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 水鏡で映してみると、薄い水色の透き通った体の中に銅色の核(コア)が浮かんでいた。

 スライムと聞いてイメージする何通りかのうち一つ、そのまんま。終了のお知らせ。


"えぇ……マジかよ。これじゃゴブリンに勝つとか無理だろ。いよいよ詰んだか?"


 この核が俺の本体だ。変化したときから不思議と理解している。

 若干の粘度がある周りの液体も俺の一部ではあるのだが、核から生み出された擬似的な肉体って表現が近い。

 全身を伸び縮みさせて動く様(さま)はまるでナメクジ。これなら間違いなく人間形態の方が強い。


"妖精さん、俺の声って聞こえてる?" 


『なんかくぐもった声になったけど、一応聞き取れる』

『マサル、お前も丸くなったもんだな』

『よ、弱そ~w』

『そういえば服どこいった?』


 妖精さんたちとは会話できた。

 言われてみれば、服が消えている。

 

"――チェンジ"


 人間に戻ると変身前の状態。リュックを背負っているし、シャツもスラックスも着ている。

 なんとも都合のいい親切設計だ。


『ま、まあまあ。なんとかなるってw』

『スライムの体なら変形できそうだし、鍵開けて空き巣でもする?』

『服溶かせるのかな?』

『とりあえず風呂でも覗きに行こうぜ! って、風呂なんてあんのか?』

『馬鹿ばっかw いい加減気付きな? スライムの視点ならいつでもスカートの中見放題だってことに』


 ダメだこいつら。俺を犯罪者にしようとしてやがる。

 これだけの数がいるのに、使える案が一つもないとは呆れてしまう。


「バーンズさん、もう行けます」

「悪(わり)ぃけど頼むわ。まあ、スキルなんかおまけみたいなもんだから、気にすることねえぞ? ゆっくりやればいい」


 あからさまに落ち込んでいたからな。顔に出ていたのかもしれない。背中を叩かれ、励まされてしまった。

 めでたく使えないスキルだと認定されたようだ。肩を落としながら牢獄へと向かう。


 街の端、その外壁近く。積み上げられた石で囲われただけの、不自然な入り口があった。

 地下へと続いているのだろう。真上から降り注ぐ陽光が暗闇に押し返されている。

 人が一人通れるくらいの狭さ。衛兵が二人立っている。


「息子に面会したい」

「どうぞ。壁伝いに歩いてください」


 許可をもらい、なだらかな傾斜の道を進む。

 すぐに光は届かなくなり、目が役に立たない。指先を伝う、壁を固めるための石と木の感触だけが頼り。緩やかにカーブしている。

 生温い風が吹き抜けていく。どこかに別の入り口があるのだろうか。

 

 しばらくすると、明かりが見えた。闇をわずかに薄める程度の頼りない光だ。

 平らな地面に到着すると、道幅が少し広くなる。一本道で、ずっと奥の方が暗い。あっちから風が流れてきている。

 通路にある扉の一つ。格子窓を覗くと、向こうは小さな部屋になっており、衛兵が一人イスに座っていた。


「最近捕まったラゾと話したい」

「いま開ける」


 内側に開いた扉に導かれ、中に入る。

 衛兵は俺たちの冒険者タグを見て、壁に掛けられた入出を管理する木の板に名前を書く。そして奥の扉へと移動し、錠前を外してくれた。

 その先が牢屋。五から六人ずつ収容されている檻(おり)がいくつも並んでいる。


「四つ目の右側だ。短めにな?」

「あいよ」


 囚人たちはみな薄汚れたボロボロの服を着て、頭を丸く刈られていた。

 太い鉄格子に背をもたれて地べたに座り、視線だけをこちらに流している。


「お、親父!」


 若い男が立ち上がり、通路側に駆け寄った。

 赤い髪に甘いマスク。あれが息子さんか。女性が放っておかないな。

 バーンズさんが不細工とは言わないが、おそらく母親似なのだろう。


「おうラゾ。近くで飯食ったついでに来てやったぞ。いい暮らししてそうだな」

「頼む、ここから出してくれ! 殺されちまうよ!」


 誰かが吹き出した。それをきっかけに、下卑た笑いが広がっていく。

 近くで見ると、ラゾは体中アザだらけ。同じ檻の囚人たちにやられたのだろう。叫んだせいで唇の左下にある傷口が開き、血が流れだす。


「元気そうで何よりだ。じゃあ、またな」


 少し顔を合わせただけで、もう帰るらしい。

 振り返ったバーンズさんは、鬼より怖い仮面を被っていた。思わず目を逸らしてしまう。


「待ってくれ親父、助けてくれ! もう二度と馬鹿な真似はしないから!」


 ラゾの悲痛な声……涙が混じり、震えている。

 だがその父親は背を向けたまま、呼ばれようとも歩を止めず、早足で進んでいく。

 俺はその背中を追いながら、何も言えなかった。

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