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第七話 妖精の見た目がアレだと結構萎える。

長かった鬼ごっこも遂に終わりが。

「残りは『へにょっと・ぼうる』の11人のみになったな」

トマが言った。


ああ、やっとここまで来た。長かった鬼ごっこももうすぐ終わる。ついにあと11人、1チームだ。


僕らは今、ホーリータワーのエレベーターを使って、タワー最上階の展望室を目指していた。

「妖精は高いところが好きだから、上に行けばきっと会えるだろう」というトマの発案だった。それを聞いたとき僕は、妖精たちにはぜひともそのまま天国(うえ)に昇っていただきたく思った。


エレベーター内。それは、トマが通過中の階を知らせる電光掲示板をぼんやりと眺めている横で、リンがほうきを掃く方を上にして立たせようとして失敗し、その後ろではカミ男が鏡を見ながら放心している。そんな場所だ。

見るからに、さすがの鬼役たちもお疲れモードだ。


かくいう僕も、こんな鬼ごっこには開始1秒でうんざりだったので、それなりのやる気なさを醸し出しながら立っていた。鏡に映った自分の顔が暗い。目が死んでいる。

鏡を見るのも嫌になって、イグ蔵で時刻を確認すると、午前0時代もそろそろ終わろうとしていた。

いつの間に日付が変わってたんだろう。

僕は、金属棒を長時間持ち歩くうちに、だるくなってきた右手首をさすった。

こんな棒、普段なら即捨てるだろうが、また妖精とバトルをすることになるかもしれないと思うと、捨てるに捨てられない。


「ちなみに、妖精ってどんな奴らなの? 強いの?」

と僕が聞くと、カミオが、鏡に映った己の姿を凝視しながら鼻で笑った。

「俺みたいな最強ロック系オオカミ男にかかれば、あんな奴ら敵じゃないぜ。一瞬で仕留めてやるよ」


「じゃあカミ男、一人で行きなよ。僕はもう疲れたから、戦いたくないし。というか、そもそも鬼ごっこは戦闘しないから」

僕は、疲れているところに鼻で笑われてイラっと来たので、冷たく言い返した。


3秒ぐらい、エレベーターが静寂に包まれる。


そして、カミ男がおもむろに再び口を開いた。

「鬼ごっこが戦闘じゃない・・・? そんなの俺は認めねぇ!!」

「いや、お前さっきクイズで鬼ごっこしてただろうが!!」

僕も応戦する。

「鬼ごっこは、鬼から逃げる遊びなんだよ! 戦わないし、クイズもしない」

叫んだ言葉が、全部twitters送りにされている。

ほんと、ついてない日ってあるもんだな。


エレベーターの扉が開いた。


展望室には人影がなかった。いつもは夜景を楽しみにやってくるリア充な人々が、展望室を占拠しているが、今日は火柱が上がったせいでみんな逃げてしまったのだろう。人の気配がないのも、当たり前と言えば当たり前だ。

シーンとした空気の中、4人ともしばらく動かなかった。


気まずさに耐えかねたのか、リンが

「ホラホラ~、カミ男~。一人で倒せるんでしょ~? 行ってきなよっ!」

と、ほうきをフルスイングして、カミ男の腰を後ろから打撃した。スイングは、バシッといい音を鳴らして華麗に決まった。

気まずい空気を打開する解決策としては、なかなか斬新だ。


カミ男が「イテッ」と声を上げながら前によろめく。

「おわっ、ちょっ、何すんだよ、イテーよ・・・」

カミ男がぴょんぴょん跳ねながらエレベーターから飛び出す。


そして。

ビュン ー


展望室左から、何かが飛んできて、カミ男を吹っ飛ばした。カミ男が一瞬にして視界の右側に消える。

直後、タワーが揺れた。妖精の攻撃を食らったのだろうか?

