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【完結】鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第11章 映りゆく世界

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第90話 苦渋の決断

「————『再教育』だと……⁉︎」

 

 つぶやいたタスクは、母親を背中で守る娘のように振る舞うミロワに改めて声を掛ける。

 

「ミロワ! こちらに戻って来い‼︎」

「…………」

 

 しかし、ミロワはその声には耳を貸さず『水天(スイテン)』の力を引き出すと、ようやく声を発する。

 

「……『母様』は私が守る……!」

「…………‼︎」

 

 氷の薙刀を手にして構えを見せたミロワを今度はリンファが呼び掛ける。

 

「寝ぼけとるんか、ミロワ! (はよ)う眼を覚ませえッ!」

「『母様』は私が守る————ッ!」

 

 踏み込んだミロワはリンファの首元に狙いを定めて薙刀を振り切った。

 

「————ッ!」

 

 その一撃を青龍戟で受け止めたリンファにミロワは躊躇なく二撃目を繰り出す。

 

「く……ッ、仕方ないわッ‼︎」

 

 対手の生命の遮断を目的とした容赦のない太刀筋にやむなくリンファが応戦し、病室の中には瞬く間に暴風雨が発生した。

 

 壁に天井に幾重にも傷が刻まれ、二人の乙女が生み出す刃圏の中に侵入する者は瞬く間にバラバラにされてしまうことだろう。

 

「ウヒィッ! 死ぬ、死ぬッ‼︎」

 

 ジャンは充分に距離を取っているにも関わらず、頭を抱えて壁際にうずくまった。

 

 一方、撃たれた左腿に応急処置を施したタスクは泰然自若に戦況を見つめるテルースに声を荒げる。

 

「————テルース! ミロワに何をした⁉︎」

「先ほど言ったように『母』として『娘』に『再教育』を施しました」

「その『再教育』とはなんだッ⁉︎」

「大したことではありません。手術の際に私の言いつけを守るように言い聞かせた(・・・・・・)だけです」

「…………ッ!」

 

 どこまでも淡々と話すテルースに歯噛みしたタスクは視線を暴風雨の中心に戻した。すると、ミロワの胸に巻かれた包帯に赤い染みがじわりと広がっていくことに気が付いた。

 

(薙刀を振るうことで胸の傷が(ひら)いて……‼︎)

 

 タスクは血相を変えて再びテルースに向き直った。

 

「テルースッ! ミロワを止めろ!」

「何故です」

「分からないのか、傷が開いているッ‼︎」

「あなたが大人しく『我が子』となれば『娘』も手を止めるでしょう」

「貴様……ッ‼︎」

 

 怒りに震えるタスクをよそにミロワの胸を染める血痕は次第にその面積を増していく。

 

「…………ッ」

 

 タスクが決めかねている間に、窓の外に何者かの気配が迫る。

 

「————‼︎」

 

 振り向いた先には、プレーン(タイプ)の『鏡人(ミロワール)』が十数体。

 

 今にも踏み込んで来そうなその様子にタスクの腹は決まった。

 

「————リンファ! 退()くぞッ‼︎」

「了解じゃ‼︎」

 

 瞬時にタスクの意図を理解したリンファは迫る薙刀を力一杯に跳ね除けて、タスクに肩を貸した。

 

「ミロワ、逃してはなりません」

「はい、『母様』」

 

 体勢を立て直したミロワの横薙ぎがリンファの背に迫る————!

 

「————それを待っとったんじゃ……!」

 

 白い歯を見せたリンファは薙刀の()に足の裏を合わせ、振り切るミロワの力を利用して一気に前方へと跳躍した。そのまま侵入して来た際に開けた壁面の穴からタスクと共に飛び出し、瞬く間にその姿は街並みの中に消えていった。

 

「チックショウ! 逃げられちまった!」

 

 落としたリボルバーを拾い上げたジャンが悔しげに地団駄を踏むも、テルースは動じる様子を見せることなく冷静に口を開く。

 

「焦る必要はありません。時が経つごとに彼らは追い込まれていくのです」

「そ、そうだよな。さすが『母ちゃん(ママン)』だぜ!」

「…………」

 

 テルースに追従(ついしょう)するジャンとは対照的に、胸を真っ赤に染めたミロワはタスクとリンファが撤退していった先を無言で見つめていた。

 

 

       ◇

 

 

 ————からくも危機を脱したタスクとリンファは街の外に待機しているヘイワンたちの元へと疾走していた。

 

「タスク、大丈夫か……⁉︎」

大事(だいじ)ない……」

 

 先に負った肋骨の骨折に加え、応急処置は施したものの右肩と左腿を撃ち抜かれたタスクの顔色は悪い。だが、精神(こころ)に負った傷はそれ以上の深傷(ふかで)であった。

 

 親友・ジャンの死を聞かされた上に、絆で結ばれた仲間であるミロワを敵の手に奪われ撤退を余儀なくされたのである。

 

「……シュウも残してきてしまった……!」

「シュ、シュウならきっと大丈夫じゃ。アイツらーは人間以外の生物には手を出さんはずじゃ……」

「……ああ」

「…………」

 

 深く気落ちした様子のタスクに流石のリンファもそれ以上かける言葉が見つからず、無言で脚を早めることしか出来なかった。

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