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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第7章 血の日曜日

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第33話 検査結果

〜〜〜〜〜 第6章のあらすじ 〜〜〜〜〜

 

 

 鏡花(きょうか)の身体を調べられる有識者を探すために奔走する(たすく)とジャンだったが、不埒な考えの輩に当たるばかりでなかなか良い人材が見つからない。全く変態人間どもめ……、鏡花に止められていなければ脳天に風穴を開けてやっていたところだ……!

 

 そんな折、ジゼル何某(なにがし)という女研究者を面談した佑は何を思ったのか、彼女に鏡花を任せることに決めたようだ。この女も違った意味でかなりの変人だと思うのだが大丈夫なのだろうか……。

 

 ともかく、鏡花の検査の間、我々はジゼルの家に住まわせてもらう運びとなった。いいか、ジゼルよ。いつでも我が両眼が貴様を捕捉していること努々(ゆめゆめ)忘れるな————ピィッ!

 

 

      ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ————ホテルからジゼルの屋敷に移り住んで3日が経った。

 

「あーーキッツ! 腰が痛くなるぜ、この体勢!」

 

 人の背丈ほどもある草が生い茂る庭でジャンは凝り固まった筋肉を伸ばすために立ち上がった。

 

「中腰で作業をするから腰に来る。しっかりと腰を落とせ」

 

 かがみ込んだ姿勢のタスクは慣れた手付きでブチブチと雑草を引っこ抜いていく。

 

「そうすっと今度は膝に来んだよ……ってか、そうだ! アンタの良く切れるカタナでスパスパやっちまえば早えんじゃね?」

 

 今世紀最大の発見をしたかのような表情でジャンが指を立てたが、その提案はあっけなく否定される。

 

「それは出来ん」

「なんでだよ! いいじゃねえか、減るモンじゃねえだろ!」

「俺の山鳥毛(カタナ)は草を刈るものではない。それに雑草は根から抜かなければ、またすぐに伸びてくる」

 

 素っ気ないタスクの返事にジャンは大袈裟に肩をすくめた。

 

「チェッ、そうかよ。つーか、大体なーんで俺らがあの変人ハカセの家の片付けとか庭掃除なんかしなきゃなんねーんだ⁉︎」

「ミロワの検査の間、ジゼル殿の屋敷に厄介になっているんだ。雑事をこなすくらいしても(バチ)は当たらんだろう」

「へいへい、そうでしたね……しっかし、よくもまあこんなになるまで放置してたモンだ。汚ねえと思ってた俺の実家でもこんなヒドくはなかったぜ……」

「研究に没頭すると、他のことが一切頭から抜け落ちるそうだ。人を雇っているうちは問題はなかったそうだが……」

「大学をクビになってからはお手伝いを雇えなくなったってか」

「ああ。それどころか『晄石獣(ジェムート)』の研究費用と酒代で借金が(かさ)んで首が回らない窮状だったらしい」

「……研究者としてはどうだか知らねえが、人としては終わってんな」

 

 自分のことを棚に上げてジャンが感想を漏らした時、玄関の方から拍手の音が響いてきた。

 

「————おお、随分キレイになったね! 見違えるようじゃないか!」

 

 ジゼルはすっかり綺麗になった庭を見渡して笑みを浮かべた。

 

「お茶を淹れよう。休憩といかないかい?」

 

 

 

 ————3日前までは足の踏み場もなかったジゼル邸の応接間だったが、今はタスクとジャンによって見事に片付けられ(ちり)一つ見当たらない。

 

「ジゼル殿、ミロワは……?」

 

 タスクは姿の見えないミロワの所在を尋ねる。

 

「ああ、ミロワ嬢なら二階の寝室で昼寝中だよ。安心したまえ」

 

 ジゼルはお茶を一口飲んでカップをテーブルに置いた。

 

「……それで、検査の結果だが————」

『…………』

 

 タスクとジャンはお茶の代わりにゴクリと固唾を飲んで次の言葉を待った。

 

「————人間だ。ごく普通のね……」

『…………!』

 

 その言葉を聞いたタスクとジャンはホッとした表情で眼を見合わせたが、ジゼルはそんな二人の反応を興味深そうに眺める。

 

「おかしな反応だね。キミたちは多額の報酬を出しておいて、こんななんでもない答えを知りたかったのかね?」

「そ、そりゃあ……」

 

 言葉に詰まるジャンに追い討ちを掛けるようにジゼルは指を振って見せる。

 

「人間だとは言ったが喜ぶのはまだ早いよ。触診や問診などの外的な検査と血液を調べた程度の結果だからね。あくまでも現段階では、ということだ」

「……次の段階とは……?」

 

 タスクの声にジゼルは指で眼鏡を持ち上げて答える。

 

「脳や体内を調べさせてもらえれば、もっと正確な答えが出せるかも知れない」

「……ミロワちゃんの腹を掻っ捌くつもりかよ……!」

 

 ドスの効いた声でジャンが睨みつけた。

 

「必要とあらばそうなるね」

「————ふざけんな! ミロワちゃんはアンタの『晄石獣(モルモット)』じゃねえぞ‼︎」

 

 ソファーからジャンが立ち上がり怒号を上げると、隣のタスクが手で制した。

 

「落ち着け、ジャン」

「これが落ち着いてられ————ッ」

 

 服の裾を軽く掴まれただけだったが、凄まじい力でジャンは再びソファーに腰を下された。

 

「落ち着けと言っている……!」

「…………‼︎」

 

 静かではあるが、寒気を覚えるほどのタスクの迫力にジャンは黙り込んだ。

 

「……ジゼル殿、その検査を行えば何か分かるのか……?」

「何も分からないかも知れないね」

「ハッ、なんだそりゃ? 何が天才学者だよ、結局アンタもそこらのヤブ医者と変わらねえじゃねえか」

 

 皮肉めいた様子でジャンがこぼすが、ジゼルは全く気にする風もなく答える。

 

「他人からなんと呼ばれているか興味はないが、『研究(検査)』とはそういうものだよ。試行錯誤を繰り返して結果(データ)を積み重ねていくんだ。少なくとも『何もなかった』という結果は得られる」

「…………ッ」

 

 言い負かされた形で再びジャンが黙り込むと、ジゼルは立ち上がって腕を広げた。

 

「まあ依頼主(クライアント)がここまでと言うなら、残念ではあるけれど私もここで手を引かせてもらおうか。さて、久しぶりに飲みに行こうかな————」

「待ってくれ、ジゼル殿」

 

 出て行こうとするジゼルをタスクが呼び止める。

 

「……この三日間、ミロワと接してきて貴女(あなた)は彼女をどう見ている……?」

 

 その問いかけにジゼルはアゴに指を当てて答える。

 

「ふむ……。肉体年齢二十歳ほどの東洋系成人女性だが、精神の方は十二歳程度に見えるね。付け加えるなら、十二歳(こども)にしても知らない事象が多いようにも思える。そして、やはり『晄石獣(ジェムート)』が反応しないね。フェリックス(リス型)だけじゃなく、私が飼っている全ての個体がね……」

「…………」

 

 ジゼルの返事を聞いたタスクは納得したようにうなずいた。

 

「————分かった。隠さずに全てを話そう」

「そうしてもらえると、こちらとしても助かるよ」

 

 そう言ってジゼルはソファーに腰を下ろした。

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