27
それから色々と店を回り、レイミー君と同じ宿を予約して、他にも必要なものを購入した。
洋服と下着を二日分、大小のタオル。あとはリュックが素材用になってしまったので、日用品を入れる巾着袋とか。素材の剥ぎ取りが大変だったから、革のホルダー付きのナイフとか……。
今日の稼ぎがほとんど無くなってしまった。
でもまあ、無駄遣いはしていないと思う。
ナイフは腰のベルトにぶら下げておけば邪魔にならないし、何よりカッコいい。明日から活躍してもらおう。
武器や防具を手に入れるのはまだまだ先になりそうだ。新品の槍なんて安くても十万ミースを超えていたからな。何匹のゴブリンを生贄に捧げたら召喚できるのやら。
店員さんに話を聞けたので、買いたい装備に目星を付けておいた。
「嫌なことを忘れるためにも、スッキリしないとな! ――チェンジ!」
再び街の外に出てシャドウバルチャーに変身。
早朝に初めて飛んだとき、森とは逆の方向に続く道の近くで川が流れていた。
いまからそこに向かう。
宿にシャワーがあるんだけど、先客がいたので諦めた。
それに、異世界といえば水浴びだしな。
”やっぱ空はいいなぁ”
鳥の体は素晴らしい。本当に風と一体になれる。
いや、風だって追い越せてしまう。
青い空、白い雲。このだだっ広い場所を独り占めしている気分だ。
翼で大気を手懐けて大空を漂う。
これは俺にしかできない、俺だけの楽しみだ。
”どれどれ、川の中は……っと”
もう二度と油断はしない。川の真上で滞空し、目を光らせた。
小魚が泳いでいる。底のほうでエビみたいなのが苔を摘まんでいる。
陽光を反射して輝く水面など問題にならない。全部はっきり見えている。
危険なモンスターはいないようだ。
”――チェンジ!”
地面に降りておっさん登場。
さて、始めますか。
「ひゃっほう!」
服を脱いで川に飛び込む。
冷たくて気持ちがいい。
『おっさんのサービスシーン』
『全年齢に配慮されてんな』
『だらしない体ありがとー!』
『あの下っ腹、ゴブリンみたいw』
『やめたれwww』
頭を濡らして手櫛を通すと、油汚れやほこりでガチガチになっていた。
小さいタオルを取り出し、石鹸を付けて泡立てる。
体を擦れば、ごわごわした安っぽい生地が汚れを落とすのにぴったり。
続いて頭を洗おうとしたけど、石鹸パワーが通じない。こいつは強敵だ。二回目でようやく討伐に成功した。
少し伸びたヒゲは、ナイフで剃り落とす。皮膚を切るのが怖いので、美容師のように深くは攻められない。
「よし、ぴっかぴかだ!」
体からいい匂いがする。
大きめのタオルで水分を拭き取り、買ったばかりの服に着替えていく。
パンツはぶかぶか。腰紐でウエストを調節するようだ。
その上からベージュのズボンをはく。腰にはベルトを通せるから、お気に入りのナイフを装着できる。
薄い青の上着は、作務衣みたいな形。ゆったりした着心地だ。これまた右腰のあたりで結ぶタイプ。
お次は洗濯だ。
「こんな適当に洗っちゃっていいのだろうか」
スーツをもみ洗いしていく。
高級石鹸のおかげか、汚れが溶けて流れ出す。
しばらくクリーニングにも出してなかったからな。
自分のものとはいえ、見ていて気分が悪い。
シャツ、肌着、パンツと続き、作業終了。あとは乾くのを待つだけだ。
『なあゴブリン、洗濯物と一緒に飛んだらすぐ乾くんじゃね?』
『ワロタw』
『濡れたら後頭部の薄さが際立つなゴブリン!』
『ゲギャッ!』
『ゴブリンが対話しようとしてて草』
「体型いじりはセクハラだぞお前ら。鳴き声に関してはゴブハラだからな? 乾燥させるアイディアは頂こう。――チェンジ!」
クチバシにパンツを咥え、残りを足で掴む。
高く、高く舞い上がり、そして急降下。
猛スピードで滑空すると、洗濯物がばさばさと暴れている。
しばらく何も考えずに飛んでいたら、森の方まで来てしまった。
ある程度乾いたし、そろそろUターンをして……と思ったそのとき。深紅の瞳がある人物を捉えた。
小柄で青髪、中世的な整った顔――レイミー君が、神妙な面持ちでショートソードを構えている。
対峙しているのは、おそらく冒険者。銀髪をオールバックに撫でつけ、おでこが広い。
柄の長い片刃の斧を肩に乗せた彼は、凄い剣幕で何か叫んでいるようだ。
一触即発といった雰囲気。助けに向かうべきだろう。
羽ばたいては翼を閉じる動きを繰り返し、どんどん速度を上げていく。
レイミー君の頭上近くまで来たところで急停止。
巻き起こした風が銀髪を襲う。
”ちょっと待ったぁ!”
口も足もかっぴらいて全力で威嚇。俺の甲高い咆哮が大気を震わせる。
びびってこの場から去ってくれるならよし。居座ったときは、殺傷力低めの魔法を撃って威嚇するしかない。
「なんでシャドウバルチャーがいるんだよ!」
デコハゲは驚愕の表情を浮かべ、一目散に逃げていく。
戦闘にならなくてよかった。
「……マサルさんですか?」
大事なことを忘れていた。
クチバシを開いてはいけなかった。
恐る恐るといった様子で俺を見上げたレイミー君の顔に、ひらひらとパンツが舞い落ちた。




