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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

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第40話 『怪物』

 タスクから疑いの声を掛けられた善磨(ぜんま)だが、その能面のような表情から胸中に渦巻く感情は読み取れない。しかし、その反応の無さこそが彼の醸し出す不気味さを助長させていた。

 

「…………ッ」

 

 眼の前の存在からおぞましい何かを感じ取ったタスクは刀を引いて間合いを空けた。

 

 得体の知れない生物を見るような眼で改めて仇の姿を凝視する。

 

 月日は誰の身にも平等に訪れるもの。少年だった(おのれ)が歳を重ね二十五の青年になったように、十年嵩(としかさ)の善磨は三十五になっていなければ辻褄(つじつま)が合わないが、その顔は十年前のそれと全く変わっていなかった。

 

 冷静な状態であれば一眼見た瞬間に違和感を覚えていたことだろう。だが、タスクの脳裏には十年前の善磨の顔が強烈に焼き付いていたこともあり、また、その姿を瞳に映した瞬間に殺意が違和感を塗り潰してしまったのである。

 

 タスクは最大限の警戒心を(もっ)て先ほどの質問を再び投げ掛ける。

 

「————お前は、いったい何者なんだ……⁉︎」

月代(つきしろ)善磨」

 

 善磨らしきモノ(・・・・・)が簡潔に答えると、タスクは否定するように腕を払った。

 

「違う! お前は善磨ではない……! まるで鏡を合わせたように似ているが————」

 

 言葉の途中でタスクの眼が大きく見開かれる。

 

「鏡を合わせたように————何かね……?」

 

 顔を歪ませて口を閉ざしたタスクの言葉をゼンマが引き取った。

 

「……まさか……、お前もミロワと同じ……⁉︎」

 

 姉・鏡花(きょうか)とミロワは瓜二つではあるが、鏡に映したように黒子(ほくろ)の位置や髪の分け目が反転しているため判別は容易(たやす)かった。だが、善磨は黒子や髪型が左右対称であったために二人を結び付けることが遅れてしまったのである。

 

「ミロワ? ああ、君はアレ(・・)をそう呼んでいるのか」

「————‼︎ やはり、お前はミロワと……‼︎」

 

 ゼンマの言葉に反応したタスクが指を突きつけて続ける。

 

「答えろ! お前たちは何者だ! 十年前(あの日)にはすでに入れ替わっていたのか⁉︎ 本物の姉上と善磨は何処(どこ)にいる⁉︎」

 

 矢継ぎ早に繰り出された斬撃の如き質問にもゼンマは動じない。

 

「そうだな……。私が教えても良いが、どうせなら彼女(・・)に答えてもらってはどうかね?」

「…………⁉︎」

 

 ゼンマの視線を追うようにタスクが振り返ると、数メートル先の路地から顔を覗かせているミロワが眼に映った。

 

「ミロワ……!」

「……タスク……」

 

 互いの名をつぶやいた後、二の句が継げない二人に代わってゼンマが口を開く。

 

「やあ、鏡花殿————いや、今はミロワだったか。貴女(あなた)の手引きがあって、(あるじ)(めい)を果たすことが出来る。感謝しよう」

 

 この『手引き』という言葉にタスクの眼が血走った。

 

「……ミロワ……! やはり、お前は何かの魂胆があって俺に近付いたのか……⁉︎」

「ち、違う……」

「————何が違う⁉︎ 幼いフリをしていたのも俺を油断させるための芝居だったんだな‼︎」

「違うの、タスク……! 信じて……ッ‼︎」

「信じられるものか! 姉上を何処にやった⁉︎ 答えろ、怪物め‼︎」

「————ッ‼︎」

 

 あまりに『抜き身』すぎるタスクの言葉にミロワは胸を押さえてその場にうずくまった。

 

「……『怪物』とは非道(ひど)い言い草だな。貴様ら人間どもにこそ、よほどその言葉が似合うぞ……!」

 

 苦しみ悶えるミロワに代わり、ゼンマが反応を見せた。表情こそ変わらないが、その言葉にはわずかに怒気が含まれていた。

 

「どういう意味だ……⁉︎」

「言葉の通りだ。貴様ら人間は————」

 

 突然ゼンマは口を閉ざし、街の正門の方角へ顔を向けた。

 

「……来たか————」

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