↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
処刑された令嬢、十年前に戻ったので今度は誰も信じません  作者: ななほし


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/42

第7話 前の人生にはなかった事件

『次は、王太子を殺します』


その一文から。


私は目を離せなかった。


手紙を持つ指が震えている。


「……殿下が狙われている」


父も険しい顔をしていた。


「すぐに王宮へ知らせる」


「待ってください」


私は父を見る。


「私も行きます」


「駄目だ」


即答だった。


「どうして?」


「犯人はお前を狙っている」


「だからこそです」


私は手紙を握りしめた。


「前の人生では、私は何も知らないまま処刑されました」


父が黙る。


「今度は違います」


私は顔を上げた。


「私は、自分で真実を見つけます」


父は長い間、私を見つめていた。


やがて。


小さく息を吐く。


「……分かった」


「お父様?」


「ただし、護衛をつける」


「はい」


「そして王宮から勝手に離れるな」


「分かりました」


父は頷いた。


けれど。


その表情には。


何かを恐れているような色があった。


私は気づいていた。


父はまだ。


何かを隠している。


王宮へ向かう馬車の中。


私は窓の外を見ていた。


前の人生と同じ街。


同じ道。


同じ建物。


でも。


私の中だけが違っている。


前の人生。


私はこの道を通るたびに、未来を夢見ていた。


王妃になったら。


この国をもっと良くしたい。


困っている人を助けたい。


そんなことを考えていた。


今は。


ただ。


生き残りたい。


そして。


真実を知りたい。


「アリア」


向かいに座る父が口を開いた。


「何ですか?」


「王太子には近づきすぎるな」


「……どうして?」


「殿下自身が危険だからだ」


私は眉をひそめた。


「殿下が?」


「王太子の周囲には、多くの人間がいる」


「側近や騎士ですか?」


「それだけではない」


父は低い声で言った。


「王宮には、敵がいる」


私は黙った。


前の人生。


王宮で私は何度も過ごした。


でも。


敵なんて見たことがなかった。


いや。


――見ようとしなかった。


王宮に着くと。


すぐに騎士たちが集まってきた。


「アリア様!」


その中に。


見覚えのある顔があった。


「……リオ?」


若い騎士。


前の人生では、王太子の護衛を務めていた男だ。


「お久しぶりです」


「久しぶり……?」


彼は少し困った顔をした。


「昨日も会いましたよ」


「あ……」


私は慌てて笑った。


まただ。


前の人生の記憶と。


今の時間が混ざってしまう。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫」


私は答えた。


そのとき。


廊下の奥から声がした。


「アリア!」


王太子だった。


彼は私を見ると、すぐに駆け寄ってきた。


「何があった?」


「これを」


私は手紙を渡した。


王太子の表情が変わった。


「……黒い花」


「知っているんですね」


「ああ」


彼は手紙を握りしめる。


「これは前の人生でも使われていた」


「では、犯人は……」


「同じ可能性がある」


王太子が周囲を見る。


「全員、下がれ」


騎士たちが一斉に動く。


扉が閉まった。


部屋に残ったのは。


私。


王太子。


そして。


父だけ。


「アリア」


王太子が言った。


「俺の部屋を調べる」


「え?」


「前の人生で、俺はここで毒を飲まされた」


私は息を呑んだ。


「毒……?」


「君が持ってきたことになっていた毒だ」


「……!」


そうだった。


前の人生。


王太子暗殺未遂事件。


私の部屋から毒が見つかり。


私の指紋まで付いていた。


でも。


私は毒なんて触っていない。


「殿下」


私は部屋を見回した。


「前の人生と、何か違うところはありますか?」


「分からない」


王太子は答えた。


「だから探す」


私たちは部屋の中を調べ始めた。


机。


本棚。


暖炉。


ベッド。


何もない。


「……ここも違う」


私は窓際へ近づいた。


すると。


カーテンの裏に。


小さな傷があった。


「殿下」


「どうした?」


私は傷に触れる。


その瞬間。


――ズキッ。


頭に激痛が走った。


「……っ!」


視界が白くなる。


そして。


見えた。


誰かが。


この部屋に入ってくる。


黒い服。


顔は見えない。


その人物が。


小さな瓶を机の中へ入れている。


「……!」


私は目を開けた。


「アリア?」


王太子が私を支える。


「今……」


「何が見えた?」


私は震えながら言った。


「人がいました」


「人?」


「前の人生の記憶……だと思います」


「何をしていた?」


「瓶を……」


私は机を見る。


「そこです」


王太子が机を開ける。


何もない。


「……ない?」


「でも、確かに……」


私は机の奥に手を入れた。


すると。


指先に何かが触れた。


「これ……」


取り出す。


小さな銀色の箱。


王太子が目を見開いた。


「それは?」


「分かりません」


箱には鍵穴がない。


蓋もない。


ただ。


私が触れた瞬間――


箱が開いた。


「……!」


中には。


小さな黒い石が入っていた。


それを見た瞬間。


父の顔が青ざめた。


「……それをどこで?」


「この部屋にありました」


父は近づいてくる。


「アリア、それを捨てろ」


「どうして?」


「それは――」


父が言いかけた。


その瞬間。


黒い石から声がした。


『……見つけた』


「!」


石が光る。


そして。


私の目の前に。


一人の女性が現れた。


銀色の髪。


白い服。


悲しそうな瞳。


私は息を呑んだ。


「……誰?」


女性は私を見て。


微笑んだ。


『やっと、あなたに会えた』


「私に……?」


『そう』


女性が手を伸ばす。


『アリア』


その声を聞いた瞬間。


胸の奥が痛くなった。


なぜだろう。


知らない人なのに。


とても懐かしい。


「あなたは……誰なの?」


女性は答えた。


『あなたのお母さんよ』


「……!」


私は息を呑んだ。


父が叫ぶ。


「やめろ!」


女性の姿が一瞬、乱れる。


そして。


最後に一言。


『アリア――』


『あなたの前世は、十年前から始まったんじゃない』


「……え?」


光が消えた。


部屋に静寂が戻る。


私は呆然と立っていた。


「お母さん……?」


父は何も言わない。


王太子も黙っている。


私は父を見る。


「お父様」


「……」


「今の人は、本当に……お母様なんですか?」


父は目を伏せた。


「……そうだ」


「どうして?」


「話せば、お前はまた狙われる」


「もう狙われています!」


私は叫んだ。


「私は一度殺されたんです!」


父が顔を上げる。


「だからこそ言えない」


「どうして!」


父は苦しそうに答えた。


「お前が知れば――」


その瞬間。


王宮中に鐘が鳴り響いた。


一度。


二度。


三度。


警報の鐘。


「何があった?」


王太子が扉を開ける。


外から騎士が駆け込んできた。


「殿下!」


「どうした!」


騎士は息を切らしながら叫んだ。


「王宮の地下で――」


一瞬。


言葉を失う。


「黒い花が大量に咲いています!」


私は凍りついた。


「……地下」


頭の中に。


地下聖堂の光景が蘇る。


そして。


あの青年の言葉。


――もう、来てしまった。


私は王太子を見る。


「殿下」


「ああ」


彼も同じことを考えている。


「行こう」


私たちは走り出した。


けれど。


誰も気づいていなかった。


王宮の地下。


誰も知らない場所で。


一人の女性が目を開けていた。


銀色の髪。


赤い瞳。


そして。


その手には――


黒い花。


「……アリア」


女性は微笑む。


「今度こそ、あなたを殺さなくては」


その声は。


私の親友。


エレナと同じ声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。