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【完結】鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第11章 映りゆく世界

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第88話 降臨

 無情にも発射された三発の弾丸が茫然自失となったタスクに襲い掛かる————!

 

「————ッ‼︎」

 

 一瞬早く我に返ったタスクは飛来する弾丸を避けようと身をひねったものの、右肩に一発被弾してしまった。

 

「……グッ————アアッ‼︎」

 

 太刀を左手に持ち替え今度こそ突きを繰り出したが、『鏡人(ミロワール)』・ジャンもゴロゴロと床を転がりなんとかこれを躱した。

 

「ウヒィッ! 親友(マブダチ)を殺す気かよ、この野郎ッ!」

 

 床に伏せながら四発目の弾丸を発射したジャンはタスクが避けている隙に立ち上がり、硝煙の立ち昇る銃口を眠っているミロワに向けた。

 

王手(チェック)……!」

「貴様……ッ‼︎」

「おっと! 動くんじゃねえぞ。まだ弾は二発残ってんだからよお」

「くっ……!」

 

 怒りに震えながらも太刀を下げたタスクにジャンは得意げな笑みを浮かべた。

 

「そうそう、それでいいんだよ。俺としてもこんな汚ねえマネはしたかなかったんだけどよ、コピー元の人間(カス)の腕があまりにもお粗末だからしょうがねえよなあ」

 

 ここまで話すとジャンは銃口を再びタスクに向けて続ける。

 

「……つーワケだから、次()けたらどうなるか分かるよな……⁉︎」

「…………ッ」

 

 勿体ぶるように徐々に引き金が引かれ、非情な銃声が響き渡った————。

 

 

 

「————……⁉︎」

 

 死を覚悟したタスクだったが痛みは急所ではなく左腿から感じられ、その場に膝を突いた。

 

「……なんのつもりだ……⁉︎」

 

 歪んだ笑みを貼り付け見下ろすジャンにタスクが怒気を露わにする。

 

(なぶ)りものにするつもりか……ッ‼︎」

「んな趣味はねえよ。殺しちまったら手遅れになっちまうだろが」

「なんだと……⁉︎」

 

 ジャンの返事にタスクが眉根を寄せた時、半開きとなっていたドアがゆっくりと(ひら)かれ、見知った顔の女性が立っているのが見えた。

 

「————スレット殿……!」

「…………」

 

 帰宅したスレットは眼の前で起こっている光景に驚き声も出せないのか、微動だにしない。

 

「スレット殿! 逃げろ‼︎」

「…………」

 

 世話になっている恩人を巻き込まんとタスクが高らかに声を掛けるが、やはりスレットはその声に応えることなく逆に修羅場の中へと歩を進める。その背後にはパトリスの姿も見えた。

 

「俺とミロワのことはいい! 二人とも逃げてくれッ‼︎」

「…………」

「…………」

「……スレット殿……⁉︎」

 

 無表情で何も語ろうとしないスレットとパトリスに代わってジャンが肩を揺らせた。

 

「やっぱ、アニキは人が良いよなあ。まーだ信じちゃってるんだからよお……!」

「…………!」

 

 この期に及んでもなんの反応も見せないパトリスとスレットに奇異の念を(いだ)いたタスクだったが、ジャンの言葉を耳にしてその顔に悔恨と怒気が入り混じった複雑な色が宿る。

 

「————やはり、貴様らも『鏡人(ミロワール)』だったのか……ッ‼︎」

「…………」

「…………」

 

 正体を見破られてなお不気味に無言を貫く二人に詰め寄ろうとするタスクだったが、この数日のことを思い起こし全身に冷や汗が伝う。

 

「……まさか……ッ⁉︎」

 

 眼を見開き腹に手を当てると、その心情を汲み取ったように初めてスレットが口を開く。

 

「————案ずることはありません。あなたたちに与えた食事に何も混ぜてはいません」

「なに……⁉︎」

 

 その言葉に安堵すると同時に新たな疑問が脳裏に浮かぶ。

 

「何故————」

「舌を鍛えているあなたたちに一服盛れば勘付かれる恐れがありましたし、なにより私はあなたという人間に興味がありました」

「……興味、だと……⁉︎ それだけのことで、こんな手の込んだ芝居をしていたと言うのか……⁉︎」

「その通りです」

「…………!」

 

 淀みなく淡々と話すスレットにタスクは奇異の念を(いだ)いた。

 

「……俺の知っている『鏡人(ミロワール)』とは『地母神(テルース)』の(めい)に縛られている操り人形の如き存在だった。だが、この数日顔を合わせていた貴様らはまるで本物の人間のように自然で表情豊かだった。貴様らはいったい……⁉︎」

「…………」

 

 タスクの指摘にスレットは眼を伏せて静かに答える。

 

「————私は考えを改めました」

「…………‼︎」

 

 緩やかに眼を開いたスレットは無表情だった先ほどまでとは全く別人のような、何か神々(こうごう)しさすら感じさせる柔和な笑みを(たた)えていた。

 

 この世の全てを見透かしてさえいるような瞳に見据えられたタスクは(あらが)(がた)い不可思議な力を感じ、意識に反して全身を硬直させた。

 

「人間とは過酷な環境下においても(したた)かに適応し、どこまでも貪欲に繁栄を拡大させていく生物。それを根絶やしにするためには、かつての天変地異を超えるダメージを我が身(・・・)に負わなければなりません」

「……お、お前は……⁉︎」

「もはや増えすぎた人間を淘汰することは得策ではないと判断し、人間を『我が子』らと写し代えることとしました。時間は掛かるでしょうが全ての人間を写し代えることが出来れば、地球上の全生物がありのままに循環していけることでしょう」

「…………‼︎」

 

 世にも恐ろしい事実にタスクが気付いた時、四人目の来訪者がドアの陰から姿を見せた。

 

 来訪者は病室の風景をその身に映しながら驚愕するタスクの前に歩み寄った。

 

「————無貌(むぼう)の、怪物……‼︎」

 

 鏡に映った(おのれ)に向かってタスクが呼び掛けると、スレット(SULLET)————『地母神(TELLUS)』が代わりに口を開く。

 

「『我が子』の中でも最も強大な力を持っていたゼンマを倒したあなたなら充分すぎるほどに代わりが務まるでしょう」

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