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【完結】鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第11章 映りゆく世界

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第82話 とある医院にて

〜〜〜〜〜 第10章のあらすじ 〜〜〜〜〜

 

 

 列車(トラン)なる鉄ムカデを襲撃した『鏡人(ミロワール)』を退けた我々はついに目的地である港湾都市・グロンダンに到着した。

 

 しかし、そこで我々を出迎えたものは油で汚染された海に、工場とやらから排出される黒い煙によって覆い尽くされる空であった。大きな衝撃を受け考え込む我々の前に現れる二つの影……!

 

 再び対峙した最強の『鏡人(ミロワール)』であるゼンマとルゥイン。(たすく)は工場を破壊するべくグロンダンの街に向かって行ったゼンマを追い、鏡花(きょうか)とリンファは残ったルゥインをそれぞれ相手することとなった。

 

 私の助力によって佑はゼンマと一騎打ちに持ち込めたが、私が離れている間に現れた三人目の『鏡人(ミロワール)』の出現なども合わさり鏡花がルゥインに深傷(ふかで)を負わされてしまった……‼︎

 

 私もルゥインに不覚を取ったが、仲間がやられた怒りに燃ゆるリンファが見事ルゥインを倒し、佑も死闘の末にゼンマを討ったことで、グロンダンの民を救うのみならずついに過去との決着をつけることが出来た……‼︎

 

 

      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 深傷を負ったミロワを抱えてタスクとリンファは明け方のグロンダンの街を駆け回っていた。

 

「ミロワ! しっかりせえっ!」

「…………」

 

 焦り切った様子でリンファが声を掛けたが、背負われたミロワから返事はない。

 

「ミロワ……ッ」

 

 並走するタスクも声を掛けようと口を開いたが、続く言葉が不意に途切れた。

 

「…………ッ!」

 

 脇腹を押さえて苦しげな表情で走るタスクの様子にリンファが美しい眉を寄せる。

 

「……タスク、ミロワのこの様子じゃったらヘイワンたちのところに戻ってもどうにもならんと思う……! ウチの氣功だけじゃいけん……、ちゃんとした医者に診せんと……!」

「……仕方ない……!」

 

 

      ◇

 

 

 ————方針を変更した二人は大病院は()けて、個人の開業医のものと思われるこじんまりとした医院を探し当てた。

 

「急患だ! 開けてくれ!」

 

 タスクが乱暴に玄関を叩くと数分の後、ガチャリと音を立てて扉が開き、まだ眠気の残る40がらみの金髪の女性が顔を覗かせた。

 

「……いったい、どうされました————⁉︎」

 

 女性が口を開いたと同時にタスクとミロワを背負ったリンファが室内になだれ込んだ。

 

「あ、あなたたち……⁉︎」

 

 タスクとリンファの得物を眼にした女性が腰を抜かすと、廊下の奥から白髪まじりの50歳くらいの眼鏡を掛けた男性が現れた。

 

「……どうした、スレット? 患者は————‼︎」

 

 この医院の院長と思われる男性も武装したタスクたちの姿を見て何か誤解したように両手を上げた。

 

「……現金(カネ)なら金庫にわずかだがある。持って行っていいから、妻は放してくれ……!」

「誤解があるようだが、俺たちは仲間の治療を乞いに来ただけだ。もちろん礼はさせてもらうし、手を上げるつもりなど微塵もない」

 

 タスクが背負っていた善磨(ぜんま)の太刀を床に置くと、それに(なら)ってリンファも青龍戟を放した。

 

 その様子に院長はわずかに警戒心を解いたようだが、まだ疑心の残る瞳を眼鏡越しに向けて口を開く。

 

「……見たところ移民のようだが、身分証は……⁉︎」

「ない」

「こんな時間に押し入るようにやって来た違法滞在者が強盗ではないという証拠は……⁉︎」

「……(あかし)を立てることは出来ないが、この通りだ……‼︎」

「お願いじゃ……‼︎」

 

 太刀に続いて懐から取り出した有り金すべてを床に置いたタスクが伏して頭を下げると、リンファも意識を失ったミロワを寝かせて叩頭した。

 

 二人がひざまずいて頭を下げているうちにスレットと呼ばれた女性が院長の元へと駆け寄った。

 

「パトリス……!」

「…………」

 

 パトリスと呼ばれた院長は血の気の失ったミロワの顔色と服の上からも滲む血痕に眼を向けると、無言で白衣のポケットに手を差し入れた。

 

「……アンタたちはそのまま動かないでいてくれ……!」

 

 タスクたちを牽制したパトリスは取り出したハサミを手にミロワへと近寄っていく。

 

「————何をする気じゃ!」

「リンファ!」

 

 立ち上がりかけたリンファをタスクが押し(とど)める。その間にパトリスは医療用ハサミでミロワの患部に掛かる衣服をジョキジョキと切り始めた。

 

「————‼︎」

 

 ミロワの傷の具合を確認したパトリスの眼が見開かれ、次いでハサミが床に放られる。

 

「スレット! すぐに手術(オペ)の準備を‼︎」

「はい!」

 

 ミロワを担いで廊下の奥に駆けていくパトリスにスレットも続いていく。

 

「ウチらもなんか手伝う————」

「不衛生なあなたたちは絶対に手術室に入ってこないで‼︎」

 

 強盗の来訪に怯えていた先ほどとは別人のようなスレットの剣幕にさすがのリンファも背筋をピンと伸ばしたが、すぐにショックを受けたような顔つきになった。

 

「……ふ、不衛生……⁉︎ ち、違うで、タスク……! ウチ、ちゃんと綺麗にしとるもん……‼︎」

「そういう意味ではないだろう。俺たちの身体は血と汗に土埃で汚れている」

「そ、そうじゃな。ほんなら……」

「ああ、今はあの二人を信じて待とう……!」

 

 手術室の大きな扉の前でタスクとリンファは祈るように手を合わせて眼を閉じた。

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