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あちこちで篝火が焚かれていた。揺れる炎の動きに合わせ、オウガたちの影が踊っている。
夕飯の準備中らしい。遠火でじっくり焼かれたオーク肉の塊から香ばしい匂いが漂う。
こいつらの酒では、マリアージュもなにもあったもんじゃないからな。塩味の効いたつまみを美味い酒で流し込む快感を体験してほしい。
「いま戻りました! オウガ商事のマサルですー!」
人の姿で帰宅したので、念のために大声で再度自己紹介しておく。
誰からも疑問を持たれず、村に入ることができた。この村の一員であると認識されているようだ。
オゴウが右手を挙げて近づいてくる。
「おうマサル! 成功したみてえだな!」
彼は俺の背負い籠を見て、にやりと笑う。
正気を取り戻したらしい。普通に喋っている。
「かなり高値で売れましたね。それこそ、人間が聞けばびっくりするくらいの価格で」
「へぇ、俺らの野菜がねぇ。なんか誇らしいな。その酒ちょっと味見させろよ」
「夕飯のときのお楽しみにしてください」
「んじゃ、飯にすっか!」
オゴウが呼びかけ、みんな集会所に入っていく。俺もそれに続いた。
壁に貼り付けられた苔の、ぼんやりした灯りが中を照らしている。
子供たちが女性を手伝い、木皿に料理が盛り付けられていく。ローストされた野菜とオーク肉が香ばしい。
俺も配膳に協力する。籠の中から酒瓶を取り出し、適当に配っていく。
「これは、人間が作った酒です」
色んな種類を買っておいたので、飲み比べて楽しんでほしい。
こっそり野菜を食べてみると、やはり素材そのままの味。これでは酒が進まない。
「塩というものを買ってきました。少し摘んで料理にかけてみてください」
大きな木箱の中には、粗塩がぱんぱんに入っている。手本として、自分の皿に振りかける。
「俺にもくれ」
オゴウの料理にもかけてやると、待ちきれないとばかりに食べ始めた。
「なんっ……じゃこりゃあ! うめえ。美味すぎるぞこれ!」
やはり味覚は同じか。
酒瓶からコルク栓を抜き取り、コップに酒を注いでやる。
「そこに酒を流し込むんですよ」
彼は一息で飲み干す。
「カーッ! これだ。すげえぞ人間の酒は!」
喜んでもらえたようでなにより。塩味を洗い流しつつ、酒精と合わさった素晴らしい香りが鼻を抜ける――これが醍醐味だ。どうだ、堪らんだろう?
「おい、ずりいぞオゴウ! 俺にも寄越せ!」
「あたしも欲しいっす!」
オウガたちが群がり、塩を奪い合う。たくさんあるから安心してくれ。だが、みんな一杯ずつ飲んだところで、酒はすぐになくなってしまった。
『塩で感動するって新鮮だなw』
『美味しそうに食べるリュヒちゃんが尊い』
『オウガ村に革命起こしたやん』
『警備も入れたら五十人くらい居るのか。まだまだ金が足りねえぞ』
『みんな喜んでる。よかったなおっさん!』
野菜の稼ぎだけでは、みんなを満足させてやれない。
ここで、俺は一つ質問する。
「みなさんの中で、人間と仕事をしてもいいという方はいらっしゃいますか? オウガ商事をもっと大きくしようと考えているのですが」
この世界は、職業選択の自由がなさすぎる。オウガ商事が受け皿となり、人間もオウガも雇い入れてやろうと思う。
そう、会社を作るのだ。
「オウガが人間の街に入れんのか?」
「今日の食事には感動した。仕事の内容によっては協力しよう」
「わたくしもマサルさんのお手伝いをします」
何人かが手を挙げてくれた。生活が豊かになっていけば、協力者はさらに増えるだろう。
自分にしかできないこと。モンスター化というスキルを授かったおかげで、見えてきた気がする。
「とはいえ、まだ仕事になるかは分かりません。明日また街へ行きます。その結果次第で、みなさんにお願いしますね」
酒を注いで回りながら、全員と話をした。関係性作りは大事だし、それぞれの考え方や個性を知ることが今後とても重要になってくる。誰にでもできる簡単な仕事、専門性が必要な作業、適材適所に振り分ける必要がでてくるだろう。
食事を終えると、この日は空き家を借りて眠りについた。
――翌朝。街に戻った俺は、冒険者ギルドにやってきた。
受付嬢のパンジィさんに話しかける。
「オウガ商事のマサルと申します。冒険者の未来の形を提案したく、決定権のある方とお話ししたいのですが」
「ギルドマスターの予定を確認しますので、少々お待ちください」
彼女は、ギルドの奥にある扉に姿を消した。
今日の今日で面会は難しいだろう。アポだけでも取れたら僥倖だ。
「お待たせしました。お会いになるそうです。こちらへどうぞ」
……と、思いきや。パンジィさんは戻ってくるなり、受付のカウンターの中に入れてくれた。
「ありがとうございます」
運が良かったのか、よほど暇だったのか。オッケーが出てしまった。
とりあえず、お礼を言っておく。
ギルドの奥には、木札を補完する倉庫やら、事務処理をする職員の姿があった。
さらに通路を進んでいき、突き当りの部屋の前で立ち止まる。パンジィさんが扉をノックすると、野太い声がした。
「入れ」
許可をもらい、中に入る。
調度品など何もない殺風景な室内。山のように大きな男が、そのサイズに見合わない窓際の机に座り、頬杖をついていた。鋭い銀色の瞳。燃えるような赤い髪をオールバックにしている。
まずは挨拶をして、感謝を述べるべきだろう。
「オウガ商事のマサルと申します。冒険者としてもお世話になっております。お忙しい中、お時間をいただきありがとうございます」
俺は頭を下げた。
「ギルドマスターのモンゼンだ。俺らの未来の形ってのが気になった。堅苦しいのはなしにして、気楽に話してくれや」
顔を上げると、モンゼンさんは獰猛な顔で笑っていた。中途半端な案を出しやがったら、ぶん殴るぞと言われている気分だ。
パンジィさんが部屋から出ていき、これで一対一。でも大丈夫、自信はある。
いざ、開戦といこうじゃないか。




