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街の外で鳥に変身して空を飛ぶ。
もうお金が残り少ない。効率的に稼ぐべきだろう。
森の上空を旋回し、深紅の瞳を光らせる。
さて、始めますかね。
"まずは二匹!"
いつも通りの動きで、ゴブリンに空槍を放つ。
魔力の消費量は変わらず、射出速度が若干だけ上がっている。
体内の魔力量も、ほんのちょっと増えているかもしれない。
吸うことによる肉体強化は、ここにも影響しているようだ。
些細な変化にせよ、成長を感じられるのは嬉しい。
ホルダーからナイフを抜き、解体を始める。
「おぉ、買ってよかったー!」
切れ味抜群。槍と比較するのが申し訳ないくらい使いやすい。
時給換算でいくと、長い目で見たらプラスになるだろう。
空と地上を行き来して、昼過ぎには九〇匹近くのゴブリンを狩れてしまった。これで約四万ミースってマジかよ。
魔力にはまだ若干の余裕があるけど、空っぽにするのもなんか怖い。
そろそろレイミー君を探すとしよう。
森には数多くの冒険者がいる。空を飛んでいると、ゴブリンと戦っている人の姿がそこかしこに見える。
みんな生活できるくらい稼いでいるだろうに、よく絶滅しないよな。それほどに凄まじい繁殖力なのか、減ったら足されるように自然発生しているのか。なんにせよ不思議だ。
この広大な森では、倒し尽くす方が難しいのかもしれない。
"……あれ、いないな。今日はお休みか?"
街から離れたところまで来てみたが、お目当ての人物が見つからない。
最後に見た彼女は、とても具合が悪そうだった。
自室で休んでいてもおかしくはない。
今日はもう帰ろうか。そう思いながらも、少し森の奥へ遠回りしながら滑空していると、見覚えのある青い髪を捉えた。
ゴブリンを狩るにしては、ずいぶんと深くまで入り込んでいる。
"おーい、レイミーくーん!"
頭上でクアクア鳴きながら、ゆっくり降下していく。
"――チェンジ!"
安全な高さで変化し、飛び降りる。
ヒーローっぽく片膝をついて着地した。
「体調はもういいの?」
「はい、酔い覚ましを飲みましたので。ご迷惑をおかけしました」
「それはよかった。今日もゴブリン?」
「いえ、実は昨日で吸い終えまして、さっきオークの試験に合格したところなんですよ」
なんと、もうオークを倒してしまったらしい。
素人の俺から見ても、レイミー君の動きは洗練されていると思う。
冒険者の中でも優秀なんだろうな。
「おめでとう! ところでさ、ゴブリンて何匹くらいで吸い終わるの?」
「個人差があるみたいですけど、僕は二万匹以上は倒してますね」
やっぱり、そういうことか。
一日に二五匹くらい狩っている彼女はもうすぐ二〇歳。
自立しているので、それなりに冒険者歴が長いのだろう。
だが、たまには休暇を設けるにせよ、昨日もまだゴブリンと戦っていた。
吸い終わるまでに、途方もない数が必要なんじゃないかと推測はしていた。
「これからオークをやる感じ?」
「ですね。一匹で行動している個体を狙います」
「見学してもいい?」
「戦闘に参加しなければ、それほど危険はないと思います。危なくなったら僕も逃げますし、マサルさんは飛べるから大丈夫ですよね」
これはラッキー。オーク狩りに同行できる。
実際にこの目で見ないことには、強さも危険度も理解できないからな。
レイミー君の戦法を学べば、いずれ役に立つだろう。
「――チェンジ!」
まだ匂いは判別できないけど、猫の鼻を使えば何かが二匹以上いる場所を避けられる。
人間のまま行動するよりはいい。
俺を先頭に、森の中を進む。
『ついにオークかぁ……』
『ゴブリンよりちょっと強いくらいだといいけど』
『あれ、森の雰囲気違くない?』
『なんか寒気するよな』
たしかに変わったかもな。
背の高い木が増え、薄暗さが増している。
木漏れ日が減った代わりに、所々で樹皮に生えた紫色の苔が、怪しげに光って周囲を照らす。スライムの状態ならあれも食えるのだろうか。
ぼんやりとした明かりだが、それでも人間からすれば多少は歩きやすくなる。
でも、紫色の光ってのがよろしくない。お化け屋敷みたいで気味が悪い。
"ちょっと待ってね?"
