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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

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第46話 終の一手  ※残酷描写あり

 ————『不動明王(フドウミョウオウ)』の力で生み出されたであろう炎が(とばり)のように四方を取り囲んでいた。

 

 『(おり)』の中に閉じ込められしは、荒々しく鮮血を撒き散らしながら斬り結ぶ二匹の剣鬼。

 

 双方共に致命傷となるような深傷(ふかで)は負っていないものの、(おびただ)しい出血量と大きく乱した呼吸から、決着の訪れはそう遠くないものと思われる。

 

 炎によって巻き上がる上昇気流に邪魔をされシュウが上空を旋回していると、檻の外でうずくまるミロワの姿が眼に映った。

 

「ピィッ‼︎」

 

 慌ててそばに降り立ったところ、負傷はなさそうだがミロワは頭を押さえて苦しげに呻き声を漏らしていた。

 

「ピピィッ! ピィッ‼︎」

「…………やめて……!」

「ピッ⁉︎」

「……私の……、頭の中に、入って来ないで……‼︎」

「ピィィ……」

 

 尋常ではないミロワの様子にシュウが悲しげな声を上げた時、剣と剣が激しく打ちつけられた金属音が鳴り響いた。

 

 炎の檻にシュウが眼を向けると、間合いを取ったタスクとゼンマが刀を支えにして片膝を突いている場面であった。

 

「……お互い、『時間切れ』が迫っているようだな……」

「…………」

 

 様子を窺うようにゼンマが口を開いたが、タスクは乱れた呼吸を整えているのか、それとも話すことが出来ないほど消耗しているのか何も答えない。

 

人間(ひと)の身に、一部とはいえ『神』の力を宿すのだ。限界を超えてしまえば、精神が崩壊を起こしてしまう……」

「…………」

 

 答える代わりにタスクは杖代わりにしていた刀を引き抜いて立ち上がった。呼応するようにゼンマも立ち上がり続ける。

 

「……どちらにせよ肉体も限界に近い。次を(つい)の一手としよう……!」

「…………」

 

 無言でうなずいたタスクが上段に構えると、ゼンマは半身(はんみ)となり(ほのお)を纏った太刀を右脇下段に構えた。

 

 

 ————その瞬間、時が止まったように世界から一切の雑音(おと)が消失した。

 

 

 無音の中、タスクとゼンマは両の眼を閉じた。同時に二人の身体を円形の結界が包み込む。この刃圏を侵したものは何人(なんぴと)たりとも神速の刃の餌食となることを免れない。

 

 視覚を封印し神経を研ぎ澄ませた二匹の剣鬼が摺り足で歩を進める。

 

 ジリジリと間合いが詰まり、剣の結界が触れ合うほどに接近を果たす。

 

 刃圏が重なり合った刹那、双眸がカッと見開かれ、二振りの刃が揺らめいた————。

 

 

 

「…………」

「…………ッ」

 

 終の一手を放ち背中合わせになった二人だったが、やがてゼンマの身体がぐらりと(かし)いだと思うと、(あか)い袈裟を纏ったように鮮血が(ほとばし)った。

 

「…………見事……!」

 

 さらに多量の出血を流し膝を突いたゼンマが称賛の声を上げ、タスクは背中越しにその声を聞いた。

 

 

       ◆

 

 

【————思い出せましたか……?】

(……なんの、こと……?)

【あなたに与えた使命をです……】

(……使命……、分からない……あなたはいったい誰なの……?)

【……かわいそうに……、あなたは『わたし』のことも忘れてしまったのですね……】

(……ごめんなさい……)

【いいでしょう。それではもう一度、あなたに使命を与えましょう……】

(…………)

【……人間を————滅ぼしなさい……‼︎】

 

 

     ◆ ◆

 

「————‼︎」

 

 脳内に鳴り響く『声』から与えられた恐るべき『使命』。全てを思い出したミロワが眼を開けた時、ぼとりと音を立てて何かが足元に落下した。

 

「…………?」

 

 

 ————それは美しき刃紋の(つるぎ)を握り締めた両腕(・・)だった。

 

 

「ピィィィィ————ッ‼︎」

 

 歯を食いしばり必死に耐えるタスクに代わって、シュウの叫び声が蒼天に響き渡った。

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