第28話 束の間のデート回
翌朝、朝食を摂り終えた三人は昨夜決めたように二手に分かれることとなった。
「————じゃあ、俺は先に出るぜ。ついでに『晄石』も換金してきてやるよ」
「ああ、すまんが頼む」
部屋の前でタスクが頭を下げると、ジャンはリュックを背負い直して答える。
「医者が見つかっても見つかんねえでも、とりあえず夜には帰って来るからよ。あと悪いけど、仇の野郎の方までは手が回んねえかも知んねえ」
「いや、充分だ。それはこちらでやる」
仇と聞いたタスクの眼が鋭さを帯びたが、ジャンは茶化すような笑みを浮かべた。
「ほどほどにしとけよー? そんな怖え顔してたらせっかくのデートなのにミロワちゃんがまたプリプリするぜ? じゃあな!」
足早に去っていくジャンの背中にタスクは首を傾げた。
「……『でえと』?」
「————お待たせっ!」
軽やかな声と共にドアが開け放たれ、黒髪の美女が姿を現した。
「行こっ、タスク!」
「あ、ああ……」
着替えを終えたミロワの姿を上から下まで見回したタスクは眉を寄せた。
「……なんだ、その格好は……?」
「あ、気付いてくれた? スカート、いいでしょ!」
いつものパンツスタイルではなくチェック柄のスカートを身につけたミロワは嬉しそうにクルッとターンして見せた。しかし、タスクはなおも眉を寄せたまま該当箇所に指を差す。
「……腰巻きはまだいい。『郷に入っては郷に従え』という言葉もあるからな。だが、問題はその丈だ!」
「たけ?」
可愛らしく首を傾げるミロワに説教モードに入ったタスクが続ける。
「大和撫子がそのように腿を見せるとは何事だ! なんとはしたない!」
「……また、ヤマトナデ……」
うんざりした様子で肩をすくめるミロワのスカートは膝上5センチといったところである。
「そんな怒られるほど短くしてないよー……。いいから早く行こっ!」
「お、おい! まだ話は————」
ミロワに腕を引っ張られタスクは説教の続きが出来なくなった。
◇
————ホテルを出た二人はミロワの希望で城へ向かうことになった。
ジャンが言っていたように城内はすっかり観光地となっており、多数の観光客でごった返していた。お姫さまを見てみたいというミロワの一縷の望みは泡となりガックリと肩を落としたが、代わりにタスクの眼が輝きを帯びた。
「……ふむ、なるほど。賊の襲来時にはここで備えていたのか……。そして、城主と姫だけが通ることを許された抜け道がここだったと……」
本棚の裏に隠された王族だけが知る秘密の通り道を興味深そうに眺めるタスクに、ミロワの冷めた視線が突き刺さる。
「……ミロワ、つまんない」
「つまらない? どこがだ。異国の城の内部が見られるなど、またとない機会だぞ。見聞を深めるためにもお前ももう少ししっかりと……」
「もうお城、飽きちゃった! 次、行こ、次っ!」
「お、おい待て! まだ厩舎や練武場を見て————」
◇ ◇
————城を後にしたタスクとミロワの姿は街の中心部にある商店街にあった。
雑貨屋、酒屋、薬屋、飲食店など大小さまざまな店が立ち並び、道ゆく人々の数は王宮のそれをはるかに凌ぐ。
「わあーっ! 色んなお店があるね、タスク!」
楽しそうに腕を広げてミロワが振り返るが、さっきまで後ろを歩いていたタスクの姿が見当たらない。
キョロキョロと辺りを見回すと、少し離れた先の露天商と何やら言葉を交わしているタスクの後ろ姿が眼に入った。
「————では、この街には扶桑国の者の『こみゅにてぃ』とやらはもうないと……」
「ああ。フソウ人かどうか知らないが、東洋人のコミュニティもあったようだけど、一年くらい前だったかな……お上の手が入ってね。東洋人に限らず全てのコミュニティが一掃されたよ」
「追い出された者たちは何処へ……?」
「さあねえ……、激しく抵抗した奴は収監されたようだけど、ほとんどは故郷に強制送還されたり、他の街に移動したりしたんじゃないか?」
「……そうか。ありがとう、感謝する」
残念そうな表情を浮かべて立ち去ろうとするタスクを露天商の主が呼び止める。
「おっと! 礼なら何か買っていってくれよ!」
「ああ、すまない。では根付はあるか?」
「ネツケ……⁉︎ い、いや、ウチは女物の雑貨屋だ。パートナーにブローチや髪飾りなんかどうだい?」
眼の前の棚にズラリと並べられた色とりどりの小物を見つめてタスクがつぶやく。
「ふむ……、簪のような物か……」
その時、タスクの眼が赤い花を象った髪飾りのところで止まった。
「……では、これを」
「毎度あり!」
髪飾りを受け取ったタスクが振り返ると、後ろ手に組んだミロワが問いかけてくる。
「何を買ったの?」
「ああ、髪飾りだそうだ。お前に譲ろう」
「わあっ! ありがとう、タスク!」
タスクから髪飾りを贈られたミロワは急いで自らの髪に挿した。
「————!」
艶めいた絹糸のような黒髪に髪飾りの赤が大層映える。その瞬間、タスクの脳裏に芍薬の花を鬢に挿したキョウカの姿が蘇った。
【ねえ、似合う? 佑】
「ねえ、似合う? タスク」
「…………姉上……」
「え?」
訊き返すミロワの声にハッとしたタスクは慌てて顔を逸らす。
「……なんでもない。行こう」
「……うん……」
一人で歩き出したタスクの背中をミロワは小走りで追い掛けた。




