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俺は離すまいと掴んでいたジンクの足から手をほどき、立ち上がった。
ガニ股でこちらに近づいてくるバーンズさん。肩幅が広く、威圧感がある。
革鎧に身を包み、背中に大きな剣を担いだ厳つい顔のスキンヘッド。歳は俺より上だろう。背丈は同じくらい。一八十センチ弱といったところか。
「ジンクよぉ、弱いもんイジメってのはプライドの高い冒険者がすることか?」
「え、あ、いや。違います」
「泥にまみれ、傷だらけになり、臭ぇ血を浴びる。冒険者ってのは、所詮この世の底辺さ。生き様で語ることしかできねえ。……じゃあ、余裕くらい見せてやろうぜ? ガキがカッコイイって憧れてくれる――俺らはそんなモンでいいんだよ」
「……たしかにそうっすね。おっさん、すまなかったな」
ジンクは俺の肩を叩き、逆の手をひらりと上げて謝罪した。悪い奴ではないらしい。
いまの会話で、なんとなく冒険者の立ち位置が理解できた。この世界では社会的地位が低いのだろう。
しかし、彼らは誇りを持って仕事をしている。最初からナメられるような真似をした俺を気に食わないと思うのは当然だ。
だからといって、謝るつもりはない。 軽く顎をしゃくって、「ああ」と短く了承の意志を示す。
「で、おっさん。二万ミースだが、その変な上着と交換てのはどうだ?」
バーンズさんは、俺が着ている紺のスーツをご所望らしい。
安っぽいポリエステルの生地だが、こんなものと交換でいいなら願ったり叶ったり。
「助かります」
「おう、困ってるときゃお互いさんだからな。どうせ飯も食えてないんだろ? 奢ってやるから、登録が終わったら俺んとこ来な」
「いいんですか! ありがとうございます!」
スーツとお金を交換して、何度も頭を下げてお礼を言う。
彼はさっそく手にした上着を羽織り、スーツの上から大剣を背負うアンバランスな姿を仲間たちに自慢していた。満足そうな表情だ。
『バーンズさんかっけぇ!』
『おっさんだせぇw』
『そうかな? あたしは頑張ったおっさんのこと褒めてあげたい』
『運がよかっただけだろ』
『死に物狂いって感じだったな』
これで冒険者になれる。
カウンターに戻り、登録料を支払う。
「では、鑑定をします。この魔導板に手のひらを乗せてください」
「……鑑定?」
「はい、冒険者へのサービスですね。自身のスキルを知らない方もいらっしゃいますから」
「お、お願いします!」
パンジィさんが指差す先、カウンターの上に置かれた黒く分厚い板――魔導板とやらに右手を乗せる。
すると、不思議な感覚に陥った。
俺のスキルは、『モンスター化レベル一』と『言語理解』。それらがどういうものかを元から知っていたかのように、頭の中に情報が流れ込んできた。
何もなかったらどうしようかと不安だったけど、あの青い光の渦を通り抜ける際に備わったのかもしれない。
モンスター化は、レベルに応じたモンスターの姿に変身できる。何になるかまでは分からない。
変化したまま時間が経過すれば、そのうちスキルのレベルが上がるという。
使い方は簡単。レベルを頭に浮かべ、『チェンジ』と口に出せばいい。
言語理解は、その名の通り。この世界で書いたり聞いたり話したりできるのは、これのおかげだったわけか。
「次に、お名前とスキルを教えてください」
「名前はマサル。スキルはモンスター化と言語理解でした」
「モンスター化は初めて聞くスキルですね。詳しい内容が分かったら後ほど報告してください」
冒険者である証は、革紐に括られた金属のタグ。俺の名前――日比谷優の『マサル』が、パンジィさんの手により、うにょうにょした文字で丁寧に彫刻されていく。
モンスター化――ギルド職員ですら知らないスキルということは、チートを手に入れたかもしれない。
早く試してみたいけど、もしドラゴンにでもなってしまったら大変だ。周りの人を押し潰し、ギルドを破壊してしまう。
「分かりました。いまの俺だと、どんな依頼を受けたらいいですか?」
「薬草十本の採取で八十ミース。こちらはお一人様一日に一度までとなっております。ゴブリン三体の討伐で五百ミースですが、ある程度の装備を整えてからでないと殺される恐れがあります」
カウンターの上に、絵付きの資料を並べて説明してくれた。
薬草は……まあ、草だな。葉っぱの形が特徴的で、二つの丸い葉の先に、楕円形の葉がある。
ゴブリンは、凶悪な見た目。おでこはボコンと飛び出して、鼻は大きく鷲のクチバシみたい。耳元まで口が裂けており、あのギザギザの歯で噛みつかれたら大変なことになりそうだ。
生きていくにはゴブリンを狩るしかない……が、装備か。
何をするにも金だな。もうスキルに賭けるしかない。
『ユニークスキルなんじゃないのそれ?』
『始まったな……』
『こっちの世界の人間じゃないのにスキル持ってるんだね』
『おいマサル、早く使ってみようぜ!』
『夜だけモンスターになります――とかいう下ネタは勘弁な?』
妖精たちが興奮している。俺だって同じ。
やっとラノベの主人公みたいな大冒険が始まりそう。
しかし、踊る胸に待ったをかける。まずは飯だ。
パンジィさんに感謝を述べ、バーンズさんの元に向かう。
「登録終わりました」
「おう、行くぞ」
俺たちはギルドを後にした。




