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 それから色々と店を回り、レイミー君と同じ宿を予約して、他にも必要なものを購入した。

 洋服と下着を二日分、大小のタオル。あとはリュックが素材用になってしまったので、日用品を入れる巾着袋とか。素材の剥ぎ取りが大変だったから、革のホルダー付きのナイフとか……。

 今日の稼ぎがほとんど無くなってしまった。

 でもまあ、無駄遣いはしていないと思う。

 ナイフは腰のベルトにぶら下げておけば邪魔にならないし、何よりカッコいい。明日から活躍してもらおう。

 武器や防具を手に入れるのはまだまだ先になりそうだ。新品の槍なんて安くても十万ミースを超えていたからな。何匹のゴブリンを生贄に捧げたら召喚できるのやら。

 店員さんに話を聞けたので、買いたい装備に目星を付けておいた。


「嫌なことを忘れるためにも、スッキリしないとな! ――チェンジ!」


 再び街の外に出てシャドウバルチャーに変身。

 早朝に初めて飛んだとき、森とは逆の方向に続く道の近くで川が流れていた。

 いまからそこに向かう。

 宿にシャワーがあるんだけど、先客がいたので諦めた。

 それに、異世界といえば水浴びだしな。


”やっぱ空はいいなぁ”


 鳥の体は素晴らしい。本当に風と一体になれる。

 いや、風だって追い越せてしまう。

 青い空、白い雲。このだだっ広(ぴろ)い場所を独り占めしている気分だ。

 翼で大気を手懐(てなず)けて大空を漂う。

 これは俺にしかできない、俺だけの楽しみだ。


”どれどれ、川の中は……っと”


 もう二度と油断はしない。川の真上で滞空し、目を光らせた。

 小魚が泳いでいる。底のほうでエビみたいなのが苔を摘まんでいる。

 陽光を反射して輝く水面など問題にならない。全部はっきり見えている。

 危険なモンスターはいないようだ。


”――チェンジ!”


 地面に降りておっさん登場。

 さて、始めますか。


「ひゃっほう!」


 服を脱いで川に飛び込む。

 冷たくて気持ちがいい。


『おっさんのサービスシーン』

『全年齢に配慮されてんな』

『だらしない体ありがとー!』

『あの下っ腹、ゴブリンみたいw』

『やめたれwww』


 頭を濡らして手櫛(てぐし)を通すと、油汚れやほこりでガチガチになっていた。

 小さいタオルを取り出し、石鹸を付けて泡立てる。

 体を擦れば、ごわごわした安っぽい生地が汚れを落とすのにぴったり。

 続いて頭を洗おうとしたけど、石鹸パワーが通じない。こいつは強敵だ。二回目でようやく討伐に成功した。

 少し伸びたヒゲは、ナイフで剃り落とす。皮膚を切るのが怖いので、美容師のように深くは攻められない。


「よし、ぴっかぴかだ!」


 体からいい匂いがする。

 大きめのタオルで水分を拭き取り、買ったばかりの服に着替えていく。

 パンツはぶかぶか。腰紐でウエストを調節するようだ。

 その上からベージュのズボンをはく。腰にはベルトを通せるから、お気に入りのナイフを装着できる。

 薄い青の上着は、作務衣(さむえ)みたいな形。ゆったりした着心地だ。これまた右腰のあたりで結ぶタイプ。

 お次は洗濯だ。


「こんな適当に洗っちゃっていいのだろうか」

 

 スーツをもみ洗いしていく。

 高級石鹸のおかげか、汚れが溶けて流れ出す。

 しばらくクリーニングにも出してなかったからな。

 自分のものとはいえ、見ていて気分が悪い。

 シャツ、肌着、パンツと続き、作業終了。あとは乾くのを待つだけだ。


『なあゴブリン、洗濯物と一緒に飛んだらすぐ乾くんじゃね?』

『ワロタw』

『濡れたら後頭部の薄さが際立つなゴブリン!』

『ゲギャッ!』

『ゴブリンが対話しようとしてて草』


「体型いじりはセクハラだぞお前ら。鳴き声に関してはゴブハラだからな? 乾燥させるアイディアは頂こう。――チェンジ!」


 クチバシにパンツを咥(くわ)え、残りを足で掴む。

 高く、高く舞い上がり、そして急降下。

 猛スピードで滑空すると、洗濯物がばさばさと暴れている。

 

 しばらく何も考えずに飛んでいたら、森の方まで来てしまった。

 ある程度乾いたし、そろそろUターンをして……と思ったそのとき。深紅の瞳がある人物を捉えた。

 小柄で青髪、中世的な整った顔――レイミー君が、神妙な面持ちでショートソードを構えている。

 対峙しているのは、おそらく冒険者。銀髪をオールバックに撫でつけ、おでこが広い。

 柄の長い片刃の斧を肩に乗せた彼は、凄い剣幕で何か叫んでいるようだ。

 一触即発といった雰囲気。助けに向かうべきだろう。


 羽ばたいては翼を閉じる動きを繰り返し、どんどん速度を上げていく。

 レイミー君の頭上近くまで来たところで急停止。

 巻き起こした風が銀髪を襲う。


”ちょっと待ったぁ(キエエエエェ)!”

 

 口も足もかっぴらいて全力で威嚇。俺の甲高い咆哮(ほうこう)が大気を震わせる。

 びびってこの場から去ってくれるならよし。居座ったときは、殺傷力低めの魔法を撃って威嚇するしかない。


「なんでシャドウバルチャーがいるんだよ!」


 デコハゲ(銀髪)は驚愕の表情を浮かべ、一目散に逃げていく。

 戦闘にならなくてよかった。


「……マサルさんですか?」


 大事なことを忘れていた。

 クチバシを開いてはいけなかった。

 恐る恐るといった様子で俺を見上げたレイミー君の顔に、ひらひらとパンツが舞い落ちた。

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