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百合営業のはずだった  作者: 星恋 hosiko


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12/13

たぶん、もう特別だった

第十二話まで読みに来てくださってありがとうございます。


 今回は、“関係に名前がつく直前”の回です。


 今までの二人は、

「営業」

「仕事」

「距離感」

 という言葉を使って感情を曖昧にしてきました。


 でも曖昧って、ずっとは続かないんですよね。


 好きかどうか分からなくても、

 “この人が特別だ”という感覚だけは、先に形になってしまう。


 今回のテーマは、

「恋は、気づいた時にはもう始まっている」です。


 それでは第十二話、どうぞ。

 最近、コメント欄がやけに静かだった。


 いや、正確には違う。


 騒いではいる。


 でも。


『もう付き合ってる前提で見てる』

『逆にまだ付き合ってないの?』

『熟年夫婦感ある』


 誰も“営業”って言わなくなっていた。


 その変化が、少し怖い。


     ◇


「今日、案件先との打ち合わせあるから」


 事務所。


 マネージャーが資料を配りながら言う。


「二人で出るイベントの話ね」


「イベント?」


「リアルコラボカフェ」


 嫌な予感しかしない。


 資料を開く。


【Lily Crown コラボカフェ企画】


 その下。


【コンセプト:秘密の放課後デート】


「……………………」


「終わった」


 私は机に突っ伏した。


 マネージャーは遠い目をしている。


「企業側が“そういう空気感”求めてるから……」


「絶対SNS担当が切り抜き見て決めたでしょ」


「まあたぶん」


 レイは隣で普通にメニュー案を見ていた。


「このパフェかわいい」


「なんでそんな冷静なの」


「仕事だし」


 さらっと言う。


 その言葉に、少しだけ胸がざわつく。


 仕事。


 そう。


 本来は。


 全部そこから始まった。


     ◇


 打ち合わせ帰り。


 私は一人で自販機の前に立っていた。


 冷たい缶コーヒーを買う。


「ミオ」


 後ろからレイの声。


「一人で逃げるのずるい」


「逃げてないし」


「嘘」


 レイは私の隣へ立つ。


 少し沈黙。


 冬の風が冷たい。


「……仕事って便利だね」


 気づけば、そんな言葉が漏れていた。


「便利?」


「だって、全部誤魔化せるから」


 近くても。

 触れても。

 特別でも。


 “仕事”って言えば、曖昧にできた。


「でも今は違う」


 私が小さく言うと、レイは静かにこちらを見る。


「違う?」


「……分かんなくなった」


 本音だった。


 仕事なのか。

 本気なのか。


 その境界が、もう見えない。


 レイは少しだけ笑った。


 優しい顔だった。


「ミオ」


「なに」


「私は最初から、ちょっと特別だったよ」


 心臓が跳ねる。


「え」


「営業始めた時から」


 レイは前を向いたまま続ける。


「他の人と組む案もあったけど、ミオがいいって言ったの私」


 知らなかった。


 本当に。


「なんで」


「顔が好きだった」


「最低」


「あと声」


「もっと最低」


 レイが笑う。


 でも。


 次の言葉だけは、冗談じゃなかった。


「気づいたら、隣にいるのが普通になってた」


 胸が苦しい。


 痛いくらい。


「だから多分」


 レイがこちらを見る。


「営業じゃなくなったの、結構前からだよ」


 世界が静かになる。


 その言葉を聞いた瞬間。


 今まで曖昧だったもの全部に、輪郭ができてしまった気がした。


 私は、ゆっくり息を吐く。


「……私」


「うん」


「まだ怖い」


「知ってる」


「でも」


 レイの顔を見る。


 配信の時じゃない。


 営業の顔じゃない。


 ただ、私を待ってる顔。


「……レイといるの、好き」


 一瞬、沈黙。


 そして。


 レイが、少しだけ目を見開いた。


「それ、かなりずるい」


「知らない」


「今すぐ抱きしめたい」


「ここ外!!」


 思わず声が大きくなる。


 レイが楽しそうに笑った。


 でもその目は少し赤くて。


 私は初めて。


 この人を、ちゃんと特別だと思った。

第十二話を読んでくださってありがとうございました。


 今回はかなり大きな回でした。


 ミオが初めて、自分から

「レイといるの、好き」

 と言いました。


 まだ“恋愛”とは言っていません。

 でも、この言葉はたぶん告白よりずっと本音に近いです。


 そしてレイの

「営業じゃなくなったの、結構前からだよ」

 も、この作品の核心に近い一言でした。


 始まりは営業だった。

 でも感情は、いつの間にかその外側へ行っていた。


 この物語はずっと、“境界線が壊れていく話”だったのかもしれません。


 あと今回のレイ、かなり限界でした。

 抱きしめるの我慢して偉い。


 ここから二人は、いよいよ“答え”の近くまで進んでいきます。


 ではまた次回。

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