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"――チェンジ!"


 モンスターの姿では門番に殺されるかもしれない。人間に戻っておく。

 ランニングのペースで走り出す。

 一歩の伸びが違う。俺は運動が得意ではないけれど、いまなら陸上部のエースに負けないタイムが出るかもしれない。


「こりゃすげえ」


 レイミー君が、吸えなくなる頃には次のモンスターと戦えるくらい強くなっていると言っていた。

 俺はスライムがまだだから、この身体能力でもゴブリンに挑むには早いというわけだ。

 まあ、あのレイミー君ですら殺されかけたのだから当然か。どんだけ強いんだよあいつら。

 槍を見つけたときに、最悪逃げたらいいしとりあえず戦ってみよう――とかいう甘い考えに至っていたら死んでたな。


『こんだけ稼げば美味い飯食えそう』

『まず宿じゃね?』

『マサルにはベンチがあるしなぁ』

『体洗ってなくて気持ち悪くないのかな?』

『不潔なおっさん……響きからして最悪』


 さて、門までやって来た。

 肺も強化されているようで全然疲れていない。

 妖精さんは無視だ。


「街に入りたいのですが」

「登録証を提示せよ!」

 

 外から街に入るときには、冒険者のタグを見せる必要があるらしい。

 店をやっている人にも、専用のギルドみたいなのがあるのかも。みんな何かしらの身分証を持っているのだろう。

 もし冒険者になる前に街の外に出ていたら……恐ろしすぎて想像したくない。


「通ってよし!」


 首からぶら下げたチェーンを引き上げると、門番の馬鹿でかい声が響く。

 まずはギルドに寄って換金だな。


 街は食事時ということもあり、活気と美味しそうな匂いで溢(あふ)れていた。

 魚を炭火で焼く屋台の店主に、「一本どうだい?」なんて呼び止められたが、俺はまだ一文無しだ。値段だけ聞いて遠慮しておく。

 丸っと太くて食べ応えがありそうだったけれど、七百ミースもするらしい。ニジマスより大きかったので、あれ一本でお腹一杯になるだろう。

 そう考えたら安上がりなのかもな。


 客引きを苦笑いで躱(かわ)しながらギルドに到着。中は一仕事(ひとしごと)終えた冒険者達で騒がしい。

 今日の成果を自慢したり、情報交換をしたり、ただ仲が良い者同士で喋っていたり。俺もいつかはあの輪(わ)に入れるのだろうか。

 受付には妖精たちのアイドル――パンジィちゃん。俺の前に並んでいた冒険者が飲みに誘っていた。


『マサル、そいつ殴れ』

『こういうときのために槍があるんだろうが。刺し殺せ!』

『あのダボ断られてやがる。ざまあwww』

『犬みてえな顔してるくせにナンパしてんじゃねえよ。猫になって出直せカス!』

『てか、働きすぎじゃね? ずっとパンジィちゃん一人でやってる』

『飲みに誘われてたし、もうすぐ交代なのかね?』


 滅茶苦茶すぎて吹き出しそうになる。

 こいつらガラ悪すぎだろ。妖精ってもっとキラキラして可愛らしいイメージだったのに。


「すみません、魔石を換金したいのですが」

「それなら、先にギルドの裏にある作業場へお願いします。討伐証明部位や魔石の種類に応じた札(ふだ)が発行されますので、それをお持ちになってまたいらしてください」


 そういう仕組みなのね。

 外に出て、かなり遠くにある裏口に回る。『作業場』、『買取はこちら』と書かれた二枚の看板の横にある大きな扉を開く。

 中は野球の試合ができそうなほど広い。前掛けを身に着けた筋骨隆々の男たちが、忙(せわ)しなく働いていた。


『うわっ、すげええええぇ!』

『なんだあのモンスター! でっか!』

『バーンズさんもあんなのと戦ってるのかな?』

『いずれマサルも……』

『ゾウさんより大きい!』


 床に寝そべるのは、下アゴがシャベルみたいな形状にしゃくれた巨大なイノシシ。鋭い牙が突きだしている。

 そのモンスターから、職員が慎重にチョコミントカラーの毛皮を剥ぎ取っている。

 他にも未知の化け物がたくさん。もしかすると、ギルドの中にいた冒険者たちは、この作業が終わるのを待っているのかもしれない。


「魔石の買い取りをお願いします!」

「あー、新人さん? そこのテーブルの上に並べといてよ」


 ここにもまたルールがあるのか。

 リュックを開いて、砂利みたいな魔石をじゃらじゃらと取り出す。

 ゴブリンとスライムで別にして、スライムのほうは一列が五個になるようまとめていく。


「なんだおっさん、気が利くじゃん。えーと、九十四個ね? はい、受付に持ってって」


 手渡されたのは、ゴブリン一(いち)、スライム九十四と書かれた木の板。おそらく魔道具なのであろう機械でスタンプが押されている。

 ズルができないように対策しているのかもしれない。


 再度パンジィさんの元を訪れ、俺はこの世界で初めての収入――五千ミースを手に入れた。千ミースの硬貨が五枚。財布にしまう。

 なぜだか達成感がある。

 人助けをしたからだろうか。

 命を懸けたからだろうか。

 ……いや、違う。成長の実感だ。

 

 達成できるわけない膨大なノルマを追いかけていた前職の医療機器販売。営業先が決まっているルートセールスってのは、数字を伸ばすのが難しい。

 どうせ無理なのに、何をやらされてるんだろう……ってな毎日だった。

 それに比べて冒険者はいい。スライムの次はゴブリンって目標があり、いずれ手が届く。

 どんどん稼ぎもでかくなるだろうしな。


「さて、あとは食って寝るだけだ」


 レイミー君からおすすめの店を事前に聞いている。

 異世界の美味しい料理を試してみたい。

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