あいつも、つくづくついてない奴だ。


「おい、カミ男。どうした?」

トマが閉じかかったエレベーターの扉を、手で押さえつけながら呼びかけた。


「う・・・っ。痛すぎ」

カミ男のうめき声がかすかに聞こえる。ほんとに、どうしたんだ。壁に激突でもしたか?

いやでも、なんで?


「おい! カミ男。テメェ、俺らのことなんか、一瞬で仕留められるんじゃなかったのか?」

展望室左側から、少年のような声が響く。姿は見えないが、どうせあの声の主が妖精だろう。

一般客が、カミ男を吹っ飛ばすわけがない。


「炎の妖精・・・。どこでそのセリフを・・・聞いていやがったんだ、クソッ・・・」

カミ男が息も絶え絶えになっている。さっきの威勢はどこへやら、だ。

ほら、カミ男がそんな一瞬でへたり込むから、炎の妖精が勝ち誇った声で叫んでいるじゃないか。

「妖精は耳がいいんだよ! お前の声なんて1km先からでも筒抜けだぜ!」


「いや、さすがにそれは聴力良すぎだろ」

僕はつぶやいた。妖精の平均聴力がいかほどのものか知らないが、そんなに聞こえたら逆に不便だろうに。僕の声を聞いた炎の妖精が、息をのんだ。

「オ? エレベーター内に、まだ誰かいるんだな? てっきりカミ男一人かと思ったよ。ズルいぜ。仲間を隠してるなんてよぉ」

炎の妖精は、そう言って舌打ちをした。ああ、しまった、気づかれたか。独り言なんて言わなきゃよかった。


??


僕は次の瞬間思わず叫んでいた。

「ってオイ、お前耳いいんじゃなかったのか?! カミ男以外もエレベーター内でしゃべってましたけど?

そっちは聞こえてなかったの?」

炎の妖精は、黙った。


リンが僕の横で、「あいつ、カミ男レーダーついてるから~」とあきれてやれやれと首を振っている。

そんなレーダー、鬼ごっこ以外で役に立たないだろ。

いや、鬼ごっこでもいらないだろ、そんな機能。


「で? カミ男~。いつまでヘタってんのよ。早く妖精しとめなさいよ~」

リンがウザめのクレーマーみたいな顔で言った。リン。お前はもうちょっと思いやりを覚えろ。友達が、タワーが揺れるほどの勢いで壁に激突してんだぞ。


「さすがにあの速度のサッカーボールに打撃されたら、オオカミ男といえど復活にもうしばらくかかるだろう。我々で炎の妖精をしとめたほうが早い」

トマはスラリと剣を抜いた。さっき左から飛んできてカミ男をぶっ飛ばしたのはサッカーボールだったのか。トマの動体視力すげーな。僕にはあれが何かなんて、全然わからなかったぞ。


それにしても、トマの言う通りさっきの攻撃が妖精が蹴ったサッカーボールだったとしたら、へにょっと・ぼうるは名前のわりに強豪チームに違いない。というよりむしろ、名前がダサすぎるのか。

誰か妖精にもう少しまともなネーミングセンスを授けてやってくれないものだろうか。

僕は、トマの剣が照明を反射するのを見ながら思った。


リンは僕の横でうねうねと体をくねらせた。

「あ~ん、もう鬼ごっこ飽きたよ~。人間役多すぎ~。も~、なんでカミ男やられてんのよ~。仕方ないなぁ。さっさと終わらせよ~っと。・・・はぁ」

リンはおっくうそうに、ゆっくりとほうきにまたがった。お前も飽きてたんかい。


トマとリンは出撃準備を整え、二人で顔を見合わせた。僕は彼らの邪魔にならないように、鏡のところまでエレベーター内を後退した。

「行くぞ!」

「OK!」

トマとリンは、そろってエレベーターから飛び出した。

が。


ビュン -。ビュン -。


トマとリンは、1秒もたたないうちに(おそらく)サッカーボール(だと思われる超速飛行物体)の直撃をもろに喰らい、僕の視界から消えた。直後、さっきよりも激しい揺れが塔を襲った。


