恋人になった瞬間、距離感が壊れた
第十六話まで読みに来てくださってありがとうございます。
ついにこの二人、恋人になりました。
……なったんですが。
今回のテーマは、
「付き合った後の方がむしろ恥ずかしい」
です。
今までは“営業”とか“曖昧な関係”という逃げ道がありました。
でも今は違う。
好きな人が、“好きな人”として隣にいる。
それだけで全部の距離感が変わってしまう。
今回はそんな、“恋人初日”みたいな空気をたくさん詰めた回です。
あとレイ、かなり浮かれています。
それでは第十六話、どうぞ。
「……で」
翌日。
私はソファの端で膝を抱えながら、目の前の女を睨んでいた。
「なんでそんな機嫌いいの」
レイは朝からずっと笑っている。
怖いくらいに。
「彼女できたから」
「うるさい」
顔が熱くなる。
無理。
まだ慣れない。
昨日のことを思い出すだけで心臓が終わる。
屋上。
告白。
抱きしめられて。
そのあと。
『……じゃあ付き合ってるってことでいい?』
って、普通に確認された。
軽く言うな。
人生変わる言葉を。
「ミオ」
「なに」
「今日かわいい」
「黙って」
「彼女かわいい」
「黙って!!」
レイが楽しそうに笑う。
こんなの絶対今まで我慢してた反動だ。
◇
問題は。
付き合ったあとも、普通に配信があることだった。
『こんばんは〜!』
配信開始。
私はいつも通りを装う。
装う、つもりだった。
『なんか今日空気違くない?』
『距離近い』
『レイの機嫌どうした』
バレてる。
なんで。
まだ何も言ってないのに。
「ミオ、マイク」
「え」
レイが自然に私のマイク位置を直す。
距離が近い。
近すぎる。
『近っっっ』
『はい付き合った』
『空気が甘い』
コメント欄がうるさい。
私は必死にゲーム画面を見る。
無理。
意識しないとか無理。
「ミオ」
「なに!」
「声大きい」
「レイのせいでしょ!」
一瞬、沈黙。
そしてコメント欄大爆発。
『認めた』
『彼氏彼女の会話』
『糖度高すぎ』
終わった。
配信人生終わった。
◇
配信後。
私は机に突っ伏していた。
「……無理」
「何が」
「付き合ったあと普通に配信するの難しすぎる」
レイは隣で笑っている。
「ミオ分かりやすすぎ」
「レイが余裕すぎるの!」
「余裕じゃないよ」
「嘘」
その瞬間。
レイが静かに私の手を取った。
ドキッとする。
「……レイ?」
「今もめちゃくちゃ緊張してる」
そう言う声は、少しだけ掠れていた。
初めて知る。
この人もちゃんと緊張するんだ。
「だって」
レイが小さく笑う。
「好きな子が彼女になったから」
「っ……!」
心臓が壊れる。
「それ、反則」
「ミオの方が反則」
「なんで」
「昨日、“好き”って言った時」
レイが少し俯く。
「本当に泣きそうだった」
胸がぎゅっとなる。
私はそっと、レイの指を握り返した。
「……私も」
「え」
「まだ夢みたい」
レイが少しだけ目を見開く。
そして。
どうしようもなく嬉しそうに笑った。
「ねえミオ」
「なに」
「キスしていい?」
時間が止まる。
「……………………は?」
「嫌?」
「そういうの確認するんだ」
「彼女だからちゃんとする」
ずるい。
本当に。
私は顔を隠すように俯いた。
「……五秒だけ待って」
「長いなあ」
「無理だから!! 心の準備!!」
レイが笑う。
その笑い声が優しくて。
私はもう、この人の隣から逃げられないと思った。
第十六話を読んでくださってありがとうございました。
恋人編、始まりました。
でもこの二人、付き合った瞬間に急に器用になるタイプではないので、むしろ今の方が距離感バグっています。
特にミオ。
今までは“好きかどうか分からない”で耐えていたのに、認めた瞬間すべての接触が致命傷になっています。
一方レイはかなり幸せそうです。
でも実は本人もめちゃくちゃ緊張しています。
今回の
「彼女だからちゃんとする」
は、レイの性格がかなり出ている台詞でした。
軽く見えて、こういうところはすごく大事にする人です。
あと、付き合った直後に通常営業配信するの普通に難易度高いと思います。
コメント欄の察し能力が強すぎる。
ここから二人は、“隠していた恋”ではなく、“続いていく恋”を始めていきます。
でももちろん、まだ波乱は終わりません。
ではまた次回。




