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「オゴウよ、この野菜に我の舌が歓喜している。畑へ案内せよ」

「いいけど、そっちの人手は足りてんだよ」

「貴様の浅はかな知恵で我を推し量るな。人間どもに売りつけるのだ」

「なんじゃそりゃ!」


 あんな奴ら――とか、悪口から始まらなかったことから察するに、特別な感情は持っていないようだ。

 リュックから手帳とボールペンを取り出し、『人間をどう思っているのか』と書く。口は駄目でも、指はまともに動くらしい。

 俺の周囲にいるオウガに見せる。

 頼む、読めてくれ。


「わたくしたちの脅威となるのは冒険者――狩りを担当する単独のオウガを狙い、徒党を組んで襲いかかってくる者たちです」


 コキアが言う。


「あたしたちってこの森じゃ最強だから、基本的に他の種は相手にしないんすよね。挑まれたり、必要なら狩るっすけど」


 これはリュヒ。


「大昔には、オウガと人間とで物々交換をしていたらしい。自分らを別の種族だと考えていたようだ」


 最後にケラが教えてくれた。

 伝わってよかった。


 さあ二択だ。正体を見せるかどうか。

 八割方勝てるだろうけど、ギャンブルに近い。

 営業をするからには、信頼を得る必要がある。後々バレる可能性がある嘘なら、いま明かしておきたい。

 俺は再び手帳に文字を書く。もし俺がこの場で人間に変身したらどうする? ……と。


「オウガになれる人間がいるなら逆に見たいくらいだぜ。変身できるもんならしてみろよ。マサルはもう村の一員だ。みんなで決めた。文句を言う奴は俺が黙らせる」


 オゴウのお墨付きをもらった。

 人を見る目には自信がある。それがモンスターに通用するかは分からないけどな。

 最悪の場合は、すぐにオウガになって逃げればいい。


『おい、さすがにやめとけ!』

『オゴウは優しいね』

『相手はモンスターだぞ? 信じたら殺されるって』

『小心者のおっさんが変身するわけないやんw』


 妖精さんたち、心配してくれてありがとう。

 でも大丈夫。これが営業マンの誠実さだ。

 俺は立ち上がり、笑顔を作る。


「――チェンジ!」


 そして、人間の姿で会釈した。


「どうも、オウガ商事のマサルです。みなさんの生活を豊かにするため、精一杯頑張りますので今後ともよろしくお願いします」


 普通に喋れるって素晴らしいな。


『うわ、やりやがった!』

『ええええええぇ!?』

『あれ、意外と?』

『なんなら俺らよりオウガの方が驚いてるしw』


 オウガたちは座ったまま後退り、目を見開いて驚愕している。

 みんなからすれば、ありえない事態だからな。拍手で迎えられたら、逆にこっちが腰を抜かす。


「では、オゴウさん。さっそく畑に連れていってもらえますか?」

「あ、ああ。……まあそっか、こんなこともあんのか。へえ、人間がオウガにねぇ? ふーん、マサルガオウガデニンゲンデ?」


 恐らく現実を受け止められていないオゴウは、ぶつぶつと独り言を呟きながら家を出ていく。


「――チェンジ」


 このエリアのモンスターに襲われたら、いまの俺だと殺されてしまう。

 オゴウが使い物になるか分からないし、念のためオウガに変身しておく。

 畑に向かっていると信じて後を追う。

 村を出て、森の奥へと進んでいく。


 歩くことしばし。

 目の前に腐葉土を耕した畑が広がっている。この肥沃(ひよく)な土壌(どじょう)が高品質な野菜を作っているのだろう。

 見張りのオウガが三人、農作業の担当が四人か。村の連中が食べていくには十分だが、大量に売れるほどでもない。

 まずはこの野菜を足掛かりにしてオウガ商事の名を定着させ、畑を広げながら販路を拡大していく。

 他の商品(ぶき)でも勝負する必要があるな。考えておかないと。


「オゴウよ、我に野菜を持て」

「うん」


 ……うん?

 なんだかキャラが変わってしまったオゴウが、畑の近くに置いてあった大きな背負い籠(かご)の中に野菜を放り込んでいく。

 できれば種類別に色々と欲しかったけど、いまの彼に何を言っても無駄だろう。

 すぐに戻ってきて、籠を手渡された。


「ほい」


 ……ほい?

 両手でやっと掴めるほど極太のネギみたいな野菜でギチギチだ。三十本くらいありそう。

 腰のナイフを取り出し、青い部分を少し切り取って食べてみる。

 辛みはあるが、甘い。見た目通りネギに似た香りがあり、どこかセロリのようなせり科特有の鮮烈さも混ざっている。


「この野菜の名は?」

「サロギ」


 サロギか、これはいいぞ。

 水にさらせば辛みが抜けるだろうし、サラダにしたっていい。

 煮ても焼いてもまた別の美味しさになりそうだ。


「我は人間の街に行く。明日には戻るゆえ、期待して待っていろ。――チェンジ!」


 シャドウバルチャーに変身して、大空へと羽ばたく。


「はぇ?」


 オゴウは情けない声を出し、口を半開きにして俺を見上げている。

 彼は壊れてしまったらしい。


『オウガ商事のお手並み拝見』

『商売するのに許可とか必要なのかね?』

『オゴウはどうしちまったんやw』

『一本いくらで売るんだろ。二百ミースでも高いか?』

『一万とかするネギあるらしいよw』


 ここからが正念場。いくつかプランは考えてある。

 大見得を切っておいて、全く売れなかったら恥ずかしい。

 街の近くまで飛んでいき、衛兵に見つからない場所に着陸した。

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