・・・・・・。

僕は静かにエレベーターの扉を閉め、地上階のボタンを押した。


*               *              *             *


エレベーターが滑らかに降下を始めた。僕は考える。

あんなやばいサッカーボール相手に、どうしろっていうのさ。

あんなのとは関わりたくない。絶対。

鬼役の異世界的ハロウィンぱりぴ3人組ならともかく、僕みたいな普通の人間にどうこうできる相手じゃない。


しばらく静かなエレベーター内でじっとしていると、僕は久しぶりに少しだけ落ち着いた気分になった。まあ、今までがcrazyすぎただけな気もする。っていうか、絶対そうだ。まったくもってついてない夜だった。こんな夜が二度とこないことを願うのみだ。


時刻は午前1時を回っていた。明日も午前中に仕事があるんだ。さっさと帰って寝よう。晩御飯食べてないけど、もうそんな気分になれない。全身が倦怠感に満ち溢れまくっている。今ちゃんと立ってるのが奇跡なぐらいだ。


エレベーターが止まった。地上階だ。

僕はさっきから絶賛お役立ち中のスケボーに乗った。これなら歩くよりずっと早く家につけるだろう。

スケボー上でバランスを保って、エレベーターが開くのを待つ。

扉が開いた。

さあ、ターボ全開で帰るぜ。僕は、上に残してきた3人と、そして今夜の奇怪な鬼ごっこに一刻も早く別れを告げようと、空飛ぶスケボーの出しうる最高速度で飛び出した。


ビュン -。


僕の真後ろをすごい勢いで何かが横切った。

・・・。

僕は振り返りたくなかった。

すごく嫌な予感がする。


「おい、4人目の鬼! 俺のボールをよけるとは、なかなかやるじゃねぇか」

僕はそう言われ、恐る恐る声のする方を向いた。

僕の視線に飛び込んできたのは、全身青服のハゲた小さいおっさんが立っていた。ハゲなくせに茶色い長いひげを生やしている。そのうちカツラにでもするのだろうか。おっさんには半透明の青白い羽が生えている。羽は明らかにハロウィン用の仮装ではなく、彼の背中に文字通り生えているように見える。彼の周囲にはサッカーボルが散乱している。


「誰ですか」

嫌な予感は、当たった。僕は、せっかく帰れると思って浮かれていたテンションが一気にダダ下がった声で尋ねた。

あいつが何者か、想像はつく。ただ、振り向いて何も言わないのもどうかと思ったので聞いただけだ。あいつは、鬼ごっこの参加者とみて間違いない。

ああ、僕はつくづくついてない。

カミ男レベルだ。


青いちっさいおっさんは、口を開いた。

「俺は氷の妖精、コリヨだ。お前のことはさっき秋からLINE(りね)できいたぞ。強いらしいな!」

秋って、さっきの焼き芋少年か。しかもそれより、

「異世界人もLINE使えるのか?! それと妖精がハゲとかマジで萎えるんですけど!」

僕は思ったことを全部口に出した。小学校で、自分の気持ちを正直に伝えるのは大事だと習った。

「萎えるとか言うな!」

怒った青いおっさんが叫ぶ。また、ボールが飛んできそうだったので、僕は慌てて体の向きを変えた。


案の定、僕のすぐそばを何かが通り過ぎていった。コリヨの足元に転がっていたボールが一個減っていた。

ったく。なんなんだよ。妖精は美しい姿をしていると信じてやまない人類たちの、純真な心を傷つけるようないでたちしやがって。こっちは早く帰りたいだけなんだよ。


「チっ。ま~たよけやがって。よけるばかりじゃなく、正々堂々と戦いやがれ!」

おっさんが目を見開いてこっちをがん見してくる。目が充血している。怖い。目力どころの騒ぎじゃない。

しかも、戦うって。相手は『音速サッカーボール☆ハゲ』だぞ。黒い人影を一瞬で仕留める、コナ〇君をしのぐ弾速の射手だぞ。


そもそも、なんで戦うんだよ。()()()うせいだからコリヨとかいうテキトーネームなんか相手にしてる暇があったら、家に帰ってヤツラが散らかしたハロウィンパーティーの名残全開の部屋を片付けるのに時間を使いたいよ。

