表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/71

第41話 黒髪の烈女

 ゼンマの声に反応したタスクが振り返ると、後方の三階建ての建物の屋上に悠然と佇む大虎の姿が見えた。

 

 雪のような真っ白な毛並みに通常の虎の倍はあろうかという恐るべき巨躯、そして何より眼を引くのが額から伸びる水晶のような一本角————最上位ランクの『無色晄石(アン・ジェム)』を持つ『トラ型晄石獣(ジェムート)』である。

 

 このような『無色角(ムショクヅノ)』の目撃例は極めて少ないが、熟練の『晄石狩り(ハンター)』が数十人掛かりでようやく仕留めたという逸話がまことしやかに語り継がれており、伝説級の魔物の出現にタスクは眉をひそめた。

 

(……あれが『無色角(ムショクヅノ)』か……! だが、『晄石獣(ジェムート)』にここまで侵入を許しているということは————)

 

 その時、タスクを見下ろしていた『トラ型晄石獣(ジェムート)』が唸り声を上げて跳躍した。

 

 飛び掛かって来る魔物を迎え打つべくタスクは警戒の構えを見せたが、予想に反して『トラ型晄石獣(ジェムート)』は獲物を飛び越え、ゼンマの元に降り立った。

 

「————すまん。遅くなった」

 

 『トラ型晄石獣(ジェムート)』が言葉を話した————のではなく、その声は『無色角(ムショクヅノ)』の背から発せられたものだった。

 

 年齢は三十ほどであろうか。艶のある黒髪をきっちりと結い上げた髪型に、中性的な顔立ちとかすれ気味の声からは判別しにくいが、細くしなやかな肢体から女性であると察せられた。その着衣は西洋の物でも扶桑(フソウ)の物でもなく、特徴的な立ち襟から神州(シンシュウ)国の仕立てと思われる。

 

「いや、駆けつけてくれて感謝するよ。ルゥイン」

 

 ゼンマに礼を述べられた神州烈女————ルゥインは『無色角(ムショクヅノ)』の背に騎乗したままタスクへと視線を移した。

 

「ゼンマ、お前が『不動明王(フドウミョウオウ)』を宿すとはな。あの男は?」

(たすく)殿だ。はるばる扶桑から西国まで渡って来たらしい」

「扶桑から? なんのために?」

「仇討ち、だそうだ」

「そうか。それは大した執念だな」

 

 機械的に会話を交わすゼンマとルゥインに堪らずタスクが口を挟む。

 

「————いい加減にしろ、貴様ら! 女、貴様もゼンマと同じ化け物か⁉︎ 『晄石獣(ジェムート)』を従えて何を企んでいる⁉︎」

「……威勢のいい男だ。私が相手をしてやろう……!」

 

 タスクの罵声を受けたルゥインは『無色角(ムショクヅノ)』の背からおもむろに何かを取り出した。

 

 その手に握られたのは(おのれ)の体躯を優に超える長柄兵器『偃月刀』であった。

 

 鍛えに鍛え上げられた大男でも扱いに苦労する超重兵器をルゥインは片手で軽々と振り回し肩に担いだ。偃月刀を握り大虎へとまたがるその威容からは歴戦の大将軍という言葉すら陳腐に思えるほどの迫力を見る者に与える。

 

 刺すようなルゥインの威圧感をその身に受けたタスクだったが、その脳裏によぎるものがあった。

 

「……まさか、お前は————」

「————ルゥイン、佑殿の相手は私がする。君は(あるじ)(めい)を果たしてくれ」

「…………」

 

 ゼンマの口から『主』という言葉が発せられると、ルゥインは担いでいた偃月刀を下ろして首肯した。

 

「分かった。それでは先に取り掛かっている」

「ああ。私も終わり次第、合流しよう」

 

 話がまとまるとルゥインはうずくまっているミロワを一瞥した後、『無色角(ムショクヅノ)』を(ぎょ)して駆け出した。

 

「————待て! 何をするつもりだ⁉︎」

「佑殿、君は私を斬りたいのではないのかね?」

 

 よからぬことを企んでいるであろうルゥインに向けて手を伸ばしていたタスクをゼンマが呼び止めた。

 

「貴様……ッ‼︎」

 

 憤怒の表情でタスクが振り返った時、地響きと共に多数の人影が通りの向こうから猛烈な勢いで向かって来るのが見えた。

 

「あれは……————⁉︎」

 

 またしても衛兵団の増援と思ったタスクだったが、徐々に鮮明になるその正体に双眸が大きく開かれた。

 

 

 ————地響きを轟かせて駆け寄って来るものは、その数、数百と見られる『晄石獣(ジェムート)』の群れである。

 

 

 眼前の信じ難い光景にタスクが言葉を失う中、ゼンマは(ほのお)を宿した太刀を構えて口上を切る。

 

「……さあ、言葉を交わすのはここまでとしよう。止めたければ私を斬ることだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