好きって言ったら、終わると思ってた
第十一話まで読みに来てくださってありがとうございます。
今回はかなり、“感情の核心”に近い回です。
今までの二人は、
「営業」
「距離感」
「配信」
みたいな言葉を使って、本音の周りをぐるぐるしていました。
でも今回はついに、“好きになること自体への怖さ”が出てきます。
ミオは、関係が壊れることを恐れている。
レイは、関係が曖昧なまま止まることを恐れている。
似ているようで、少し違う怖さです。
今回のテーマは、
「恋を認める瞬間は、嬉しいより先に怖い」です。
それでは第十一話、どうぞ。
「昨日の写真、上げてもいい?」
レイのメッセージは、だいたい心臓に悪い。
朝九時。
私はベッドの上でスマホを見つめた。
『どの写真』
『これ』
送られてきたのは、昨日のショッピングモール。
クレーンゲームの前で、私が笑ってる写真だった。
「……いつ撮ったの」
思わず声が漏れる。
自然すぎて全然気づかなかった。
しかも。
顔がやばい。
自分でも分かるくらい、楽しそうだった。
『だめ?』
その聞き方ずるい。
『……変なの映ってない?』
『ミオがかわいい』
『そういうのいいから』
『つまりOK?』
「……っ」
最近ずっと、レイに押し切られてる気がする。
『好きにすれば』
送信。
数秒後。
SNS通知。
レイの投稿。
【オフの日。】
添えられた写真は、クレーンゲームの前で笑っている私。
横顔だけ。
でも。
空気が完全に“彼女を撮った写真”だった。
「っっっ……!!」
コメント欄が地獄になる未来が見える。
『彼女目線』
『これもう隠してない』
『愛がある写真』
『ミオちゃんの顔やばい幸せそう』
無理。
スマホ閉じたい。
でも。
何回も見てしまう。
◇
「ミオ〜」
事務所。
廊下で白雪リンが手を振ってきた。
「聞いたよデート!」
「デートじゃない!」
「でもオフで二人で遊んだんでしょ?」
「それは……そうだけど」
「それデートだよ」
即答だった。
ぐうの音も出ない。
リンは楽しそうに笑う。
「レイさんめちゃくちゃ嬉しそうだったし」
「……え」
「昨日ずっと機嫌良かったよ?」
胸が少しだけざわつく。
そんなの。
知らなかった。
「ミオちゃんさ」
リンが少しだけ真面目な顔になる。
「なんでそんなに怖がってるの?」
「え」
「好きになること」
言葉が止まる。
その質問は、ずるい。
だって。
私はずっと、その答えから逃げてた。
◇
夜。
配信後。
今日は珍しく、レイが静かだった。
「……疲れた?」
私が聞くと、レイは少し笑う。
「ちょっと」
「珍しい」
「ミオ不足かも」
「意味分かんない」
でも。
少しだけ安心した。
いつものレイだ。
「ねえミオ」
「なに」
「今日さ、リンに何か言われた?」
ドキッとする。
「……なんで」
「顔」
見抜かれてる。
本当にこの人、ずるい。
「別に」
「嘘」
レイは静かにこちらを見る。
逃げ場のない目だった。
「……好きになるの怖くないのって、聞かれた」
レイが少しだけ目を細める。
「で、ミオはなんて答えたの」
「答えてない」
「そっか」
沈黙。
部屋の空気が静かに揺れる。
私は、自分の指先を見る。
「……怖いよ」
小さく漏れた声。
自分でも驚くくらい弱かった。
「だって、好きって言ったら」
終わる気がした。
今の関係が。
今の距離が。
全部壊れてしまいそうで。
「ミオ」
レイの声は優しかった。
「私は逆」
「……え」
「好きって言えない方が、終わりそうで怖い」
胸が苦しくなる。
レイは少し笑った。
でもその顔は、少しだけ寂しそうだった。
「だから待ってる」
「……」
「ミオが、ちゃんと私を好きになるまで」
その言葉が。
あまりにも真っ直ぐで。
私はもう、逃げ方が分からなくなっていた。
第十一話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり静かに、でも大きく物語が動いた回でした。
特にミオの
「好きって言ったら、終わる気がした」
は、この作品の中心にある感情かもしれません。
恋って、始まることより“変わってしまうこと”が怖い時があります。
今の関係が好きだからこそ、名前をつけた瞬間に壊れそうで怖い。
ミオはずっとそこに立ち止まっています。
一方レイは、
「言わないまま終わる方が嫌」
というタイプ。
だから待つ。
押しすぎず、でも絶対離れない距離で。
今回のレイはかなり大人でした。
たぶん本人も、めちゃくちゃ不安なのに。
そして白雪リン、完全に恋愛観測員ポジションになってきましたね。
たまに核心を刺しに来ます。
次回からは、少しずつ“答え”へ近づいていきます。
ではまた次回。




