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 ――翌日。

 瞼(まぶた)の裏から光を感じ、大きく背伸びする。


『ようやくお目覚めか』

『おっさんおはよう』

『ずっと監視してたけど、不審者おっさんしかいなかった』

『移民が治安を悪くする……か』


 妖精どもは相も変わらず言いたい放題。とりあえず無視しておく。

 何事もなく目覚めた俺は、情報収集することにした。


 道行く人や露店商に聞いて回り、分かったことは四つ。

 なぜか言葉が通じるし、文字も読める。

 この街の名前はペノンベン。

 露店で売られていた小さなパンが一つ二百ミース。当然だが通貨が違う。

 そして最後に、俺はかなり危険な状況だ。


 公共の井戸があるから、水だけは飲み放題。あとは寝食さえなんとかなれば、人並みの生活ができる……なんて、甘い考えを抱いていた。

 この世界の人たちはたくさん子供を作るらしく、一族経営の店がほとんどだとか。

 元より働き口が少ないのに、信用が足りないよそ物を雇う店はない。

 つまり、安定した仕事が見つからない。


 では、よそ者がどうやって生計を立てているのか。

 答えは簡単、ファンタジーでお馴染みの冒険者だ。冒険者ギルドで登録すれば、誰でもなれる職業らしい。

 場所を聞いて、さっそく向かう。


『おっ、ここか』

『めっちゃでかくね?』


 建物は石造り。『冒険者ギルド』と書かれた看板がかかっていた。長方形と円柱を二つ並べて組み合わせたような形をしている。

 大通りに面しているのは長方形の方で、コンビニくらいの大きさ。

 円柱状の建物はかなりでかい。中で野球ができそうだ。訓練施設にでもなっているのだろうか。


 重い扉を押し開く。

 奥に受付嬢のいるカウンターがあり、左の壁には依頼書と思われる木札が掛けられている。

 冒険者の姿もちらほら。みんな体つきが逞(たくま)しい。

 さっそくカウンターに並んで順番を待つ。


『だいたいイメージ通りか。ギルドって感じ』

『受付嬢ちゃん可愛すぎワロタ』

『おっさんと違ってみんな強そう』

『髪の色がカラフルで目がチカチカすんな』

『あっ、名前見えた! パンジィちゃんか、俺の見立てではDだな。スタイルもいい!』


 まあ、確かに美人な受付嬢だ。癖のある栗毛に、吸い込まれそうな緑色の瞳。名札にパンジィと書いてある。

 妖精たちが大騒ぎ。これだけやかましくても、周りの反応はない。こいつらの声は俺だけに聞こえているのかもな。

 さて、俺の順番がきた。


「登録をお願いします」

「では登録料として、二万ミースいただきますね」

「……あの、手持ちがないのですがどうしたら?」

「お金を用意していただければよろしいかと?」


 二万て……パン百個分じゃないか。

 俺は絶望し、腰が砕けてしまう。

 金を稼ぐ方法を探したら、金を用意しろってどういうことなんだ。


『困り顔のパンジィちゃんもええな』

『おっさんとは違って目の保養になるわ』

『よそ者は冒険者にしかなれないって話だったのに、どうすんだこれ?』

『おっさん、終了のお知らせ』


 いや、終わらせてなるものか。

 現状、俺が生きる道は冒険者しかない。このままでは間違いなく死ぬ。

 なりふり構っていられない。


「どなたか、二万ミース貸していただけませんか!」


 恥を忍んで必死に叫ぶ。

 ギルド内の冒険者たちに一人ずつ声を掛ける。

 この世界の人に通じるかは分からないけど、土下座をして懇願(こんがん)した。

 みっともないことをしているのは伝わったらしい。暴言や嘲笑(ちょうしょう)する声が聞こえる。


「お願いします! お願いします!」


 金髪ロン毛の若い男の前で頭を下げたら、脇腹を蹴られてしまった。


「ぐえっ……」


 情けない悲鳴を漏らす。


「これから冒険者になろうって奴が恥ずかしくねえのか。こっちはプライド持ってやってんだよ!」


 また足蹴にされて、床を転がされてしまう。

 でも、諦めない。

 その足にしがみついて、説得を試みる。


「んだてめえ、放しやがれ!」

「金がないから働きたい。それだけなんです。冒険者としての心得は、冒険者になってから覚えます。だからどうか、二万ミースを貸してください!」


 金髪は俺の髪を掴み、引き剥(は)がそうとしてくる。プチプチと大事なものが抜け落ちる嫌な音がする。

 仕事でミスをすれば、上司に叱られるのは当然だ。この人の気に障る行動をしてしまった俺が悪い。

 でもさ、だったら教えてくれよ。先輩として後輩に指導するなら、正しい冒険者の在り方ってやつをさ。


「おいジンク、そこまでにしておけ。二万でいいんだよな?」

「マジっすかバーンズさん。こんなのに手ぇ差し伸べるんすか?」


 そのとき、救いの神が現れた。金を貸してくれるらしい。

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