・・・僕の考えてる内容も、だんだん投げやり度合いが上がっているな。

さっさと終わらせよう。


「コリヨさん、よろしければ、そろそろ家に帰ってもらえませんか。いや、よろしくなくても帰って」

僕はコリヨに言った。コリヨは、ん~でもな~、みたいな顔をした。

「いや~、俺、炎の妖精ホノヨの合流するまでここで待機する約束なんだって。帰れねーよ」

「そんなの知らん帰れ」

「いやでもぉ・・・」

「街頭で頭光ってるんで帰った方がいいですよ」

「黙れよ?!」

妖精がまたボールを発射してきた。アッと思った時にはもう遅く、気づいたら腰を襲ったドシッと重い衝撃とともに、僕はスケボーもろとも後ろに吹っ飛んでいた。


いてーよ、おじさん。僕は、握っていた金属棒を握りなおした。

次飛んできたボールは、絶対まともに食らいたくない。今の一発で充分な痛さだ。

盾とか持ってたらよかったんだが、あいにく持っているのはこの棒だけだ。

こいつで打ち返すしかないのか。

野球もロクにやったことがない、この僕が?

・・・無理ゲーすぎん?

でもこれしか使えそうなものは持ってない。あとは、ボールの命中率を下げるために、できるだけスケボーで動き回るしかない。


ど~するよ~。


僕が悩んでいると、急に持っていた金属が変形した。

「おおおおお?????」

あれよあれよという間に、金属棒は盾に変身してしまった。

あらら、さっきから棒が変身してたのって、リンの魔法じゃなかったのか。


まあいいや。今日はいろんなことが起きすぎて、驚く気力が残ってない。とりあえずこれでボールの直撃は免れられそうだ。ありがたく使わせてもらうことにしよう。


さあ、かかって来いおじさん。すべては、異世界からやってきた『狂ぱりぴ』から、僕の家を取り返すため。

僕は、なにはともあれ覚悟を決めて青いおっさんに対峙した。


その時だった。


上空でパリーンという澄んだ音が鳴り響いた。

反射的に上を見る。上に乗っているルーセット君ごと大きく揺れているタワーの最上階のあたりを、キラキラ光る物体が舞っている。物体の大半は白い月光を反射しているが、一つだけ赤い光も混ざっている。ルーセット君は、塔が揺れたことで故障したのか、いつもは赤く光っている目が光を失っている。目が死んでるルーセット君なんて、初めて見た。

僕がぽかんとしていると、展望室の窓の位置から、黒い未確認物体が3つ飛び出してきた。

その時僕は悟った。


もしかして、あの3人。展望室の窓、割ったのか。

サイテーかよ。


あのミソスープども、公共物破壊はやめてくれ。僕に賠償請求が来たらどうしてくれるつもりなんだ。どうせ、あいつら、誰一人として人間界(ここ)で使える金を持っていないのだろう。全額払わされるのは目に見えている。


僕の中でじわじわと広がってくる憂鬱感を体現するように、破片と光と3つの影はどんどんこっちに迫ってきていた。


「スバる~ん、ないす、待ち伏せ!! そこの炎の妖精つかまえて~~~!!!」

リンの声がかすかに聞こえる。ああ、あの赤い光は炎の妖精だったのか。どういういきさつか知らないが、3人はどうにか炎の妖精と形勢を逆転し、人間役を追いかけ始めたってわけだ。

