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マーサさんがサラダを頬張る。ギョッと目を見開いていることから、美味さに驚いているのだろう。
彼女の喉がごくんと動き、続いて口を開く。
「いいとこ八百ミースだよ」
正しい値付けだと思う――
『めっちゃ高いやん!』
『評価上がったね。でも、販売価格で八百なら卸値はもっと安いのか』
『相当美味いんだろうな。おれも食ってみてーw』
『ネギマっぽくしたら最高かも!』
『僕らで籠の中のサロギ食い尽くしません?』
『やめたれw おっさんがいくらで売るのか見届けようぜ!』
だが、味だけで売るつもりはない。
これはビジネス。育て方によっては金の卵を産むヒヨコだと教えてやる。
「実は以前、『レインノート』というレストランで食事をしたときに、野菜を卸しているのがマーサさんだとお聞きしまして」
「ああ、そうさね。出来のいいやつは、みんなあの店に持っていくよ」
「このサロギは太くて長い。あそこは一皿五千ミースから。一本一万ミースで売っても十分利益が出ます」
「なるほどね、あんたの言いたいことが分かってきたよ。たしかに買ってくれそうだ」
一流のシェフは、現状に満足しない。誰にも負けないオリジナルの料理を作りたいと探求し、渇望し続ける。
珍しくて可能性が無限大のサロギ。喉から手が出るほど欲しがるはず。
マーサさんが理解を示してくれたことから、俺の意図が伝わったのだろう。
「売り物になるのは二十九本ですね。レストランの方も、ちょっと切ったやつと、もう一本くらいは試食用に使いたいでしょうから、少しおまけして全部で十万ミースはいかがでしょう?」
「まずあたしを通したことは評価してやる。……でもね、一本一万ミースはやりすぎだよ。全部で九万でどうだい?」
「すみません、世間知らずなもので。今日は勉強させていただきました。その分を差し引いて、八万五千ミースでお願いします」
「いい心がけだね。商売人てのは謙虚さを忘れちゃいけない。交渉成立としようか」
ふぅ、なんとかなったな。
自然に値引きしてやることで、交渉の余地があるならと儲け話に乗ってくる。彼女が最終的に提示した九万ミースは、俺の見立てだと、これくらいなら買ってもいいかな――という弱気な価格だ。
万が一にも「やっぱり買わない」などと言わせないために、最後の一押しを入れておいた。
セロギを全て手渡し、深く頭を下げてお礼を言う。
「ありがとうございます。オウガ商事のマサルを今後ともよろしくお願いします」
「はいはい。あんたに用事があるときは、ギルドに声を掛けておくよ」
露店を後にし、戦利品を買いに向かう。
一本三千ミースくらいで売れたら大成功と考えていたが、大体計画通り。
これでオウガ商事はマーサさんと顔馴染みとなって、間接的にレインノートと繋がったわけだ。
あとは彼女の腕次第だが、きっと取り引きは成功するはず。
野菜が武器になると分かったいま、何か他にも商品となる物があればいいんだけど。
『あっれれぇ? 名人様たち見てるぅ?www』
『おっさん凄いじゃん! 日頃の振る舞いからは想像できない結果だな!』
『そういや、どっかのアホが八十ミースで売ろうとしてたっけ?w』
『自称営業妖精の謝罪が聞こえませんね……』
『黙れやゴミども。仕事したことねえくせに調子乗ってんちゃうぞ。喧嘩なら八十ミースで売ったるわ!』
『まず四千ミースで売る努力しろよ無能w』
『おーっと、この返しはクリティカルだー!w』
頭の中が騒がしい。妖精さんたちのやり取りに、つい笑ってしまう。
そうか、こいつらも俺の武器だ。
「ねえ、オウガ商事の販路を拡大するにはどうしたらいいかな? 野菜以外にも売りたいんだけど」
アドバイスを求めてみた。
使えそうなものを拾っていく。
『あのでかいイノシシの革は使えない?』
『農地広げて果物も作りたいですよね。時間はかかるでしょうけど』
『コキアたんとの握手会を開いてくれたら五万は払うぞ!』
『オウガは力があるし、小さな小屋くらいならすぐ建てれそう。プレハブの物置きなんてどうだ?』
『たかいたかいで人間を空へ放り投げる遊びは? 握力五十トンの比で計算すると、六百メートル以上は飛ぶ。その衝撃で人間は潰れてペースト状になって死ぬけど、手加減してやれば楽しめそう』
『シンプルにあいつらがモンスター狩って、その魔石を売るじゃダメなん?』
『働き口が埋まってるからなぁ。門番とか衛兵とかにオウガを派遣するってのは考えた』
パンツを売れだのと、くだらない下ネタがほとんどだったが、いいアイディアはいくつかあった。
自分なりにまとめ、未来の姿を妄想しながらお土産を買う。
塩と酒を背中の籠に詰め込み、日が暮れるまでオークを狩ってからオウガの村へと戻った。




