17
フォレスティアンに変身した俺は、スライムを探しながら森を駆ける。
聴覚と嗅覚で危険を察知できるこの体の方が都合がいい。
スライムは夜になると隠れてしまうが、昼間なら餌を食べているはず。
樹上を注意深く観察する。
さて、早速一匹目を発見した。
美味しそうに葉っぱを食べている。
とぐろを巻いた木に登り、ネコパンチ。ぺちんとスライムを地上へと叩き落とす。
俺も一緒に飛び降りて、華麗に着地。
スライムの本体は核。臓器とはまた違うのだが、ここで思考するし、核を失えば死ぬ。脳や心臓といった重要な器官に近い。
つまり、弱点である。
"――チェンジ!"
人間の姿に戻り、槍で突く。
リーチの長いこの武器なら、消化液が飛散しても大丈夫だろう。
だが、液体の中で浮遊する核にはなかなか当たらない。
卵の白身から、殻の破片を取り除こうとしても避けられるような感覚だ。
「くそっ!」
スライムは必死に逃げようとしているが、俺が歩くよりも遅い。
その背……なのかどうか分からないけど、ぷにぷにボディに槍を打ち込む。
なるほど、あの液状の体が奴の防壁なのだ。
水流によって、核の位置が変わってしまう。
『なにしてんの?w』
『おっさん不器用か?』
『ほら、老眼きてるからさ』
『あんだけ突かれても死なないんだ』
『こいつ兄貴じゃねえよな?w』
いやいや、真面目にやってるから。
ならば、こちらにも考えがある。その特性を逆に利用してやればいい。
まずは核の下側にゆっくり槍を突き刺す。そして、穂先を地面と水平に、スライムごと持ち上げる勢いで振り抜く。
「――そおいっ!」
柄がしなり、軽々とスライムを引き裂いた。
女の子がプールで水を掛け合ってはしゃぐような一撃が、スライムの体内に激流を生む。
飛び出した液体を追いかけて、核が空中に浮かび上がる。
消化液が霧散していく。
核が体外に出ると死ぬらしい。俺も注意しなければ。
ゴブリンに比べるとかなり少ないが、無事に吸えた。
「いまさら兄貴の名前を出すのはやめてくれない? 俺だってちょっと過ったけどさ。兄貴は人間じゃないから……」
冒険者とはモンスターを倒して稼ぐもの。どうせ見つけたらみんな狩る。殺っちまったもんはしょうがない。
兄貴は恩人だけど、一々変身して確認するほどだろうか。
俺たちは敵同士。気を遣うのもなんか違う。
『ごめんてw』
『そんな落ち込むなよ』
『哀愁漂ってるな』
……さて、中身を取り出すとしよう。
魔石まで粉々にしては元も子もない。俺は核に革靴を乗せ、ゆっくりと力を込めていく。
パキッと音がしたところで拾い上げる。
「五十ミースだけあってかなり小さいな」
パチンコ玉くらいの魔石が入っていた。
貴重な収入源だ。リュックに放り込む。
「――チェンジ!」
再びフォレスティアンに変身して、スライムを探す。
倒し方さえ分かってしまえばこっちのもの。あとは単純作業だ。
レイミー君情報によると、森の浅い場所には危険なモンスターはいない。
耳と鼻に意識を集中しておけば、安全は担保されている。
"結構いるな"
ちょっと走っただけで、またスライムを発見した。
今度は左右の木に一匹ずつ。大量である。
『鳴き声かわよw』
『あっ、奥の茂みのとこにもいる!』
『ほんとだ、あんなのよく見つけたね』
『あいつら周囲の景色を反射するから、勝手に保護色になるのか』
『子供の頃ザリガニ見つけるの上手い奴いたよなw』
じっと動かないスライムは、よほど注意深く観察しないと見逃してしまう。
妖精さんたちが索敵を手伝ってくれるから助かる。目が何千個にも増えて頼もしい。
猫と人間の姿を切り替えながら、流れ作業で倒していく。
このままのペースでいけば、街で傷薬を買って夕食を取れるくらいには稼げそうだ。
ゴブリンの臭いがしたら、すぐさま逃げる。
あいつらにはまだ勝てない。
ネズミがいたら捕食する。
……うん、やっぱり美味い。妖精さんたちは阿鼻叫喚の騒ぎ。
野生の本能に身を任せ、狩って狩って狩りまくる。
日暮れには、スライムの魔石が九十四個も集まっていた。
"そろそろ帰るか"
街に向かって駆ける。
微々たる積み重ねであっても、これだけ吸えば明らかに肉体が強化されている。
景色があっという間に流れていく。
ひゅうと鳴る風の音が高揚感に変わる。軽自動車からスポーツカーに乗り換えたみたいだ。
相変わらず体力はなく、すぐ息切れしてしまう。
歩きながら呼吸を整えてまた走るを繰り返す。
でも、それにしたって速い。
森を抜ける頃には、もうすっかり暗くなっていた。




