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 フォレスティアンに変身した俺は、スライムを探しながら森を駆ける。

 聴覚と嗅覚で危険を察知できるこの体の方が都合がいい。

 スライムは夜になると隠れてしまうが、昼間なら餌を食べているはず。

 樹上を注意深く観察する。


 さて、早速一匹目を発見した。

 美味しそうに葉っぱを食べている。

 とぐろを巻いた木に登り、ネコパンチ。ぺちんとスライムを地上へと叩き落とす。

 俺も一緒に飛び降りて、華麗に着地。


 スライムの本体は核。臓器とはまた違うのだが、ここで思考するし、核を失えば死ぬ。脳や心臓といった重要な器官に近い。

 つまり、弱点である。


"――チェンジ!"


 人間の姿に戻り、槍で突く。

 リーチの長いこの武器なら、消化液が飛散しても大丈夫だろう。

 だが、液体の中で浮遊する核にはなかなか当たらない。

 卵の白身から、殻の破片を取り除こうとしても避けられるような感覚だ。


「くそっ!」


 スライムは必死に逃げようとしているが、俺が歩くよりも遅い。

 その背……なのかどうか分からないけど、ぷにぷにボディに槍を打ち込む。

 なるほど、あの液状の体が奴の防壁なのだ。

 水流によって、核の位置が変わってしまう。


『なにしてんの?w』

『おっさん不器用か?』

『ほら、老眼きてるからさ』

『あんだけ突かれても死なないんだ』

『こいつ兄貴じゃねえよな?w』


 いやいや、真面目にやってるから。

 ならば、こちらにも考えがある。その特性を逆に利用してやればいい。

 まずは核の下側にゆっくり槍を突き刺す。そして、穂先を地面と水平に、スライムごと持ち上げる勢いで振り抜く。


「――そおいっ!」

 

 柄(え)がしなり、軽々とスライムを引き裂いた。

 女の子がプールで水を掛け合ってはしゃぐような一撃が、スライムの体内に激流を生む。

 飛び出した液体を追いかけて、核が空中に浮かび上がる。

 消化液が霧散(むさん)していく。

 核が体外に出ると死ぬらしい。俺も注意しなければ。

 ゴブリンに比べるとかなり少ないが、無事に吸えた。


「いまさら兄貴の名前を出すのはやめてくれない? 俺だってちょっと過(よぎ)ったけどさ。兄貴は人間じゃないから……」


 冒険者とはモンスターを倒して稼ぐもの。どうせ見つけたらみんな狩る。殺(や)っちまったもんはしょうがない。

 兄貴は恩人(スライム)だけど、一々変身して確認するほどだろうか。

 俺たちは敵同士。気を遣うのもなんか違う。


『ごめんてw』

『そんな落ち込むなよ』

『哀愁(あいしゅう)漂(ただよ)ってるな』


 ……さて、中身を取り出すとしよう。

 魔石まで粉々にしては元も子もない。俺は核に革靴を乗せ、ゆっくりと力を込めていく。

 パキッと音がしたところで拾い上げる。


「五十ミースだけあってかなり小さいな」


 パチンコ玉くらいの魔石が入っていた。

 貴重な収入源だ。リュックに放り込む。


「――チェンジ!」


 再びフォレスティアンに変身して、スライムを探す。

 倒し方さえ分かってしまえばこっちのもの。あとは単純作業だ。

 レイミー君情報によると、森の浅い場所には危険なモンスターはいない。

 耳と鼻に意識を集中しておけば、安全は担保されている。


"結構いるな(ニャア)"


 ちょっと走っただけで、またスライムを発見した。

 今度は左右の木に一匹ずつ。大量である。


『鳴き声かわよw』

『あっ、奥の茂みのとこにもいる!』

『ほんとだ、あんなのよく見つけたね』

『あいつら周囲の景色を反射するから、勝手に保護色になるのか』

『子供の頃ザリガニ見つけるの上手い奴いたよなw』


 じっと動かないスライムは、よほど注意深く観察しないと見逃してしまう。

 妖精さんたちが索敵を手伝ってくれるから助かる。目が何千個にも増えて頼もしい。


 猫と人間の姿を切り替えながら、流れ作業で倒していく。

 このままのペースでいけば、街で傷薬を買って夕食を取れるくらいには稼げそうだ。


 ゴブリンの臭いがしたら、すぐさま逃げる。

 あいつらにはまだ勝てない。

 ネズミがいたら捕食する。

 ……うん、やっぱり美味い。妖精さんたちは阿鼻叫喚の騒ぎ。

 野生の本能に身を任せ、狩って狩って狩りまくる。

 日暮れには、スライムの魔石が九十四個も集まっていた。


"そろそろ帰るか"


 街に向かって駆ける。

 微々たる積み重ねであっても、これだけ吸えば明らかに肉体が強化されている。

 景色があっという間に流れていく。

 ひゅうと鳴る風の音が高揚感に変わる。軽自動車からスポーツカーに乗り換えたみたいだ。

 相変わらず体力はなく、すぐ息切れしてしまう。

 歩きながら呼吸を整えてまた走るを繰り返す。

 でも、それにしたって速い。

 森を抜ける頃には、もうすっかり暗くなっていた。

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