落下しているという事実を除けば、今夜見た中で一番正規の鬼ごっこに近いことをやっているな。


僕は、ボケーッと上をみて突っ立っているコリヨに向きなおった。

「よかったね。ホノヨと合流できるみたいだ」


コリヨは、一瞬「?」と僕を怪訝そうに見たが、やがてハッと手を打った。上に向かって笑顔を向けながら、怒鳴る。

「おおおやっと来たか! 遅いぞ、てめぇ、何してやがった!」

コリヨは、僕に言われるまで、赤く光る落下物がホノヨだということには気づいていなかったようだ。

彼の見た目から判断するに、初期の老眼だろうな。


「スバる~ん!」「ボーっとしていないで」「さっさとそいつを捕まえろ!!」

リン、トマ、カミ男がかわるがわる叫んでいる。炎の妖精はだいぶ地上に近づいてきていた。

そして、目を凝らして観察すると炎の妖精は、赤く光り、ときおり炎を放つ小さいハゲたおっさんだった。

展望室で聴いた声は、少年そのものだったのにな。声帯年齢が若かっただけなのか。

へにょっと・ぼうる、平均年齢高ぇよ。


「ごめん、ハゲ妖精見ると、やる気萎えるんだ」

僕はそう言って、さっき生成した盾を頭の上にかぶった。


数秒後、すごい衝撃とともに、落下物が一帯に降り注いだ。

頭上の盾に激しい衝撃が加わって、僕は腕に力をこめなおした。顔をしかめる。結構腕がしんどい。あいつら、いったい何枚分の窓ガラスを割ってきたんだ。


しばらく盾を頭上で維持していると、ドスンという鈍い音とともに、盾の上に先ほどまでよりも大きな衝撃が加わった。さすがに手首がもげそうになる。盾を斜めに傾けて、落下物を地面に払い落とそうとしたが、失敗。僕はバランスを崩した。とっさに盾を手放したが、バランスを立て直すには時すでに遅く、結局地面に倒れこむ。痛い。

僕は、顔を守るようにして腕を顔に押し当てた。僕の真横に転がっている、手放した盾上から、何かがうめいている声が聞こえる。


盾の上に落ちてきたのは、ホノヨか? 期待してうめき声の主を確認すると、カミ男だった。

お前かよ・・・。


で、炎の妖精は?

ガラスの雨が収まったころ合いを見計らって僕は、腕から顔をはなした。

あおむけに倒れた状態で肘をつき、僕はきょろきょろとあたりを見回した。

そしてホノヨとコリヨが、トマとリンに取り押さえられているのを目撃した。


ほうきに乗ったリンや、羽の生えた妖精たちはともかく、トマはどうやって無事に着地したんだろう。

謎だ。


「さぁ、残りの9人の居場所を教えなさい! 教えないと・・・どうなってもし・ら・な・い・ぞっ♡ キャハハ」

リンが満面の笑みで尋問を開始している。よく見ると、リンはホノヨとコリヨののどぼとけの少し上あたりを指で締め上げていた。

だから、鬼ごっこってそんな遊びじゃないってば。


その様子を横目に、トマはこちらに手を挙げた。

「スバル、カミ男の回収お疲れ様」

ごく当たり前のようにねぎらってくれたのはいいが、僕はカミ男の回収係じゃないぞ。

「もうちょっと丁寧に回収しろよな」

カミ男が文句たれながら、上半身だけ起き上がろうとしている。もう起き上がるなと思った。マジでこんなやつ、速く追い返すに限る。僕はカミ男をにらみつけようと思ったが、バカらしくなってやめた。


