はじめて、配信のないデート
第十話まで読みに来てくださってありがとうございます。
今回は、“配信のない時間”のお話です。
カメラもコメント欄もない。
数字も演出もない。
そんな場所で二人が一緒にいると、逆に誤魔化しが効かなくなります。
今回のテーマは、
「仕事じゃない時間に、誰といたいか」。
恋愛って、派手な告白よりも、こういう何気ない時間で形になっていくことが多い気がします。
あとレイ、クレーンゲーム下手です。
でもたぶん、取れない時間込みで楽しかったタイプです。
それでは第十話、どうぞ。
「……なんでいるの」
土曜日、昼十一時。
駅前。
私は帽子を深く被りながら、目の前の女を睨んでいた。
レイはいつも通り平然としている。
「待ち合わせしたから」
「してない」
「“考えとく”って言った」
「それは断りきれなかっただけでしょ」
「来てる時点で脈あり」
「うるさい」
数日前。
説明配信のあと、レイからメッセージが来た。
『今度、配信なしで出かけない?』
意味が分からなかった。
配信の企画でもなく。
案件でもなく。
撮影でもなく。
本当にただの外出。
つまり。
ほぼデートだった。
「……ほんとに普通に遊ぶだけだから」
レイが少しだけ笑う。
「そんな警戒しなくても取って食べないよ」
「信用ないから」
「ひど」
でもその声は楽しそうだった。
◇
ショッピングモール。
休日の人混み。
私たちは一応変装していた。
帽子、マスク、眼鏡。
でも。
「……なんでそんな堂々としてるの」
「別に悪いことしてないし」
レイは普通に私の隣を歩く。
距離が近い。
自然すぎる。
「ミオこそ挙動不審」
「だって見つかったら」
「その時はその時」
強い。
メンタルが強すぎる。
私はため息をつきながら隣を歩いた。
すると。
「あ」
「?」
「見て、あれ」
レイが指さした先。
ゲームセンターのクレーンゲーム。
中には、大きな白い猫のぬいぐるみが入っていた。
「かわい」
思わず声が漏れる。
その瞬間。
レイがにやっと笑った。
「今かわいいって言った」
「……言ってない」
「言った」
「言ってない」
「取ってあげる」
「は?」
レイはそのままゲームセンターへ入っていく。
「ちょ、待って」
そして十分後。
「……なんで取れないの」
「おかしいな」
全然取れなかった。
レイ、下手だった。
意外すぎる。
「もう四千円使ってる」
「でもあとちょっとなんだよ」
「沼ってる人の台詞」
私は呆れながら笑う。
その時。
レイがふっとこちらを見る。
優しい顔だった。
「……ミオ、今笑った」
「え」
「最近、配信外だとあんまり笑わなかったから」
胸が少し痛くなる。
そんな顔で言わないでほしい。
「……別に」
「もっと見たいな」
「っ……」
だめだ。
最近、本当に心臓がもたない。
◇
帰り道。
結局ぬいぐるみは取れなかった。
でも。
「楽しかった?」
レイが聞いてくる。
夕方の光が横顔に落ちていた。
私は少しだけ黙る。
楽しかった。
悔しいくらい。
配信もなくて。
営業でもなくて。
ただ隣にいただけなのに。
こんなに自然で、安心するなんて。
「……まあ、それなりに」
「素直じゃない」
「レイが慣れてないだけ」
レイが小さく笑う。
そして。
「じゃあ次はもっとデートっぽいことしよっか」
「デートって言うな!」
思わず声が大きくなる。
周りの人が少しこちらを見る。
終わった。
私は慌てて俯く。
でもレイは、少しだけ嬉しそうだった。
「否定しないんだ」
「……っ」
言葉が詰まる。
否定。
できなかった。
その沈黙だけで、全部ばれてしまいそうだった。
第十話を読んでくださってありがとうございました。
今回はかなり静かな回でした。
でも個人的には、この作品の中でもかなり大事な回です。
なぜなら二人が初めて、
“誰かに見せるためじゃない時間”
を一緒に過ごしたから。
配信中の距離感ではなく、ただ隣を歩く距離感。
その違いを、ミオ自身が少しずつ感じ始めています。
特に、
「楽しかった?」
に対するミオの反応はかなり本音寄りです。
もうこの辺りになると、ミオは“恋じゃない”とは言えても、“特別じゃない”とは言えなくなっています。
そしてレイは、それをちゃんと待っている状態です。
あとクレーンゲーム四千円溶かしてるレイ、だいぶ人間味ありましたね。
完璧そうに見えて変なところで不器用な女です。
次回からは、少しずつ“好き”という言葉そのものに近づいていきます。
ではまた次回。




