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レイミー君の後を追う。
片方は俺が殺る。この姿では初戦闘だ。
近づくほどに心臓が早鐘を打つ。
緊張で喉が渇く。
「ゲギャッ!」
ゴブリンもこちらに気づいた。
レイミー君が速度を上げる。
置いていかれまいと俺も負けじと続く。
この勢いのまま攻めるらしい。
「マサルさんは左を!」
ここで、レイミー君が一気に加速。青色の髪は、空中で一筋の線となる。
次にはっきりと姿を視認できたとき、ショートソードを横薙ぎに振り抜いていた。
ゴブリンは反応できずに首を切り落とされてしまう。
『レイミーつんよw』
『あの急加速するやってスキルなんかね?』
『っしゃ! おっさん、落ち着いていけよ!』
『危なかったらスキル使って逃げてもいいぞ!』
『リーチはこっちが有利や!』
さあ俺の番。妖精さんの声が脳を滑っていく。
走って槍で突けばいいのか?
いったいどこを?
残りのゴブリンと目が合う。相手は仲間を殺された憎しみを視線に乗せている。なんと凶悪な表情だ。
……え、怖くね?
――死。
突如、脳裏に巨大な文字が浮かぶ。
ゴブリンまであと五歩といったところで、昼間の記憶がフラッシュバックして足が止まってしまう。同時に、全身から冷や汗が噴き出す。
「あ……」
頭が真っ白になっていた。
恐怖がまともな思考を呼び戻す。
俺はレイミー君とは違う。ようやく自分が力を持たない一般人であることを再認識できた。
「――ふっ!」
短く息を吐き、腰を落として槍を構え直す。
相手は知恵を持ち、生きている。これは命のやり取りだ。
……慎重に、慎重に。じりじりと距離を詰めていく。
「グギギッ!」
耐えきれず、敵の方から動いてくれた。
棒切れを振り上げながら向かってくる。
大丈夫、もう俺は冷静だ。
「――シッ!」
気合と共に突きを放つ。
槍は狙い通りに右の大腿部を貫ぬく。
バックステップで一度距離を取り、今度は左足を狙う。
長さの利を活かし、安全マージンを設けた戦法で敵の移動を封じる。
あとはトドメだ。
腹……と見せかけ、ゴブリンが腕を下げたところで喉を撃つ。
傷口からコヒュと苦しそうな呼吸が漏れている。
大事なものを守るように両手で穴を塞ぐも、流れ出す紫色の血は止まらない。
相手は膝をついて苦しみ、やがて俺の中に吸い込まれた。
「やるじゃないですかマサルさん!」
「いやぁ、緊張したぁ。これが冒険者なんだね」
「え? まさか初めてなんてこと……」
「あるんだよなぁ」
人間の姿では、だけどな。
よかった。一対一なら勝てる。
思い通りに動けたのは、朝からたくさん倒して身体能力が強化されていたおかげかもしれない。
「馬鹿なんですか! なんでそういう大事なことを最初に言わないんですか! 聞かなかった僕も悪いですけど、下手したら死んでましたよ!」
「うん、ごめん。レイミー君が完全に正しいよ。助けてもらえるだろうって甘えてた」
怒られてしまった。彼女を利用しようと考えた罪悪感が込み上げてくる。
赤の他人に真っ直ぐ向き合えるなんて、心が綺麗な子なんだろう。汚れきった俺とは正反対だ。
「すみません、馬鹿は言いすぎました」
「いや、合ってるからいいよ。また間違ってたら指摘して欲しい。素直にありがたいと思ってる」
「パーティに大事なのは、報告と作戦。いわゆるホウサクです。僕はマサルさんの先輩ですからね。そういうことならビシバシいきます!」
「それで頼むよ」
ホウレンソウではなくホウサクか。冒険者ならではなのだろうが、文化の違いが面白いな。
部下に大事なのは学ぶ姿勢だ。教えや失敗を活かし、次に繋げたらいい。
『エリート女上司か。これは捗りますな!』
『加えて年下の僕っ娘ときた。個人的には大変好ましいですね』
『俺も指導されてぇーw』
『まずは働くところから始めなきゃ……』
『それはご勘弁被る!』
『仕事しないで女上司がいるの変やろw』
その後の狩りは順調だった。
基本的に、俺が索敵してレイミー君が倒すという流れ。
数が多いときは何匹か注意を引いたりして貢献した。
槍という武器は素晴らしい。俺みたいなパンピーでもそこそこ戦える。
ちくちく刺して時間をかければ、三匹くらいならいけるかも。
何事も経験ってのは重要だな。モンスターを前にしても少し余裕ができた。
さて、暗くなってきた。そろそろ終わりだろう。
「こんなに狩れたの初めてです。助かりましたよマサルさん」
「いやいや、こちらこそだよ」
倒した数――なんと二八匹。
いつもは一日がかりでも、レイミー君ですら二五匹前後らしい。
俺の索敵が効いたな。
明日からは朝に魔法で自分の稼ぎを確保して、終わったらレイミー君に寄生して訓練するのもありか。
「そうそう、パーティを組んだ冒険者は、仕事終わりに酒を飲みながら語り合うんですよ。この後どうですか? 儲かっちゃったしおごりますよ」
「おっ、いいね!」
ありがたいお誘いだ。
仕事終わりに飲むなんていつぶりだろう。まだ地獄を見る前の新人時代に何度かあったような。
二年目からは、ほぼ終電帰りの生活だったし……。
いやぁ、楽しみだね。
俺たちは森を抜け、街へと向かう。




