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 近くにモンスターの姿はない。

 銀髪の冒険者も、戻ってくることはなさそうだ。

 ゆっくり羽ばたきながら高度を落として着地する。


『てめえマサルこの! レイミーたんになんてもん被せとんじゃ!』

『おい、わざとか? 女性にパンツ落とすのが趣味なんか?』

『僕のレイミーちゃんが汚されちゃった……』

『無防備な女の子に自分の性癖押し付けるとか、やってること痴漢とおんなじ』


 レイミー君は市松模様のパンツを手に取り、まじまじと見つめていた。

 ……最悪だ。


"――チェンジ!"


 マサル形態に変身。即座にパンツを奪い取る。

 地面に散らばった服を拾い集め、全部まとめて背中の後ろに隠す。

 よし、何もなかった。異論は認めない。


「や、やあレイミー君。なんかトラブル?」

「まあ、はい。悪いのは向こうですけどね。冒険者の間ではたまにあることなんですが……」


 レイミー君が話し始めた。

 いつものように森を歩いていると、ゴブリンが二匹歩いているではないか。

 よっしゃ、やったるぜと急襲したところ、茂みの陰から現れた別の冒険者――つまりデコハゲも同じ獲物に狙いを定めていたらしい。

 そこで止まらないのがうちのレイミー君ですよ。

 まずは一匹、急襲して首を刎ねますわな。

 二匹目だって譲りません。自分の体を盾に割って入ることで、斧なんて振らせずそのまま倒してしまいました。

 そしたら金髪ハゲ野郎もブチギレますよ。

 ――なんだてめぇ!

 唾を撒き散らし、声を荒げてさあ大変。

 しかし、早いもん勝ちが暗黙の了解だ。俺以外の冒険者ならみんな知ってるよそんなこと。

 レイミー君は正論をぶつけ、相手は怒りを返す。そんなピリピリ具合が続いていた……って感じか。

 

「相手も強そうだったのに、よく引かなかったね?」

「マサルさん、引くことを覚えた冒険者はナメられて終わりです。相手の顔色を伺い、狩場を譲(ゆず)り、成長が遅くなる。そんなの負け犬ですよ」

「でもさ、もし喧嘩になったらどうするの? 死んじゃうかもしれ――」

「僕は逃げない! 戦って、勝つんだ!」


 あらら、変な地雷を踏んでしまったかな。

 レイミー君は俺の言葉を遮(さえぎ)り、鼻息荒く睨(にら)みつけてくる。


『ひぇっ……』

『ぷりぷり怒った顔も可愛いよ!』

『勝ち気だねぇ』

『僕っ娘の触れちゃいけないとこだったか……』


 詮索(せんさく)したらダメなやつだ。話題を変えるとしよう。

 服やら袋やらをリュックに詰め込み、とりあえず能天気な馬鹿を演じておく。


「ところでさ、この後ってまだ仕事するよね?」

「……そうですね。暗くなる前には森を出る予定ですが」


 実は頼みたいことがある。

 人間の状態で襲われたとき、実践経験がない俺は何もできなかった。

 レイミー君と一緒なら、ゴブリンとも安全に戦えるかもしれない。


「一緒に行ってもいいかな? 勉強したいだけだから、分け前とか要らないし。レイミー君て強いじゃん?」

「まだまだですけどね。参考になるか分かりませんが、それでよければやってみますか。僕もパーティを組んだことなかったので、いい経験になりそうです」


 戦闘では役に立たないかもしれないけど、お荷物にはなりたくない。スキルで貢献しよう。

 レイミー君の表情が少し柔らかくなった。


「俺が斥候役をするよ。フォレスティアンなら索敵できる」

「わあ、それは頼もしいですね! ありがとうございます!」

「敵が二匹のときは、片方と戦わせて欲しい。危なかったら助けてね?」

「はい。では、それ以外はサポートしていただくという形でいきましょうか」

「オッケー。敵を見つけたら合図するね。――チェンジ!」


 なるべく足場がいい道を選び、四足歩行で前を行く。

 ゴブリンの悪臭は遠くからでも気づけるし、俺の鼻は小動物だって嗅ぎ分ける。物音がすれば、このピンと立った耳が反応してくれる。

 レイミー君は以前、物陰を警戒しながら進んでいたが、いまはその必要がない。


「ふふっ。猫ちゃんのお尻、可愛いですね」


 振り向くと、琥珀色の瞳にまじまじと見つめられていた。

 ふわっと柔らかな毛皮、ふさふさの長い尻尾、人間の姿であれば見せられない二つの玉。俺の後ろ姿にはプリティーが詰まっている。

 レイミー君は女性だからな。夢中になるのも当然だ。罪なボディである。


『僕のお尻も見て欲しい!』

『可愛いけどさ、おっさんのケツだぞあれ』

『萎えること言わんでや……』

『いや、待て。よく考えてみろ。あの僕っ娘、おっさんのケツ毛と玉見て喜んでる変態ってことにならないか?』

『お前天才だろ! それはちょっと興奮するなw』

『まーたマサルに利用される落ち度作っちまったなレイミーたん』


 変態はお前らだよ。間違いない。

 心の中でツッコミを入れながら進んでいくと、左の方からゴブリンの臭いがする。 


"……おっ、いるぞ。二匹か"


 立ち止まり、ウニャンと鳴く。

 俺は右手で空中をちょこんと突き、合図を送る。

 伝わったようだ。

 妖精たちに変態呼ばわりされているとは露(つゆ)知らず、レイミー君は真面目な顔で頷き返してくれた。


 進行方向を変えて、獲物の元へと向かう。

 不快な臭いが強くなっていく。

 ……見つけた。

 このスキル、いちいち声に出さないと使えないのが玉(たま)に瑕(きず)。敵にバレないよう小さな声で鳴く。


"――チェンジ(ォァ)"


 人間の姿に戻り、レイミー君と位置を入れ替えた。 

 どちらのゴブリンも木の棒を持っている。距離は三十メートルくらいか。


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