第92話 進化する変態
プレーン型の『鏡人』と思われたモノの正体はなんと、ロワゴールの街に住んでいるはずの変態科学者のジゼル・オットーであった。
「…………ジゼル殿……!」
信じられないと言った様子でつぶやいたタスクに、『鏡人』の頭部を脇に抱えたジゼルがニッコリと笑みをぶつける。
「そう、私だよ! 覚えていてくれて嬉しいよ、タスクくん!」
「お前……ここでなんしょんなら⁉︎」
当然の疑問をリンファが口にすると、ジゼルはグリンッと顔を向けて腕を広げた。
「リンファ嬢も相変わらず元気いっぱいだね! まずは再会を祝して————」
「悪いが、そこで止まってくれ。ジゼル殿」
今にも目一杯のハグをしてきそうなジゼルをタスクが牽制した。
「ん? 何故だね?」
「……ジゼル殿、その面妖な出で立ちはいったい……⁉︎」
「ああ、これかね! ……フッフッフ、よくぞ訊いてくれた……!」
突如、得意げな笑みを浮かべたジゼルは抱えていた『鏡人』の頭部をスポッと被って見せた。
「————これは私が『鏡人』の死骸から造り出した画期的な発明品さ! その名も『初期型・『鏡人』スーツ』だよ! どうだね、恐れ入っただろう⁉︎」
「……恐れ入るも何も『鏡人』の皮を纏っているだけではないのか……⁉︎」
「……それのどこが画期的なんじゃ……」
二人の冷めた反応にも特製スーツを纏ったジゼルは揺るがない。
「何を言う! このスーツが完成していなければ、今頃私はこの世に存在していなかったんだよ⁉︎」
「……どういうことだ……⁉︎」
タスクに尋ねられたジゼルは再び着ぐるみ————もとい『鏡人』スーツの頭部を外して口を開く。
「————実は二日ほど前にロワゴールの街に大量の『鏡人』が現れてね。老若男女の区別なく眼に映る人間をコピーし始めたのさ」
「…………! やはり、ロワゴールでも……!」
「やはり、と言うとグロンダンでもかね?」
「ああ……!」
重い面持ちでうなずいたタスクに続いてリンファが問う。
「それで、お前は何で無事だったんじゃ?」
「フフフ、このスーツのおかげだと言っただろう? 『鏡人』がコピー時に射出する赤い光線をこのスーツで反射させて難を逃れたという訳さ!」
またしても『鏡人』の頭部を被ったジゼルは名称の分からないポーズを決めて見せたが、タスクは特にツッコむこともなく続ける。
「あの光線を反射させただと……⁉︎」
「そうだよ。『鏡人』の研究をしていて発見した私の成果さ……!」
「『鏡人』の死骸ならウチとミロワが倒したのが二つあったじゃろ。お前が助かったんなら、何でジャンは……」
「ジャンくんか……、実は彼が買い物に出ている間に屋敷に『鏡人』が侵入して来たんだ。ちょうど完成したスーツを試着していた私はそのまま車に乗り込んで脱出したんだが、ガレージからジャンくんのバイクが失くなっていたから、きっと彼も逃げられたと思ってはいるが違うのかい……?」
『…………』
ジゼルの説明にタスクとリンファは無言で顔を見合わせた。
「……ところでさっきから気になっていたんだが、ミロワ嬢の姿が見えないようだが……?」
『鏡人』の姿のまま近付いて来るジゼルをタスクが再び押し止める。
「……ジゼル殿。先ほども言ったが、そこで止まってほしい」
「…………」
「タスク、まさか……!」
眉をひそめるリンファにゆっくりとうなずいたタスクだったが、その問いに答えたのは彼ではなかった。
「————なるほど。要するに、この私もコピーされた『鏡人』ではないかと疑われているということだね……?」
「……そういうことだ。貴女が本物のジゼル殿だと言うのならば、何か証を見せてほしい」
「…………」
「タスク、考えすぎじゃないんかな……。この変態ぶりはどう考えても本物のジゼルじゃ……」
「いや、進化した『鏡人』ならばジゼル殿の奇天烈さも完全に写し取るだろう。証にはならない」
失礼にも程があるタスクとリンファの言い様にもジゼルは特に怒ることもなく、考え込む仕草を見せる。
「ふーむ……、人間である証拠か……。ここにミロワ嬢がいれば判別も可能なのだろうが、生憎と姿が見えないようだし、一度コピーした『鏡人』は死ぬまで元の姿には戻らないときた。……それでは、こうしようか」
何か思い付いた様子のジゼルはスーツの中から二丁の拳銃を取り出すと、タスクの足元に放り投げた。
「…………⁉︎」
「それが護身用に持って来た武器の全てだよ。キミたちと合流できたからには私にはもう必要ない。それだけではまだ信用できないと言うのなら、私が何か怪しい素振りを見せた時にはいつでも斬り殺してくれて構わないよ」
「……いいだろう。ひとまずそれで手を打とう」
「それじゃあ、ひとまず再会の握手といこうか」
差し出された右手をタスクが力強く掴んだ時、横で眺めていたリンファがボソリとつぶやく。
「……でも、本物のジゼルならナンボでも怪しい動きをしそうじゃけど……」
「…………」
「ハハッ、精々気を付けるよ! あっ、そうだ! キミたちと合流できたら渡したい物があったんだ!」
言うなりジゼルは車の後部座席のドアを開けて何やらガサゴソし始めた。
「おい、何をやっとるんじゃ?」
「コレだよ、コレ!」
ウキウキな様子のジゼルが持ち出したのはキラキラと反射する素材で作られた二着の着ぐるみであった。
「……何だ、それは」
「フフフ、コレは『初期型・『鏡人』スーツ』を元に作った『量産型・『鏡人』スーツ』の試作品だよ! コレさえ着込めば『鏡人』のコピーなど恐るるに足らずと言う訳さ! ちなみに特許の取得も視野に入れている!」
「…………」
「…………」
「さあ、キミたちも早く着たまえ! 見たところタスクくんはLサイズ、リンファ嬢はSサイズで良さそうだ!」
「……お心遣い痛み入るが、遠慮しておく」
「……ウチもいらん」
「————何故だね⁉︎ こんなに機能的でスタイリッシュなのに‼︎」
本気でショックを受けるジゼルに呆れた様子でリンファがまたもつぶやく。
「……ウチ、さすがの『鏡人』もこんな完璧にジゼルの変態ぶりは写せんと思うわ」
「…………そうだな」
進化した『鏡人』に対抗するように、ジゼルの変態ぶりにも更なる磨きが掛かっていた————。




