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【完結】鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第11章 映りゆく世界

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第93話 絶望

「————なるほど、SULLET(スレット)———— TELLUS(テルース)か。単純な言葉遊び(アナグラム)だが、外国人であるキミたちがすぐに思い当らなかったのも無理はないのかも知れないね」

 

 離れていた間の経緯(いきさつ)をタスクとリンファから聞いたジゼルはアゴに指を当ててつぶやいたが、その首から下は依然として『鏡人(ミロワール)』の皮に覆われており、その真剣な表情がシュールさをより強調させていた。

 

「……あまり驚いていないように見受けられるが?」

「そんなことはないさ。充分に驚いているよ。まさか本当に実行されるとは思わなかった」

「その言い方じゃと、予想しとったように聞こえるで?」

「あくまでも可能性としてだがね。ジャンくんと話していた時にふと頭をよぎったのさ」

「……ジャン……」

 

 その言葉にタスクとリンファが悲しげに眼を伏せたが、ジゼルはすでに受け入れているのか感傷に浸る様子を見せずに続ける。

 

「人類総『鏡人(ミロワール)』化計画か……。まさに神らしい人間離れしたスケール感と無慈悲な残酷さで生み出された発想だね」

「関心しとる場合か! なんかええ考えはないんか⁉︎」

 

 どこか他人事のように話すジゼルに苛立ったリンファが噛み付いた。

 

「残念ながら、今のところはこの『鏡人(ミロワール)』スーツでコピーを防ぐことくらいしか思いつかないね」

「…………」

 

 頼みの綱であるジゼルにも打倒・テルースの妙案がないと知らされ、さすがのリンファも黙り込んだ。

 

「それでは私からも訊くが、キミに何か考えはないのかね、タスクくん?」

「……ミロワの生命(いのち)を守るためにあの場は退()くしかなかったが、敵方の大将が戦場(いくさば)に姿を現したことで光明が見えたと言えるかも知れない」

「ふむ……。つまり、顕現したテルースを打倒するということかね?」

 

 ジゼルの問いにタスクは決意を秘めた眼で深くうなずいた。

 

「ああ。対峙したテルースからは確かに尋常ではない重圧を感じたが、一つ気付いたこともある」

「ほお、それは?」

「最初にスレットとして会った姿と比べて、テルースが正体を現した時には数歳ほどだが(よわい)を重ねているように見えた。恐らくだが、多数の『鏡人(ミロワール)』を産み出すことはテルースにとっても大きな負担を強いるのではないか……⁉︎」

「そうかも知れないね。私は未経験だが、出産とは命懸けの行為と聞く。それを全人類をカバーするほどの数となれば、まさに身を削っていると言えるだろう」

「ほんなら、今この瞬間にもテルースは弱くなっていっとるってことなんか⁉︎」

「恐らくな。弱っていく相手を討つというのは卑怯なようではあるが、事ここに至っては綺麗事ばかりも言っていられない」

「————少し待ちたまえ」

 

 一縷(いちる)の望みに眼を輝かせて話すリンファとタスクにジゼルが待ったを掛けた。

 

「何じゃ、ジゼル?」

「希望で眼が眩んでいるのか、それとも無意識に考えまいとしているのかは分からないが、キミたちは重大なことを一つ見落としているよ」

「……重大なこと……————ッ‼︎」

 

 ハッとした様子のタスクにジゼルは指を差して続ける。

 

「そう。キミたちが倒そうとしているのは、この世界そのものである神だ。その神が倒れることになれば、どうなると思うね?」

「…………世界が、滅びる……⁉︎」

「…………‼︎」

 

 虚空を見つめてタスクがつぶやくと、リンファは驚愕で眼を見開かせた。

 

「確証はないが、そんな事態に陥っても全く不思議ではないと私は思うよ」

「そんな……‼︎ ……ほんなら、人類(ウチ)らーは『鏡人(ミロワール)』になることを受け入れるしかないんか……⁉︎」

「…………」

 

 絶望感に染められたリンファの言葉にタスクもジゼルも反論することは出来なかった————。

 

 

      ◇

 

 

 タスクとジゼルは横たわった丸太に並んで腰掛けて焚き火に当たっていた。

 

「————ところで、ずっと気になっていたのだが……」

 

 不意に口を開いたタスクにジゼルが反応する。

 

「ん、何かね?」

「何故、俺たちの居場所が分かったのだ? グロンダン付近にいることは分かっていたとしても、あれほど的確に向かって来たのは少々驚いた」

「ああ、あれかね。フフフ、キミのカタナのガードを見てごらん?」

「ガード……? (つば)のことか?」

 

 タスクは懐に手を差し入れ、刀身を折られた際に外しておいた愛刀の鍔を取り出した。

 

「む……、これは……?」

 

 よくよく観察して見ると、鍔の紋様の隙間に極小の鉄の塊が挟まっているのに気が付いた。

 

「フフ……。それは発信器だよ、タスクくん!」

「ハシンキ……⁉︎」

 

 タスクが眼を向けると、ジゼルは点滅する『晄石(ジェム)』を片手に得意げな笑みを浮かべている。

 

「その発信器には私が持っている受信機と同じ『晄石(ジェム)』を入れてあるんだ。試作品だから感知できる距離はさほどではないが、ある程度近づけばこのように点滅して教えてくれるという寸法さ! もしもの時のために仕込んでおいたのが奏功したということだね!」

「……もはや、なんでもありだな……」

 

 呆れた様子で発信器を返したタスクは、ジゼルの乗って来た車へと顔を向けた。その後部座席では、リンファが静かに寝息を立てている。

 

「————リンファ嬢にはショックが大きかったかな……」

 

 焚き火に薪をくべながらジゼルがつぶやくと、タスクは揺らぐ炎へと視線を戻して答える。

 

「……リンファはずっと俺のために気を張ってくれていた。衝撃を受けて緊張の糸が切れるのも無理はない」

「ふむ……」

「……正直に言って、俺も混乱している。いや、絶望していると言っていいのかも知れない……」

「…………!」

 

 タスクの口から弱音が漏れたことにジゼルも眼を見開かせたが、すぐに眼鏡の位置を直して平静を保つ。

 

「……遅かれ早かれ、この世界は終わりに近づいていたのかも知れない。環境汚染もそうだが、人類がこの地球(ほし)すらも滅ぼすことの出来る兵器を生み出すこともそう遠くないと私は見ている」

「……善磨(ぜんま)殿も同じことを懸念していた……」

「ほう? オリジナルのゼンマ氏が?」

 

 興味深げに尋ねるジゼルにタスクはコクリとうなずいた。

 

「『母なる地球(ほし)すら滅ぼしてしまう生物に生きる価値はあるのか』と……」

「だからこそテルースは手遅れになる前に『晄石獣(ジェムート)』に『鏡人(ミロワール)』を相次いで産み出すことを決意したということだね。同じ人類の一人として複雑な気持ちではあるが……」

「…………」

 

 それ以上、答えることの出来ないタスクに代わってジゼルが口を開く。

 

「キミもそろそろ休みたまえ。まずはその傷が癒えないことには何も起こせないだろう」

「……そうさせてもらう」

 

 タスクはジゼルの言葉に素直に従い、焚き火の脇で横になった。

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