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鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第6章 変人博士登場

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第29話 複雑な乙女心

 再び商店街を散策していると、それまで後ろを歩いていたミロワがタタっと右隣に並んできた。

 

「どうした?」

「んーん」

 

 ミロワは笑顔で首を振ったが、グイグイと左の側頭部を見せつけるように近づけてくる。

 

「…………?」

 

 タスクが怪訝な表情を浮かべると、ミロワはミロワでムッとした顔つきになった。

 

「もう! コレ(・・)の感想を待ってるのに!」

 

 我慢しきれずといった様子でミロワは自らの頭を指差した。ここまでお膳立てをされたことで、流石のタスクもミロワの言わんとすることに気がついたようである。

 

「あ、ああ。似合っている」

「……なんか、心がこもってない」

「そんなことはない。綺麗な黒髪に髪飾りの赤がよく映えている」

「…………!」

 

 普段朴訥(ぼくとつ)な男が口にした言葉には説得力がある。ミロワは嬉しそうに顔を伏せた。

 

「……えへへ、ありがと……!」

「ああ」

 

 二人がそのまま進んでいると徐々に人通りが増えてきたように思えた。どうやら商店街の特に賑わっているエリアへと差し掛かったようである。

 

「なんか人が増えてきたね」

「ああ」

 

 ミロワは道ゆくカップルに眼をやりながら続ける。

 

「……ミロワとタスクってさ、他の人たちにはどう見えてるのかな……?」

「どうだろうな。兄妹(きょうだい)といったところじゃないか?」

「……兄妹か。そうだよね……」

 

 タスクの返事を聞いたミロワは声のトーンを落とし、それに付随するように歩く速度も落ちていった。

 

 

       ◇

 

 

 ようやく人の流れが落ち着いてきた頃、遠くの方でゴーン、ゴーンと鐘の鳴る音が響いてきた。

 

「正午の鐘の()か……」

 

 音の鳴る方へタスクが顔を向けた時、その袖先がくいっと引っ張られた。

 

「ん、なんだ?」

「…………」

 

 振り返って声を掛けるが、ミロワはタスクの袖をちょこんとつまんだまま何も答えない。

 

「ミロワ、どうしたんだ?」

「…………」

 

 再度問い掛けるもやはりミロワはモジモジとして何も答えずタスクは心中で首をひねったが、すぐに何かに気付いたように口を開いた。

 

「厠に行きたいのか?」

「……カワヤって……?」

「厠とは、ええと……、『といれ』のことだ」

「————!」

 

 デリカシーの欠片(かけら)もないタスクの言葉にミロワは顔を真っ赤にして背を向けた。

 

「おい、どうした? 厠じゃないのか?」

「……タスクのバカ! もう知らないっ!」

「…………?」

 

 背を向けたまま声を荒げるミロワにタスクは訳が分からずまたもや首をひねった。その時————、

 

 

 ————くぅー……。

 

 

 小動物の鳴き声のような可愛らしい擬音がタスクの耳に響いた。

 

 その音を耳にしたタスクはポンと手を打ってつぶやく。

 

「なるほど、確かに飯時(めしどき)だな。腹が減ったのなら、そう言ってくれれば……」

「そんなこと言えるワケないじゃん! 察してよ、バカっ!」

「察しろと言われてもな……。お前、少し前まではなんでも思ったことをすぐ言葉にして————」

 

 ここまで発した時、突然タスクの口が閉ざされた。

 

(————そうだ……! ミロワは今この瞬間にも精神(こころ)が凄まじい速度で成長していっているんだ……!)

 

 タスクのデリカシーの無さに腹を立てていたミロワだったが、急に虚空を見つめて微動だにしなくなった彼を見て怒りの感情が薄まってきた。

 

「……タスク? どうしたの……、お腹痛い……?」

「……いや、すまん。俺も腹が減った。どこかで食事を取ろう。お前は何が食べたい?」

 

 自分の意見を聞いてくれたタスクにミロワはニッコリ微笑む。

 

「なんでもいいよ! お店探そっ!」

「お、おい……」

 

 ミロワがタスクの手を引っ張った時————、

 

「————いい加減にしてくれッ!」

 

 向かいの食堂らしき店舗から男の怒号が飛び、タスクは瞬時にミロワを庇うように前に立った。

 

「な、なに……⁉︎ 今の怒鳴り声……」

「アンタに飲ます酒はねえよッ‼︎」

 

 ミロワの声をかき消すように再び男の怒鳴り声が響くと、店の入り口から白っぽい何かが飛び出してきた。

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