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処刑された令嬢、十年前に戻ったので今度は誰も信じません  作者: ななほし


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第6話 私を知る謎の青年

「……ようやく見つけた」


地下聖堂に響いた声。


私は動けなかった。


知っている。


この声を。


十年後。


処刑台で私を殺した男の声。


「……どうして」


震える。


「どうして、ここにいるの?」


答えはない。


代わりに。


暗闇の奥から黒い影が現れた。


黒いローブ。


顔は見えない。


けれど。


その手には――


黒い花が握られていた。


「アリア」


名前を呼ばれる。


私は一歩後ろへ下がった。


「私の名前を呼ばないで」


「なぜ?」


「あなたは私を殺した」


黒い影が笑う。


「……そうだったな」


「!」


認めた。


この男は。


本当に前の人生の記憶を持っている。


「あなたも……戻ってきたの?」


「戻ってきた?」


男は笑った。


「違う」


そして。


ゆっくりと仮面を外した。


私は息を呑んだ。


「……!」


知らない顔。


なのに。


知っている。


この男の顔を。


前の人生。


王宮の廊下で一度だけ見た。


王太子の側近として立っていた男。


「……カイル?」


男は笑った。


「ようやく思い出したか」


カイル。


王宮魔術師。


十年前はまだ王宮に入っていなかったはずの人物。


「どうしてあなたが……」


「君を殺すためだ」


黒い魔力が広がる。


私は咄嗟に手を前へ出した。


「来ないで!」


魔力がぶつかる。


――バンッ!


聖堂の壁が揺れた。


私は後ろへ飛ばされる。


「お嬢様!」


マリーが叫ぶ。


私は床に手をついた。


「……大丈夫」


立ち上がる。


でも。


身体が震えていた。


前の人生。


私は何もできなかった。


でも。


今は違う。


私は腰の短剣を抜いた。


「今度は……」


カイルを見る。


「殺されない」


カイルが笑う。


「面白い」


黒い魔力がさらに強くなる。


その瞬間。


青年が私の前へ出た。


「彼女に触れるな」


「……!」


銀色の瞳。


彼は手を掲げる。


光の壁が生まれた。


黒い魔力が弾かれる。


カイルが舌打ちした。


「お前……」


青年は答えない。


ただ。


私を守るように立っている。


「あなたは……誰なの?」


「今は、それを話している時間がない」


青年が振り返る。


「逃げるぞ」


「嫌」


「何?」


私は首を振った。


「私は逃げない」


前の人生。


私はずっと逃げ続けた。


家族を信じて。


婚約者を信じて。


誰かが助けてくれると思っていた。


そして。


最後に全部を奪われた。


だから。


今度は。


自分で戦う。


「私は、ここで真実を知る」


青年は私を見つめた。


「……変わったな」


「え?」


「前の君なら、泣いて逃げていた」


「……」


「でも今の君は違う」


青年は少し笑った。


「やっぱり、戻ってきたのは無駄じゃなかった」


「あなたも……私を知っているんですね」


「ああ」


「前の人生で会った?」


「会った」


「いつ?」


青年は答えなかった。


ただ。


悲しそうな目をした。


「君が死ぬ前の夜だ」


「……!」


私は息を呑んだ。


「じゃあ、あなたは……」


青年が私を見る。


「俺は――」


その瞬間。


カイルが黒い魔法を放った。


「話は終わりだ」


青年が腕を振る。


光の壁が砕けた。


「走れ!」


「でも!」


「今の俺では、奴を倒せない!」


私はマリーの手を掴んだ。


三人で階段を駆け上がる。


背後から黒い魔力が追ってくる。


「アリア!」


カイルの声。


「次は必ず迎えに行く」


私は振り返った。


「……次?」


カイルは笑っていた。


「君はまだ知らない」


黒い花が開く。


「この世界では――」


その言葉と同時に。


聖堂の扉が閉じた。


屋敷へ戻ると。


私はすぐに父の書斎へ向かった。


「お父様!」


父が振り返る。


「どうした?」


「地下聖堂がありました」


父の顔が凍った。


「……誰に聞いた?」


「自分で見つけました」


「……そうか」


父は目を閉じた。


「とうとう見つけたか」


「全部話してください」


「……」


「私が前の人生で処刑された理由」


父は黙った。


「地下聖堂にあったエレナの名前」


父の表情が変わる。


「そして――」


私は青年のことを話した。


「銀色の目をした青年」


父はしばらく黙っていた。


そして。


「……その男の名前は?」


「分かりません」


父は立ち上がった。


「銀色の瞳……」


そして。


小さく呟いた。


「まさか、生きていたのか」


「知っているんですか?」


「……ああ」


父は苦しそうに私を見る。


「お前の母親を守っていた男だ」


「お母様を?」


「十年前に死んだはずの――」


そこで。


父の声が止まった。


「……お父様?」


「いや」


父は首を振る。


「死んだのではない」


「え?」


「消されたんだ」


私は息を呑んだ。


「誰に?」


父は答えなかった。


その代わり。


机の引き出しから一枚の古い肖像画を取り出した。


そこに描かれていたのは。


銀色の瞳を持つ青年。


私は絵を見つめた。


「……この人」


間違いない。


地下聖堂で会った青年だった。


肖像画の下には。


名前が書かれている。


『ルシアン・アストレア』


そして。


その隣には。


小さな文字でこう書かれていた。


『アリアを守る最後の騎士』


私は息を止めた。


「最後の……騎士?」


父は私を見る。


「アリア」


「はい」


「その男を信じるな」


「……どうして?」


父の顔が青ざめる。


「ルシアンは――」


その瞬間。


窓ガラスが割れた。


――ガシャン!


黒い矢が飛び込んでくる。


私は咄嗟に避けた。


矢は壁に突き刺さる。


その矢には。


黒い花が結びつけられていた。


そして。


花の下には一枚の紙。


私は震える手で拾った。


そこには。


たった一行。


『次は、王太子を殺します』


私は目を見開いた。


「……殿下が?」


前の人生では。


私が殺された。


でも。


今度は違う。


次に狙われているのは――


私の婚約者だった。

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