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【完結】鏡合わせのミロワール  作者: 知己
第12章 神降ろし

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第99話 悲壮な覚悟

「————それでは、俺の策を説明する」

 

 タスクが静かに宣言すると、眠気の吹っ飛んだジャンが詰め寄って声を上げる。

 

「待ってましただぜ! 早く教えてくれよ、アニキ!」

「ああ。だが、その前に少し離れてくれ」

「は? あ、ああ……」

 

 ジャンを下がらせたタスクはおもむろに太刀を抜いて真言を唱え始める。

 

「————オン インドラヤ ソワカ……」

 

 何故か『帝釈天(タイシャクテン)』の力を宿したタスクにリンファとジャンが眉をひそめる。

 

「タスク……?」

「お、おい……アニキ、何やってんだ……? ……ああ、力が戻ったのか確認したのか。でも、何も今やんなくても————⁉︎」

 

 ジャンの言葉の終わりを待たず、タスクは突如(いかづち)を纏った太刀を手にリンファへと襲い掛かった。

 

「————‼︎」

 

 武術家の本能で瞬時に身構え、迫る刃を受け流そうとしたリンファだったが、触れた指先から強烈な(いかづち)が全身を駆け巡り、意識を刈り取られた。

 

「……タスク……、なんで、なん……」

「————ヒヒーンッ‼︎」

 

 リンファが倒れ込むと同時に主人を攻撃されたヘイワンが怒りの突進を仕掛けたが、これを察知していたタスクはひらりと躱して尻に太刀の峰を押し当てた。

 

 リンファに続いてヘイワンを失神させたタスクは次の照準を動揺するジャンに絞った。

 

「……な、何やってんだよ、アニキ……⁉︎ もしかして、アンタ『鏡人(ミロワール)』に……⁉︎」

「…………」

 

 タスクは無言のまま間合いを詰め、帯電した太刀を振るった。

 

 仲間であるリンファとヘイワン、そしてジャンをも相次いで感電させたタスクは最後の一人へと鋭い視線を向ける。

 

「タスクくん、私に感電は必要ないよ」

 

 チーズをモグモグと咀嚼しながらジゼルが飄々と言ってのけると、タスクは意外そうに太刀を下ろした。

 

「……気付いていたのか……」

「ああ。キミは『鏡人(ミロワール)』にコピーされてなどいないし、絶望で正気を失っている訳でもない」

「…………」

 

 その言葉をタスクは口を閉ざすことで認めた。ジゼルは残りのチーズを食べ終えて話を続ける。

 

「————だけど、キミがこんな強硬手段に打って出るとはね。正直に話してくれる可能性の方が高いと思っていたよ」

「……俺も最後まで悩んだが、リンファとジャンを説得出来る自信がどうしても持てなかった……」

「だろうね。特にリンファ嬢はそれこそ力ずくでキミを止めようとしただろう」

「…………」

 

 横たわるリンファ、ジャン、ヘイワンに顔を向けたタスクは『帝釈天(タイシャクテン)』の力を収め、太刀を納刀した。

 

「…………すまん……ッ‼︎ リンファ、ジャン、ヘイワン……‼︎」

 

 無表情だった先ほどまでとはまるで別人のように表情を歪ませ謝罪するタスクにジゼルが優しく声を掛ける。

 

「安心したまえ。キミの意志を尊重して、リンファ嬢とジャンくんが自然に目覚めるまで私は何もしないよ。勿論キミを追うこともね」

「……かたじけない」

「待ちたまえ」

 

 礼を言って背を向けたタスクをジゼルが呼び止めた。

 

「正直に言って、私にはキミのやろうとしていることの原理が理解出来ない。だから訊くが、勝算はあるのかね?」

「無い。あったとしても米粒程度といったくらいなものだろう」

「……それならば危機を回避するという選択肢はなかったのかね……?」

「たとえ勝算がなかろうとも、扶桑(ふそう)(さむらい)ならば一度刃を向けた相手に背を向けることは出来ない」

「…………そうかね。その考えも私には全く理解出来ない」

 

 珍しく沈んだ様子のジゼルを振り返ることもなく、タスクはツユリとネージュの元へ歩み寄った。

 

 二頭は寄り添うようにしてタスクの様子を窺っていたが、近寄って来る彼の顔が穏やかなことに気付いて警戒を解いた。

 

「驚かせてしまってすまない。これからミロワのところに行く。お前たちの力を貸してもらえないか……?」

 

 タスクの瞳をじっと見つめていたツユリとネージュはその気持ちを理解したように馬首を返した。

 

「ありがとう」

 

 ツユリの背にまたがったタスクはネージュを引き連れて走り去って行った。

 

 悲壮感に満ちたタスクの後ろ姿を見送りながらジゼルが寂しげにつぶやく。

 

「……もはや私に出来ることは無いが、せめて祈らせてもらうよ。『地母神(テルース)』にではなく、キミを守護する異国の神にね」

 

 

         ◇

 

 

 ————ミロワとテルースの元へと向かうタスクはツユリとネージュを交互に乗り換えていた。

 

 一頭が疲弊した頃合いでもう一頭を休ませることで、速度を落とさず進むことが出来るのである。

 

(リンファとジャンが眼を覚ませば、ヘイワンとバイクで追い掛けて来る。それまでに距離を稼がなければ————)

 

 その時、上空から幾度も耳にした声が響いて来てタスクは顔を上げた。

 

「————シュウ!」

 

 以前の勇姿とは比べものにならないほどの弱々しい羽ばたきでシュウはタスクの左腕へ降り立った。

 

「シュウ、お前……まだ傷が癒えていないだろう……! 無茶をして取り返しのつかないことになったらどうする……⁉︎」

「……ピィ……。ピッピ、ピピピィ……!」

「…………」

 

 悲しげに鳴いたシュウの様子から何かを感じ取ったタスクは、彼を優しく懐に招き入れた。

 

「分かった……! お前も一緒にミロワを助けに行こう……‼︎」

「ピッ……!」

 

 思い掛けず最初の相棒と再会したタスクは意志を新たに手綱を握り締めた。

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