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「その液体はポーションか?」
「え? いや、ただの傷薬ですよ。消毒と傷を治す作用が……って、冒険者なら常識でしたね」
「へ、へぇ、そうなんだ。不思議な薬だねぇ」
「まさか、知らないとかないですよね?」
「うーん、まあ、知らないかなぁ」
「えええぇ……」
うわぁ。レイミー君たら、すんごい呆れた顔してるぅ。
ポーションみたいなものかって強がってもよかったけど、それが存在していて、冒険者なら誰もが常備してるだなんて知らない。
だって、お金がないし、食べ物が最優先だったからね。
「ところでさ、ゴブリンを倒したときに、なんか体が強化されたような気がしたんだけど。あれはなに?」
「まあ、そういうものですからね。子供の頃に冒険者になるって決めたら、薬草採取で小遣い稼ぎがてらスライムを狩りましたよね?」
「スライムなら昨日一緒に遊んだね。なぜか子作りする流れになって、危うくケツを掘られそうになったけど。あはははは」
昨日の自分を客観視したら、乾いた笑いしか出ない。
まあ、なんとなく理解してきた。
商人の家に生まれたら、商人になる。この世界では、子供の将来が決まっているのだ。
街の店がほぼ一族経営だったのも、こういった仕組みが影響しているのだろう。
モンスターを倒せば、肉体が強化される。これも常識のうちで、レイミー君からしたら知らない俺がおかしい。
強さを求められる冒険者は、子供のうちからスライムという誰でも倒せる雑魚を狩り、そのついでに薬草採取でお金を貯めながら着々と準備を進めていく。
親から武器の扱いを教わって、レイミー君のような一人前ができあがるってわけだな。
「助けてもらって言うのもなんですが、冒険者は命懸けです。マサルさんの境遇は知りません。でも、自分が就く仕事くらい、事前にちゃんと調べておくべきではないでしょうか」
ド正論パンチ。これは効く。
真面目に働く彼からすれば、俺は適当に仕事をする舐めた態度の大人。医療機器の営業をするのに、各社の注射針の違いすら分かっていないのと同じ。
怒られても仕方ない。
「マサルさん、僕でよければ力になりますよ」
「レ、レイミー君……」
なんというアメとムチ。ムスッとした表情で怒られた後に、爽やかな笑顔を向けられた。
なんて良い子……とは思いつつも、この機会を最大限に利用したい。
恩という商品を提供したのだから、それなりに価値のあるもの――いまであれば情報で返して欲しい。
俺は食べ放題に行けば、単価を計算しながらお得感を満喫するタイプ。中華ならエビチリ、洋食ならローストビーフを食いまくる。
ふふふ、力になってくれるというなら元を取ってやろう。
足りない知識を補うために、これでもかと質問攻めにしていく。
「いままでモンスターを倒したことがなければ、まずはスライムから狩るでいいかな?」
「えぇ、それで大丈夫です。吸えなくなったら――」
モンスターを倒して強くなる現象を、吸うって表現しているのは面白いな。不思議な力を全身で吸収してるって感覚だったし、しっくりくる。
モンスターごとに吸える限界があるようで、例えばスライムを十とするならゴブリンが百って感じ。ただ、最初からゴブリンで十まで吸ってしまえば、もうスライムからは吸えない。
強いスキルを持っているとかで、格上のモンスターを狩れるなら、そっちのほうが効率がいい……ということみたい。
「レイミー君て、どこの宿に泊まってるの? 傷薬っていくらする? みんなどうやってお金を稼いでるのかな?」
「えっと……」
宿の場所を聞いたのは、困ったときに押しかけるため。レイミー君がブチギレるまで、搾取してやろうと思う。
傷薬は一瓶で千二百ミースらしい。意外とお手頃だ。
冒険者の稼ぎは大きく分けて三つ。
一つ目は討伐報酬。
二つ目は、モンスターの体内に必ず存在している魔石をギルドで売る。
三つ目は、ダンジョンで宝箱を開けて中身を換金。
もっとも、ダンジョンで活動するには、同じ人間とは思えない化け物じみた強さを身につけてからになる。
『はえぇ、勉強になりますなぁ』
『レイミーきゅんに会わなかったら終わってたねw』
『スライム狩るだけでも稼げるなら最初に教えてくれよパンジィちゃん』
『傷害事件に加担してるマサルに常識なんて通じないんだからさぁw』
『こっちはスライムに掘られてんだぞって!』
いくら駆け出しとはいえ、ゴブリン三体でたったの五百ミースはおかしいと思っていた。
何も知らなきゃ、あんな汚さそうな奴を掻っ捌くとかやらなかっただろうしな。ありがたい情報だ。
さっそくレイミー君が、ゴブリンの胸の辺りを切り裂いて実演してくれている。
「これが魔石です。スライムなら核の中にあって、五十ミースで売れます。ゴブリンなら心臓の右手側にあり、三百ミースですね。一つどうぞ」
手渡された魔石は、黒っぽい紫色をしていた。およそ人差し指の先から第一関節くらいまでの大きさか。
陽の光に照らしてみると、ゴツゴツした表面がキラキラと輝く。
大事なお金だ。リュックにしまっておこう。
「魔法ってあるの?」
「珍しいスキルですが、ありますよ。人間よりモンスターの方が、魔法を使える個体は多いみたいです」
よかった、魔法は存在するらしい。
異世界のお約束みたいなものだからな。いつかはこの目で見てみたい。
モンスターに変身できる俺なら、そのうち使えるようになるかもしれない。
「魔石は全部売っちゃっていいの?」
「魔道具を起動するエネルギーになりますので、もし必要なら手元に置くのもありです。ほら、街灯とか給湯器とか、生活を便利にする魔道具があるじゃないですか?」
ご存知の通り……みたいに言われたところで、ホームレス同然の生活をしていた俺には馴染みがない。あの街灯がそうなのねって感じだ。
魔道具とは家電のようなもので、電気の代わりに魔石のエネルギーで動くのだろう。
ふむふむなるほどと反応しながら、この後も疑問を投げ続けた。
レイミー君の顔がどんどん曇っていく。
「あの、そろそろ……」
お日様が真上に来たあたりで、レイミー君も限界を迎えたらしい。
このまま俺が邪魔していたら、彼の稼ぎが足りなくなってしまう。
そろそろ解放してやるか。
「そうだよね。助かったよ、ありがとう。また分からないことがあったら、宿まで聞きに行くよ! いいよね、ね?」
「……え? あ、はい」
断りづらい雰囲気を作り、言質を取った。
彼はとても嫌そうな顔をしているが、これで大義名分を振りかざせる。
『このおっさんやば……』
『ほんまに社会人やってたんか?w』
『非常識な行動しか見せられてない』
『サイコすぎん?』
『いい歳した大人のやることじゃねえよw』
俺はレイミー君と別れ、スライム狩りに向かうことにした。




