第27話 ミロワの不安
〜〜〜〜〜 第5章のあらすじ 〜〜〜〜〜
————前回は少しばかり取り乱してしまったが、今回は落ち着いて……。
我が主・鏡花をついに見つけた佑とジャンだったが、何故かこやつらは鏡花が別人ではないかと半信半疑なようだ。確かに以前より幼い感じはあるが……。
そこで佑たちは鏡花を『ミロワ』という仮の名で呼ぶことにし、有識者に彼女の身体を調べてもらおうという結論に至った。人間の多い首都とやらに向かうことで憎き仇・月代善磨に繋がる情報を得るという目的もあるようだ。
まあ、なんであれ私が鏡花を守ることには変わりない————む? 鏡花が呼んでいる! それでは、これにて失礼する! ピィィッ♫
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
————翌日、太陽が大地に飲み込まれる頃、タスクたちは周囲を水堀と堅牢な外壁で囲まれた街へと到着した。
街の至るところから灰色の龍のようなスモッグが天に向かって伸びている。『晄石』を動力源に稼働している工場であろうと察せられた。
遠目にバイクを停めて街の様子を窺っていたジャンが口を開いた。
「着いたぜ。ここが首都・ロワゴールだ」
「堀があるな。城郭都市か」
街を囲む堀に眼を向けながらタスクが言うと、側車の奥のシートで眠っていたミロワが眼を覚ました。
「…………んー……、どこか着いたの……?」
「ああ、今日からこの街に滞在するぞ」
「ふーん……————あっ! アレってお城⁉︎」
寝ぼけ眼だったミロワだが、街の最奥にそびえ立つ一際高い建物を興奮気味に指差した。
「ああ、そうだぜ。ただ今はもう観光名所になってるらしいけどな」
「えー……⁉︎ じゃあ、お姫さまも住んでないの……⁉︎」
「残念だけど、そういうこったね」
腕を広げて答えたジャンにミロワはガックリと肩を落とした。
「なんだ……。じゃあ、どうしてこの街に来たの?」
「ああ、それはねー……」
ジャンは言葉を濁しながらチラリとタスクへ視線を向けた。うなずいたタスクはしっかりとミロワに向き直って答える。
「ミロワ。この街でお前の身体を調べてもらおうと思っている」
「……ミロワの身体を……?」
「ああ。お前は俺たちと出会う前の記憶も無いだろう? その辺りも含めてな」
「…………」
うつむいて黙り込むミロワにタスクが尋ねる。
「どうした……?」
「……ミロワ、行きたくない……」
「どうしてだ。身体を調べられるのが怖いのか……?」
「…………」
ミロワは無言で首を横に振る。
「ミロワ。お前も記憶を取り戻したいだろう?」
「…………ミロワ、別に戻らなくてもいい……」
「何……⁉︎」
信じられないといった表情で訊き返したタスクをミロワが真っ直ぐに見つめる。
「ミロワの記憶が戻ったら、タスクとジャンとシュウと離れ離れになっちゃう……⁉︎」
「…………!」
「ミロワちゃん……」
ミロワの不安を理解したタスクは彼女の肩に優しく手を添えた。
「安心しろ、ミロワ。お前が姉上————いや、たとえ何者でも俺たちはお前を見捨てたりはしない」
「……ホント……?」
「ああ、本当だ」
「ホント、ホント! 信じてくれていいよ、ミロワちゃん!」
タスクとジャンの返事を聞いたミロワは嬉し涙を流して白い歯を見せた。
「……良かった……‼︎ ミロワ、見捨てられちゃうかと思った……!」
「見損なっちゃあいけねえよ、ミロワちゃん。俺たちがそんなヒデえことするワケねえだろ?」
「あ、でもジャンとは離れても別にいいかも」
「そりゃねえよ、ミロワちゃん……!」
先ほどの自分のように肩を落としたジャンの様子にミロワはプッと息を漏らした。
「えへへ」
「…………」
無邪気に笑うミロワに釣られるようにタスクは口角をわずかに持ち上げた。
◇
————いつも通り、『毘沙門天』の力を宿したタスクが闇夜に紛れて外壁を乗り越えた。
抱えていたミロワをタスクがそっと下ろすと、その髪色が赤から黒へと変じる。間近でその様子を眺めていたミロワが興味深そうにつぶやく。
「タスクも一緒にお医者さんに診てもらおうよ」
「……何故だ?」
「だって髪の色が急に変わるなんておかしいよ。何かの病気かも?」
「俺は問題ない。これはそういう仕様だ」
「ふーん……。変なの」
「さあ、今日はもう遅い。ジャンと合流して宿を取ろう」
「うん!」
合流した三人は街の外れにある古びたホテルに部屋を取った。今回は一つの部屋に三人で泊まる手筈である。
ジャンは荷物を置くなり人差し指を立てた。
「————お二人さん。明日からの予定だけど、いっちょ別行動と行こう」
「えっ、どうしてー?」
意外そうな顔でミロワが訊き返すと、ジャンの代わりにタスクが口を開いた。
「ミロワを診てくれる者を探しに行くのか」
「そういうこと! なんたって真っ当な病院や大学なんかじゃミロワちゃんを診てくれねえからな。腕のいいモグリの医者をジャン様が見つけて来てやるよ!」
「…………」
ジャンの言葉を聞いたタスクは佇まいを正して頭を下げた。
「おい! なんのつもりだよ⁉︎」
「ジャン、お前には本当に感謝している……‼︎」
「やめろ、やめろ! 俺とアンタの仲だろ⁉︎ 大体アンタにゃ充分すぎるくれえの報酬を貰ってるし、アンタのお陰で俺の『晄石狩り』としての格は爆上がりだ! それに————」
少し照れたようなジャンはベッドに腰掛けるミロワに青い眼を向けた。
「俺もミロワちゃんの力になってやりてえしな……!」
「ジャン……!」
その言葉にミロワも感じるところがあったようで再び眼を潤ませる。ジャンは照れくささを誤魔化すように鼻の下を擦った。
「————つうワケだからよ、俺が医者を見つけて来るまでアンタらは首都の観光でもしながら待っててくれよ!」
「やったあ! タスクと二人でお出かけ‼︎」
「おいミロワ、落ち着け」
間髪入れずにミロワが嬉しそうにベッドの上で飛び跳ねる。
「…………うん、二人で楽しんできてくれよ……」
ジャンは寂しげな笑みを浮かべてつぶやいた。




