第87話 再会
目覚めたと同時に頭を押さえて苦しみ出したミロワをタスクが必死に落ち着かせる。
「————ミロワ、傷に障る! 落ち着け!」
「……うう……ッ」
タスクは呻き声を上げながらも身体を起こそうとするミロワを支えて、再びベッドに横たわらせた。
「『鏡人』がやって来ている……⁉︎」
つぶやいたタスクは静かに窓辺へ移動し外の様子を窺ったが、付近にそれらしき人の姿は見当たらない。
「……囲まれているといった様子はなさそうだが、何人やって来ているんだ……⁉︎」
「……一人、二人————」
(二人か……、恐らくゼンマやルゥインほどの腕前ではないにしろ、今の俺の状態でミロワを守り切れるか……⁉︎)
折れた肋を押さえながらタスクが思案していると、ミロワが途切れていた言葉を繋ぐ。
「……どころではないわ……! 何十……いえ、何百の『鏡人』がこの街に集結している……‼︎」
「————何百だとッ⁉︎」
血相を変えて振り返ったタスクに生気の乏しい瞳を向けてミロワが声を発する。
「……気を付けて、タスク……。その内、一人の『鏡人』が……、この場所に向かって来ているわ……!」
「一人……⁉︎」
「……もう、すぐそこまで、来て————……」
「おい、ミロワ⁉︎」
————ガチャリ。
再びミロワが意識を失うと同時に玄関のドアが開かれた。
「…………!」
タスクは壁に立て掛けていた太刀に手を伸ばし、無言で白刃を露わにする。
(来るなら来い……! この部屋に入って来た瞬間に渾身の突きを味わわせてやる……‼︎)
刀身の長い善磨の太刀の特性を活かした刺突ならば、さほど広くない病室の中にあっても存分に威力を発揮できるとタスクは考えた。
————コツコツ。
ブーツで廊下を歩く小気味よい音が次第に大きくなってくる。
(……刺客は確かに一人。だが、この足音は————素人……⁉︎)
身をかがめて突きの態勢に入っていたタスクは、間近に迫る『鏡人』がその足運びから大した使い手ではないことを察知し些か拍子抜けしたが、すぐに気を引き締め直した。
(————緩むな。相手が誰であろうと全身全霊を以てミロワを守れ……‼︎)
病室のドアの前で足音が止み、ドアノブが緩やかに回り出す。
眼に鋭い殺気を宿らせ、タスクは左手を柄頭にそっと添えた。
————ギィィィィ……。
病室のドアがゆっくりと開かれた瞬間を見計らって踏み込んだタスクだったが、ドアの陰から覗いた顔に足が止まった。
「…………お、お前……?」
侵入者を突き殺そうと前方に構えていた太刀が力なくだらんと下がる一方、侵入者は応えるように軽く右手を上げた。
「よお、久しぶりだな」
「…………⁉︎」
親しげに再会の挨拶を交わされたタスクは呆気に取られ声も出せない。
「……なんだよ、そのハトが豆鉄砲食らったような顔はよ」
「…………ッ」
「ヒデえなあ、一月くれえ会わねえだけで俺の顔を忘れちまったのか? ……アニキ」
「…………ジャン……⁉︎」
舌が貼り付きカラカラに乾き切った口からようやく絞り出された名に、眼前の男は満足そうに笑みを浮かべた。
「そうそう、良く言えました。アンタの親友のジャン様だよ」
「…………こ、ここに……、何をしに来た……⁉︎」
「あー……」
問われたジャンはボリボリと頭を掻いた後、腰からおもむろにリボルバーを取り出し撃鉄を起こした。
「悪いなあ、アニキ。俺としても気が進まねえっちゃあ進まねえんだけど、『母ちゃん』の言いつけには逆らえねえんだわ」
ジャンは銃口をタスクに向けて続ける。
「つーワケで、大人しく撃たれてくれっと俺が『母ちゃん』にドヤされなくて済むんだよなあ」
「…………本物の、ジャンはどうした……⁉︎」
震える声で問い掛けるタスクにジャンは口の端を大きく持ち上げた。
「決まってんだろお? 同じ顔の人間は二人もいらねえ。この銃をカラッポの頭に完璧ブチ込んでやったよ……‼︎」
「————ッ‼︎」
その言葉は弾丸のように撃ち込まれ、タスクの心をズタズタに抉った。
心臓の鼓動が痛いぐらいに高まり、肉体は金縛りに遭ったように言うことを聞かない。
動揺で身体が硬直したタスクの隙を見逃さず、
「こんな風にな————ッ‼︎」
親友の姿を写し取った『鏡人』は引き金を三度引いた。