レイミー君に俺の言葉は理解できないだろうけど、とりあえずウアンと鳴いておく。
足を止めたから察してくれたのか、彼女も剣を構えて警戒している。
スンスンと鼻を動かす。
微かに感じる。獣の臭いだ。
ハンドサインを送り、再び歩きだす。
この先に何か恐ろしいものがいる。
フォレスティアンの本能だろう。ぞくぞくと背中の毛が逆立つ。
近づくほどに気配が濃くなっていく。
間違いない。敵は一匹。
「僕が前に出ます」
――見えた!
レイミー君と入れ替わる。
ちょっと待ってくれ。あれがオークかよ。
まだ距離は大分離れているが、木々に囲まれてなお、その巨体が放つ迫力に圧倒されてしまう。
でっぷり太って、上背は三メートル近い。
外国人力士ですら、あんなのにぶちかまされたら吹っ飛ばされるのではなかろうか。
『オークでかすぎん?』
『レイミーきゅんの二倍くらいあるやん』
『あんなのと戦うとかマジ?』
『うわ、こっちから攻め込むんかよ!』
レイミー君は早足になり、やがて駆け出す。
どんどん速度を増していく。
この子はアレが怖くないのか?
俺は後を追いかけながら、鼻と耳に神経を集中させて周囲を警戒する。
いまのところ問題はない。
「フゴオオオオォ!」
けたたましい野獣の咆哮が耳をつんざく。
大気は轟き、森すらも震えている。
敵もこちらを認識したようだ。濁った黒い瞳が怒りに揺れる。
山のように巨大なモンスターが両手を広げ、地響きとともに向かってきた。
これ以上は近づくなと脳が警笛を鳴らす。
だが、レイミー君は止まらない。
俺は止まりたい。
「――せあっ!」
彼女は一息で加速。あっという間に肉薄した。
オークが掴みかかろうと手を振り下ろす。
レイミー君は琥珀色の瞳で見切り、躱しざまにショートソードを振り抜きながらすれ違う。
切り裂いた太腿から鮮血が噴き出した。
「ゴアアッ!」
悲鳴を上げながらも、闘争心はそのまま。鈍くぎらついた瞳が彼女を追う。
しかし、振り返ったところで、そこには誰もいない。
レイミー君は相手に合わせて反時計回りに動き、死角から膝の裏を貫いた。
そこから先は見るも無残。
青い髪が空中で揺れながら、いくつもの線を描いては消えていく。その度に両足をズタズタに切り裂かれ、オークは自重を支え切れずに倒れ伏す。
「終わりだ!」
唐竹を割るが如く振り下ろされたショートソードが、太い首を真っ二つに断ち切った。
『うおおおおお!』
『鮮やかすぎ』
『レイミーかっけえええええ!』
『速すぎて目で追えんw』
『レイミーちゃんが動いた一拍後に傷が増えてた』
『圧勝やったな!』
オークは力が強いけどスピードがない。
下半身を中心に攻撃を与えて機動力をさらに削ぎ、無力化してからトドメを刺すわけだ。
これはお見事。マジで勉強になった。
この日は追加で三匹のオークを殺ってお開き。
「ふぅ、今日は解散ですかね」
「了解、お疲れ様。ところでレイミー君、この後って――」
「で、では失礼します!」
パーティ戦後のお決まり――酒場で飲み会が始まるかと思いきや、レイミー君は走り去ってしまった。
何か人には言えない理由があるのだろうか。




