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 一夜明け、ゴブリンを七七匹狩ったところで、体の奥底から突き上げるものを感じた。なぜか良いことが起こりそう。


「妖精さん、またスキルのレベルが上がったよ!」


 ゴブリンから魔石を回収しながら喜びを抑えきれず、見えない相手に話しかける。


『おっ、やったじゃん』

『すげえ臭いモンスターになればいいのに』

『だな、可愛くなって役得とかお腹一杯だからこっちは』

『次も魔法が使えるやつかな?』

『マサルの顔ってボラっぽいし、生臭そうな半魚人なんてどうだ?』

『マングースの方が似てるけどな。ボラてwww』


 スライム、フォレスティアン、シャドウバルチャーときて、次はどんなモンスターに変身できるのだろうか。

 人生で一度はスキューバダイビングに挑戦してみたいと思っていた。体が生臭いのは嫌だが、水中で活動出来たら楽しそうだ。

 さっそく森の中にある泉へ向かう。

 周囲に敵がいないことを確認し、ほとりに降り立つ。


"――チェンジ!"


 ちょっと目線が高くなった。二メートルくらいありそう。

 さてさて、レベル四はどんな見た目かな?

 水面に姿を映すと……今度は人型。腰に茶色の毛皮が巻き付けてあり、腹筋がぼこぼこと八つに分かれている。

 丸い肩、厚い胸板、太(ぶっと)い腕。桜色の肌がパリッと張り付いて、筋繊維の形まではっきりと分かる。逆三角形の引き締まった肉体美だ。

 額に一本角まで生やしてまるで鬼。白目は反転して黒くなり、縦に割れた金色の瞳が爛々と輝いている。

 ただ、髪と顔だけは元の俺のまんま。それ以外はカッコイイのに違和感がある。ボラではないと信じたい。

 

「あ、あー。ほう、人語を操るか」


 声は少し低い。イケボってやつかもしれない。

 ……でも、なんだ?

 俺が口に出そうとした言葉とは違うものがでたぞ。

 ――え、普通に喋れんじゃん。

 俺はこう言いたかった。

 まあ、別に支障はないからいいや。


『なんだこれ? オウガとか?』

『その口調はなに?w』

『ムッキムキのボラ』

『おっさんがおっさんになっただけやんw』

『このモンスターってみんなこの顔なのかな?』

『マサルに討伐報酬あるとか想像したらおもろw』


「ふんっ、虫けらが騒ぎよるわ」


 シャドウバルチャーの魔法なら、オークも殺(や)れるのではないかと考えていた。

 しかし、やつらは石や木を投げてくる。

 その剛速球ぶりは凄まじく、移動式大型弩砲(バリスタ)みたいなもんだ。レイミー君とパーティを組めてなきゃ、初見殺しでやられていた。

 モンスター化レベル四――この体なら倒せるかもしれない。


「我が力を試すときがきたか」


 はいはい、そうですか。一人称が我の自分にツッコミながら歩きだす。

 この体は、口に出そうとした言葉が勝手に変換されてしまうらしい。

 俺は直径三十センチくらいの木の幹を右手で掴む。


「――ハアッ!」


 そして、握り潰す。

 ただ開いた手を閉じるだけの単純な動作。その衝撃で、大木がへし折れてしまう。

 全力を込めたつもりではあったが、せいぜい指の形に抉り取れるかなってくらいの軽い気持ちだった。

 唖然としていると、手の中から微粒子と化した木くずがさらさらと零(こぼ)れ落ちていく。


『えぇ……』

『その体じゃもうレイミーのほっぺたつねれないな』

『計算したら、柔らかい木だと握力五十トンあればいけるらしい。楽勝やな!』

『リンゴ潰せそうw』

『お前の想定してるリンゴを教えてくれw』


 吸い続ければ、いつかは人間のままでも同じことができるかもしれない。

 でも、現時点でこれだ。

 獣の筋力や頑丈さは人と違う。この体もまた、見た目が近いだけで根本から別物なのだろう。


 ――レイミー君がよくやる、一瞬で間合いを詰めるやつ。あれ、俺もできないかな?


 全身を弛緩(しかん)させ、右足に意識を集中する。


「――シャッ!」


 地面を押し付ける大腿筋(だいたいきん)が膨らむ。収縮したふくらはぎは、力強い足首のスナップを生み出す。

 腐葉土を蹴り上げる――その刹那、巨大な炸裂音が響く。誰かが耳元でピストルでも鳴らしたのかと思った。

 びっくりして振り返れば、十メートルは後方で地面が深く抉り取られている。

 この距離を一瞬で移動したらしい。時間がすっ飛ばされたような感覚だ。遅れて生じた衝撃波が木々を震わせている。

 瞬速(しゅんそく)とでも名付けよう。コーナーで差がつきそうだ。


『おい、このモンスターさすがにやばくねえか?』

『おっさんが最強になっちまったw』

『今の音ってソニックブームだよな……?』

『これで百メートル走ったらどうなるんだろう』

『さっきから想定がおかしいんだってw』

『コンマ三秒くらいかな』

『真面目に計算してるやつもいますw』


 こりゃいけるぞ。パワーもスピードも十分だ。

 オークの弱点は分かっている。何匹いたって問題ない。

 細かくチェンジを繰り返す。人間になってベルトにナイフ、リュックなんかを地面に置き、鬼になって装備する。

 最後に鳥になって空を飛ぶ。

 よし、索敵開始だ。


 オークはでかい。動けば木の葉が揺れる。

 そうして生じた僅(わず)かな隙間から、この目であれば焦げ茶色の毛皮で判別できる。


"みーっけ!"


 翼をすぼめて体を弾丸と化し、獲物に向かって急加速。

 近づきすぎるのは危険だ。木の上あたりでブレーキをかける。


"――チェンジ!"


 かなりの高さだが、鬼の姿なら大丈夫だろう。

 自由落下しながら枝葉の中を突き抜けていく。

 なんて皮膚の硬さだ。痛くも痒くもない。

 動体視力もいいようで、流れる景色が目で追える。

 柔らかな土に着地。ビルの四階くらいの位置から飛び降りたはずなのに、膝を少し曲げただけで衝撃を吸収してしまった。


「ゴアッ! ゴアッ!」


 オークが鼻を鳴らして威嚇している。向こうもやる気らしい。

 俺の方が上位のモンスターだと思うんだけど、びびって逃げたりしないんだな。

 じゃあ、遠慮なく殺(や)らせてもらおうか。

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