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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

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第35話 紅い花  ※残酷描写あり

 ミロワの口から発せられた問いにタスクは大いに意表を突かれた。

 

「…………どこで、そのことを……」

「……ジャンから聞いたの」

「————ジャンの奴……!」

 

 タスクがジャンのいる応接間の方へ鋭い視線を向けると、慌てて遮るようにミロワが間に立った。

 

「ジャンを叱らないであげて! わたしが無理に訊きだしたの!」

「…………」

 

 ここまで言われてはもうジャンを叱り飛ばすわけにはいかない。タスクは深く息をついて顔を上げた。

 

「……そうだ。確かにお前は俺の姉・鏡花(きょうか)に瓜(ふた)————いや、鏡に合わせたように似ている」

「キョウカさん……」

 

 自分と同じ顔を持つキョウカの名をミロワがつぶやいた。

 

「……記憶が薄れてるんだけど、タスクと会ったばかりだった時にすごい剣幕で怒鳴られたことを思い出したの。『お前は姉上なのか』って……。それでジャンに訊いてみて……」

「あれは……すまなかった」

「ううん。しょうがないよ。捜しているお姉さんとそっくりの人が急に眼の前に現れたら誰だって混乱するわ……」

「……ミロワ」

 

 この数分の間にもミロワの話しぶりはますます鏡花に似てきている。タスクはあの時のように頭がフラフラとしてきた。そんなタスクの様子を見て取ったミロワは支えるように彼の身体に寄り掛かった。

 

「……ごめんね、何も思い出せなくて……。全部わたしのせいだよね……!」

「————違う! お前は悪くない! たとえ姉上であろうとなかろうと、お前はお前だ! 俺の大切な存在だ……‼︎」

「タスク……!」

 

 強く抱きしめられたミロワはそっとタスクの背に手を回した。

 

 抱きしめられた全身から深い愛情が伝わってくる。しかし、それは自分が彼に向けているものと似ているようで全く別のものだとミロワには分かっていた。

 

「……タスク、わたしはあなたのことが————」

「————ピィィィッ‼︎」

 

 ミロワが何か言いかけた時、上空から耳を(つんざ)くような警戒音が響いてきた。

 

「シュウ! どうした⁉︎」

 

 パッと離れたタスクは血相を変えた様子のシュウを見上げて問い掛ける。

 

「ピッ! ピピピ、ピィッ‼︎」

「————‼︎」

 

 何かの暗号のようにも思えるシュウの鳴き声を耳にしたタスクの眼が見開かれ、カタナを持つ手がわなわなと震えた。

 

「タスク……? どうしたの……⁉︎」

 

 二人の尋常ではない様子にミロワが声を掛けたが、タスクはその声には応えず屋敷の入り口へ向けて駆け出した。

 

「シュウ! お前はここでミロワを守っていろ!」

「待って、タスク————ッ」

 

 追い掛けようとするミロワをシュウが眼の前で豪快に羽ばたいて阻止する。

 

「やめて、シュウ! タスクが……っ」

 

 なんとかシュウを引き剥がした時には、すでにタスクの姿は消え失せていた————。

 

 

       ◇

 

 

 ————道ゆく先に(あか)い花が咲き乱れていた。

 

 

 一太刀で命を奪われた人々が其処彼処(そこかしこ)に倒れている。

 

 男も女も、老人も赤子も、なんの区別もない一方的な惨殺。

 

 むせ返るような血の匂いが鼻腔を打ち、タスクの脳裏に十年前の記憶が蘇る。

 

(————ッ‼︎)

 

 不意にこみ上げてきたものをゴクリと飲み込んだタスクは再び脚に力を込め、道標(みちしるべ)のように点々と続いていく血痕を辿っていく。

 

 

 いくつか通りを越えたところでタスクはこの地獄絵図を描いている者の後ろ姿を視線の先に捉えた。

 

「————撃てぇッ‼︎」

 

 (リーダー)と見られる男の号令を受け首都を守る数十人の衛兵たちが構えた拳銃を一斉に発砲するが、長刀を携えた男はおよそ人間(ひと)とは思えぬ動きで弾丸の雨を躱しきる。

 

 カチカチと引き金を絞る何十もの音が市街地に響き渡り、再び衛兵のリーダーが号令を発する。

 

「な、何をしている! 総員、弾丸装填————」

 

 しかし、その声は(まばゆ)い光の一閃によって遮られた。

 

 男はまるで演舞を終えたように優雅な所作で大太刀を納刀した。すると衛兵たちの首が同時に落ち、またしても真っ赤な花が一斉に開花した。

 

「キャアアアアッ‼︎」

「ひっ、人殺しぃっ‼︎」

「た、助けてくれ‼︎」

「ママーっ‼︎」

「え、衛兵の応援はまだか⁉︎」

 

 叫び声を上げて逃げ惑う人々を男は無造作に斬り倒していく。それはまるでブンブン飛び回る蝿を叩き潰す機械的な『処理』のようであった。

 

「————やめろぉッ‼︎」

 

 タスクは家伝の山鳥毛カタナを抜き放ち、制止の声を上げた。

 

 その怒号に男はピタリと動きを止め、次いでゆっくりと振り返った。

 

 

 ————驚くほど綺麗な顔がそこにはあった。

 

 

 美醜という意味ではない。あれほど人を斬ったのにも関わらず一滴の返り血も浴びていないどころか、その顔にはなんの感情も込められていないのである。

 

 常人であればこのような大虐殺を行えばどれほど修練を積もうとも、憤怒・興奮・悲哀・後悔といった感情(いろ)が多少なりとも表情(かお)に宿るはずだが、男のそれには寸分も見られなかった。

 

 その無色の顔を認めたタスクは血走った眼で再び口を開く。

 

「…………善磨(ぜんま)ァ————ッ‼︎」 

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