雪が舞い散る。見上げた空からは、一条の光が差していた。そこから降ってくる雪は、まるで花――彼女のようだった。
FIN