ぼくがやれやれと、もう一度リンのほうを見ると、2人の妖精は首を絞められた状態で息も絶え絶えになっていた。

「リン・・・わかったよ・・分かったって・・・っ。残りの妖精も‥つれて・・・・帰・・る・・から・・・」

ホノヨが声を絞り出す。

「ねぇ、それほんと? お約束だよ~?」

リンがたたみかけると、2人は首の自由が利く限界角度まで、がくがくうなずいた。

リンは手を離した。

2人はどさっと地面に崩れ落ちた。が、すぐさま立ち上がり、一目散にタワーの中へ駆けこんでいった。

残りの妖精仲間も塔の中にいるのだろう。


僕は、すがすがしい顔をしているリンを見て、ため息をついた。

「あいつら、一応、一緒にパーティーするぐらい仲いいんだろ? もうちょっと優しくしてあげよーよ」

そんな僕のほうにリンはタッタと歩み寄って、平然と言い放った。

「だって。友達いじめるの、楽しいじゃん」

僕はリンの友達にはなりたくないなと思った。


数分後、タワーの中から11人の小さいおっさんがワラワラと出てきた。そして彼らは、自力でワープロードを開き、異世界へと帰っていった。11人の羽の生えたおっさんたちが、ワープロードに吸い込まれて消えていくのは、とても異常な光景だった。


彼らが全員消えると、僕は、ガラスの破片が散乱するアスファルトの上で、気持ちよく伸びをした。


やっと、鬼ごっこが終わった。解放だ。家も返ってくる・・・はずだ。

こんな意味不明な鬼ごっこはもう2度とごめんだが、家を取り返せるならもういい。

なんだっていい。帰りたい。帰って寝たい。


「じゃ、君たち3人も帰って」

僕は早々に告げた。勝利の余韻に浸っていた3人組は、その動きを一瞬止める。

「そういや、そういう約束だったな。しかたねぇ、帰るか」

カミ男がさっきの落下で乱れた髪を、手櫛で整えながら残念そうに言った。


それを聞いて、リンはほうきの柄をぎゅっと握った。

「え~、帰るのやだよぉ・・・。スバるんと一緒に鬼ごっこするの、楽しかったのにぃ」

リンがほうきの上で、足をバタバタさせている。

トマもさみしそうに、

「太陽が昇らない町・・・こんないい場所から立ち去るなんて・・・」

と言い始める。なんなんだよ、もう。鬼ごっこ終わったら帰るんじゃなかったのかよ。


このまま居座られても困るので、僕はきっぱりと宣言した。

「でも帰ってもらうよ。約束だからね。鬼ごっこはまた帰ってから、みんなでやりなよ」

僕はリンを慰めた。リンはほうきの上でしばらくヤダヤダと首を振っていたが、そのうちシュンとなって、うなずいた。

「約束は、守らなきゃだね」


僕はうなずいて、カミ男のほうを向く。こいつには、嫌みのひとことぐらい言ってやらなければ気が済まない。

「あとカミ男、さっきタワーから落ちたせいかもしれないけど、ズボンが()()()()()に破れてるから、買い替えに行った方がいいよ」

カミ男は、ハッとして自分の下半身を見下ろした。

「え、マジかよ!? ・・・って、これファッションンン! ダメージジーンズ!!」


僕は間髪入れずにトマに話しかける。

「トマは・・・ちゃんと睡眠して。いくら24時間太陽が不在だからって、浮かれて24時間稼働してたら、死ぬよ」

「っ・・・それもそうだな」

トマは、ほおをかいた。


3人は、顔を見合わせた。リンがため息をつく。

「分かったよぉ。バイバイ、すばるん。さみしくなるね・・・あ、でもでも、また来るから!!」

「しばしの別れだ」

「じゃあな、友よ! また会おうぜ」

彼らは口々にそういった。そして、リンはワープロードを開き、3人は仲良くその中に消えていった。


去っていこうとする彼らの背中に、僕は呼びかけた。

「じゃあね!」

そしてワープロードが閉じるか閉じないかの間際に、付け加えた。

「できれば、もう戻ってこないでくれるかな!!」


こうして、僕のとある10月31日は、幕を下ろしたのだった。


ここまで読んでくださったかた、お付き合いくださいましてありがとうございます。

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