第104話 静かなる異様
————太陽が天高く昇る頃、一台の車がグロンダンに到着した。
停車と同時にドアが開け放たれ一組の男女が降り立つ。
「着いたぜ! ここがグロンダンか!」
「タスクとミロワはどこにおるんじゃ⁉︎」
血気に逸ったジャンとリンファが忙しなく辺りを見回すが、遅れて車を降りたジゼルは落ち着いた様子で口を開いた。
「……落ち着きたまえ、二人とも。もちろんタスクくんとミロワ嬢の行方も気掛かりだが、おかしいと思わないかね……?」
「何がだよ!」
「何がじゃ!」
逸る気持ちに水を差されてジャンとリンファが食って掛かるが、当のジゼルは二人にそっぽを向けたまま答える。
「住民の様子を見たまえ」
「は? 住民?」
ジゼルの言葉に従い、ジャンは道行く住民たちの姿を眼で追った。しかし、その眼には住民同士が挨拶や談笑を交わしている様子にしか映らない。
「……いったい何がおかしいってんだよ? 普通に歩いたり話したりしてるだけじゃねえか」
「それがおかしいんだよ。この街でタスクくんとテルースが衝突したと言うのなら、|街の様子が普段と変わらないこと《・・・・・・・・・・・・・・・》が私には異様に思えるんだ」
「…………‼︎」
ジゼルの言葉の意味を理解したジャンが口をつぐむ中、リンファは一切の迷いを見せることなく言い放つ。
「そんなんどうでもええわ! ウチはタスクとミロワを探しに行く!」
「あっ、待てよ、リンファちゃん!」
「…………」
一人で突っ走っていったリンファを慌ててジャンが追い掛けるが、ジゼルはなおも住民や街の様子を窺っていた。
◇
————3時間後、街の中心部にある広場で待ち合わせたジャンとリンファはガックリと肩を落としたお互いの様子から成果のほどを察した。
「……リンファちゃんもダメか……」
「……テルースがウチらーを騙しとった診療所とかタスクが居りそうな所も探してみたけど、見つからんかった……」
「俺もだ……。もしかしたらと思って病院を中心に庁舎とかも回ってみたけど、ダメだったわ……」
『…………』
うつむいて黙り込んだ二人だったが、不意にリンファが顔を上げて拳を握った。
「————いけん! こんなんで諦めたら‼︎」
「そ、そうだな! 別の所を探して————」
二人が改めて気を引き締めた時、通りの向こうから『プップー』というクラクションが響いてきた。
「ジゼル! 見んと思っとったら、お前どこに行っとったんじゃ⁉︎」
二人の前に停まった車にリンファが文句を言うが、受信機を手にしたジゼルは運転席の窓から顔を覗かせアゴをしゃくって見せた。
「乗りたまえ。タスクくんの居場所が分かったかも知れない」
「なんじゃと⁉︎」
「マジで⁉︎」
街の外れへと走る車内でジャンとリンファの質問を受けたジゼルは運転に集中した様子で答える。
「————タスクくんと思しき人物はこの街の慈善団体が運営する医療施設へ明け方頃に搬送されたらしい」
「医療施設⁉︎ タスクは怪我しとるんか⁉︎」
助手席のリンファが血相を変えて詰め寄るが、ジゼルはハンドルを握っていない右手で牽制する。
「落ち着きたまえ。聞き込みに行った港の作業員から耳にしただけなんだ。私にも詳細は分からないよ」
「港……、そういやそっちは回ってなかったな。けど、『思しき人物』ってのは……⁉︎」
「明け方に出勤して来た作業員が、血だらけで倒れ込む黒髪の青年を見つけたとのことだよ。付近にカタナが落ちていて、気を失った青年を守るように一羽のハヤブサが威嚇してきたらしい」
その言葉にリンファとジャンの表情がパアっと明るくなった。
「そいつはシュウじゃ! カタナもあるんならタスクに間違いねえわ‼︎」
「ミロワちゃんは⁉︎ ミロワちゃんは一緒じゃなかったのか⁉︎」
「……ミロワ嬢らしき人物の姿は見当たらなかったらしい。それにテルースもね……」
「ミロワならきっと無事じゃ! テルースはタスクが封じ込めたから見えんようになっとるんじゃ‼︎」
「…………そう願いたいね」
◇ ◇
————20分後、港の作業員から聞いていた医療施設に到着したジャンとリンファは受付の窓口に向かって声を荒げた。
「ネエちゃん、明け方に運ばれてきた東洋人はどこだ⁉︎」
「な、なんですか、あなたたちは……⁉︎」
「ええけえ、どこにおるんか早う言え‼︎」
「じゅ、10号室です……!」
二人の剣幕に恐れをなした事務員が指を伸ばすと、ジャンとリンファは返事もなくその方向に向かって駆け出した。
「すまないね。私たちの大切な仲間かも知れないんだ。許してくれたまえ」
入館のサインを済ませたジゼルは施設内の様子に眼を配りながら、10号室へと進んで行く。
「————タスク‼︎」
「————アニキ‼︎」
廊下の先の部屋からリンファとジャンの叫び声が響き、ジゼルは唇を噛んで足を早める。
「…………!」
ジゼルの視線の先には、全身を包帯で巻かれたタスクの痛ましい姿があった————。




