はじめて、嫉妬じゃなくて不安だった
第十四話まで読みに来てくださってありがとうございます。
今回は、“嫉妬”から少し変わった感情を書く回でした。
今までのミオは、
「取られたくない」
より、
「近づきすぎるのが怖い」
という感情が強かった子です。
でも今回は初めて、
“離れていくかもしれない不安”
を自覚し始めます。
それはたぶん、相手をちゃんと特別だと思い始めた証拠です。
そして今回のレイは、かなり“迎えに行く側”の人になっています。
今回のテーマは、
「好きになると、失う想像まで始まってしまう」です。
それでは第十四話、どうぞ。
「ねえミオ、今日のコラボ相手知ってる?」
リンがスマホを見せてくる。
私は何気なく画面を見て。
固まった。
【超人気配信者・黒瀬アオ × 雨宮レイ コラボ決定!】
「……聞いてない」
「レイさん言ってなかったんだ」
胸がざわつく。
嫌な感じ。
別にコラボくらい普通なのに。
でも。
黒瀬アオ。
登録者三百万人超えの大型配信者。
距離感近め。
人懐っこい。
しかも。
『レイちゃん前から好きだったんだよね〜』
過去の切り抜きで、そんな発言までしていた。
最悪。
◇
「ミオ?」
控室。
レイがこちらを見る。
「どうしたの」
「……別に」
「嘘」
最近、本当にすぐ見抜かれる。
「今日のコラボのこと?」
「……」
「怒ってる?」
「怒ってない」
「じゃあ不安?」
その言葉に、心臓が跳ねた。
不安。
私は少し黙る。
そして。
「……分かんない」
またそれ。
でも今回は、本当に少し違った。
嫉妬だけじゃない。
もっと静かで、嫌な感じ。
「ミオ」
レイが近づく。
「大丈夫だよ」
「何が」
「私、ちゃんと帰ってくるから」
「……何それ」
恋人みたいな言い方。
そのくせ、まだ恋人じゃない。
曖昧で。
近くて。
苦しい。
◇
夜。
コラボ配信。
私は家でそれを見ていた。
見なきゃよかった。
『レイちゃん今日かわいくない?』
『アオくん距離近!』
『お似合いじゃん』
コメント欄がうるさい。
黒瀬アオは、確かに話しやすそうな人だった。
配信も上手い。
空気作るのも上手い。
そして。
『レイちゃんって、好きな人いるの?』
その質問に、私は息を止めた。
レイは少しだけ笑う。
『いるかも』
胸が苦しくなる。
『え、誰誰!?』
『秘密』
コメント欄が盛り上がる。
私はスマホを伏せた。
見てられなかった。
苦しい。
なんで。
なんでこんなに嫌なんだろう。
その時。
スマホが震えた。
レイから。
『配信終わった』
私は少しだけ迷って。
『おつかれ』
だけ返した。
数秒後。
『今から会える?』
胸が跳ねる。
◇
夜の公園。
人は少ない。
レイはマスク姿のまま、ベンチへ座った。
「……寒」
「呼び出したのレイでしょ」
「でも来てくれた」
その声が少し嬉しそうで、余計にずるい。
沈黙。
冬の空気。
白い息。
「ミオ」
「なに」
「今日、嫌だった?」
私は答えられなかった。
でも。
答えなくても、たぶん顔に出てた。
レイが少し困ったように笑う。
「ごめん」
「……なんで謝るの」
「不安にさせたなら」
その言葉で、胸がきゅっとなる。
私は俯いた。
「……嫉妬とかじゃない」
「うん」
「ただ」
喉が苦しい。
「レイが、誰かのところ行っちゃう気がして」
一瞬、静寂。
言ってしまった。
終わった。
顔を上げられない。
でも次の瞬間。
レイの手が、そっと私の指先に触れた。
「行かないよ」
優しい声。
まっすぐな声。
「だって、行きたい場所もう決まってるから」
「……え」
レイは少しだけ笑う。
そして。
「ミオの隣がいい」
その言葉で。
胸の奥にあった不安が、少しだけ溶けた気がした。
第十四話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり静かに、でも大きく関係が進んだ回でした。
特にミオの
「レイが、誰かのところ行っちゃう気がして」
は、ほぼ無意識の本音です。
ここまで来るともう、“特別”はかなり明確になっています。
そしてレイの
「ミオの隣がいい」
は、かなりストレートな告白に近い言葉でした。
でも面白いのは、この二人まだ正式には付き合っていないところです。
好きはもう溢れてる。
でも最後の一歩だけ、お互い少し怖い。
今の二人は、まさにその境界線に立っています。
あと黒瀬アオ、完全に当て馬ポジションでした。
でも彼のおかげで、ミオが自分の不安を言葉にできたのでかなり重要人物です。
次回、二人の関係はさらに決定的な方向へ動きます。
ではまた次回。




