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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

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第45話 神速の攻防

 間合いを空けたリンファは青龍戟を弓のように引き絞って一気に解き放った。

 

 解き放たれた刃は弧を描く軌道ながらも凄まじい速度でルゥインに襲い掛かる。

 

「…………!」

 

 わずかに眼を見開いたルゥインは素早く後退してリンファの初撃を回避したものの明らかに重心が後方に傾いており、瞬時に反撃には移れないと思われた。その隙を見逃さずリンファは踏み込んで二撃目を放つ。

 

 細くしなやかな身体をひねってこの二撃目も躱したルゥインだったが、火が点いたリンファの勢いは止まらない。

 

 リンファの刃圏内に閉じ込められたルゥインは次々と繰り出される嵐のような連撃を受けることも出来ず、ただただ回避行動に追われる展開となった。

 

「……ス、スゲえ……! こりゃあもうリンファちゃんの勝ちだ、クール系ネエちゃんは何にも出来ねえ……!」

 

 離れたところで同門の姉妹弟子による一騎討ちを観戦していたジャンが感想を漏らした時、すんでのところで躱していたルゥインがスッと左手を伸ばした。その手にはいくつかの小石が握られており、先ほどの『狙撃』の威力を思い出したジャンは血相を変えた。

 

「ッ気をつけろ、リンファちゃん!」

 

 至近距離から発射された『指弾(しだん)』にリンファは面食らった。両腕で戟を振るっているため手を使って防ぐことは出来ない。

 

「————ッ‼︎」

 

 驚異的な反応速度で初弾を外したリンファだったが、指で弾くという隙の少なさで発射される『弾丸』は確実に彼女を追い詰めていく。

 

「————リンファちゃん‼︎」

 

 最後の四発目の指弾がリンファの顔面に直撃し、ジャンの絶叫が響き渡った。

 

 レンガの壁を貫通させるほどの威力を持ったルゥインの指弾である。

 

 リンファの後頭部から脳漿が飛び出す様を想像したジャンは眼を伏せて顔を逸らしたが、最悪の未来は訪れなかった。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

 

 小石をガチリと歯で受け止めたリンファが噛み締めたまま戟を振るう。

 

 起死回生の一閃が無防備のルゥインの腰を両断するかと思われたが、振り切られたそこにはなんの影も見られなかった。

 

「……ウッソだろ……⁉︎」

 

 眼を開けたジャンはその光景に驚きを隠せない。

 

【————これを待っていたのだ】

 

 |振り切られた刃に立った《・・・・・・・・・・・》ルゥインが口を開いた。

 

 

 その立ち姿は一切の揺らぎも無く、美しい————。

 

 

【……流石です、路影(ルゥイン)師姉。先ほどの指弾も『布石』に過ぎなかったのですね……⁉︎】

 

 背後を取られた(・・・・・・)リンファは振り返ることなく答えた。わずかでも動けば自らの首が落とされることを背後からの殺気から察知しているのである。

 

【そういうことだ。私の指弾を防いだまでは及第だが、その後がいただけない。『振り』が大きくなっていたぞ】

【……ご教授、感謝します……!】

【礼には及ばん。ではな————】

 

 無感情な刃が宙を走り、リンファの首筋に迫る————その瞬間、ルゥインの身体が落下した(・・・・)

 

 戟を握っていた左手を放したリンファは間一髪のところでルゥインの刃を外して、落下する戟を後ろ向きのまま蹴り上げた。

 

 着地したルゥインは次こそはとばかりにリンファの背を薙ぎに掛かった。

 

 しかしリンファは背面跳びの要領で横薙ぎを躱すと、そのまま跳ね上がった戟を掴んで地上のルゥインへと振り下ろした。

 

 この見事な攻防一体の動きにルゥインはかすかにうなずいて迎え打つ。

 

【————()ァァァァッ‼︎】

【————(フン)ッ!】

 

 振り下ろされた青龍戟と斬り上げられた偃月刀が交わり、二人の烈女は同時に後方へと吹っ飛んだ。

 

 凄まじい勢いで壁面にめり込んだ二人だったが、双方共にすぐさまムクリと起き上がった。

 

 何事もなかったように衣服に付いた埃をパンパンと払うルゥインに対し、わずかに肩を上下させるリンファ。

 

【……腕を上げたな、琳華(リンファ)

【真実の愛が私を強くしてくれたのです……!】

 

 眼前で繰り広げられた神速の攻防にジャンはゴクリと生唾を飲んだ。

 

「…………マジで人間かよ、アイツら……⁉︎」

 

 

       ◇

 

 

 ————ジャンの元を離れたシュウは全速力で飛行していた。

 

 離れ離れになった主人(キョウカ)相棒(タスク)を見つけ出すために。

 窮地に陥っている下僕(ジャン)を救ってもらうために。

 

「ピッ……!」

 

 その時、人間の数倍と推定される視力が数キロ先に(しつら)えられた『(おり)』を捕捉した。

 

 四方を高い炎の壁で仕切られたその檻の中では二人の剣士が(しのぎ)を削っている。

 

 荒々しく鮮血を撒き散らしながら斬り結ぶその姿は、背筋を凍らせるほどの恐ろしさと共に、観る者を惹きつける美しさを内包していた————。

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