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処刑された令嬢、十年前に戻ったので今度は誰も信じません  作者: ななほし


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第33話 蘇った記憶

「……嘘」


 私は父を見る。


 父は何も言わない。


 その沈黙が。


 答えだった。


「……お父様」


 声が震える。


「本当なの?」


 父は目を閉じた。


「……ああ」


 胸が締め付けられた。


 一度目の人生。


 私は処刑された。


 レオンハルトに裏切られたと思っていた。


 エレナに裏切られたと思っていた。


 でも。


 本当に私を殺したのは。


「私のお父様……?」


「違う」


 父が首を振る。


「俺がお前を殺したわけではない」


「でも、今そう言ったでしょう!」


「俺が殺したのは――」


 父の声が震える。


「お前の“記憶”だ」


「……え?」


 父は一歩近づく。


「一度目の人生で、お前は王冠の力に飲み込まれた」


「……」


「お前の中にある銀の力が暴走した」


「だから私は……」


「お前自身が王宮を壊しかけた」


 私は言葉を失った。


 父は続ける。


「止める方法は一つしかなかった」


「記憶を封じること」


「そうだ」


「でも……処刑された」


「処刑されたのは、お前の身体だ」


「……?」


 父の言葉の意味が分からない。


 そのとき。


 ルシアンが口を開いた。


「アリア」


「何?」


「お前が処刑されたと思っている日」


 ルシアンは苦しそうに言った。


「あの日、お前の身体は確かに死んだ」


「……」


「だが、お前の記憶はその前に切り離されていた」


 頭が痛くなる。


「じゃあ……私が死んだと思っていた私は……」


「王冠によって作られた“記憶の人格”だった可能性がある」


 私は後ずさる。


「そんな……」


 エレナが私の手を握った。


「アリア」


「……」


「あなたは、何も悪くない」


 その言葉に涙が溢れた。


 すると。


 白髪の男が笑った。


「違う」


 全員が振り返る。


「お前たちは、まだ何も理解していない」


 男は黒い王冠を掲げる。


「王冠が作ったのは記憶ではない」


「……?」


「人生そのものだ」


 空間が歪む。


 私の目の前に、無数の光景が現れた。


 十歳の私。


 十五歳の私。


 二十歳の私。


 二十五歳の私。


 それぞれが違う人生を歩んでいる。


「……これ、全部……?」


「お前が選ばなかった可能性だ」


 私は震えた。


 もし。


 あの日、別の道を選んでいたら。


 もし。


 エレナを信じていたら。


 もし。


 レオンハルトと逃げていたら。


 もし。


 母と一緒に王宮を出ていたら。


 いくつもの人生が存在していた。


「私は……どれが本当の私なの?」


 誰も答えない。


 すると。


 父が私を見る。


「アリア」


「……」


「お前が決めろ」


「何を?」


「どの記憶を自分のものにするのか」


 私は王冠を見る。


 その瞬間。


 王冠から声がした。


『選んで』


『一つだけ』


『それが、お前の人生になる』


 私は拳を握る。


「……嫌」


 王冠が震える。


「私は選ばない」


「何?」


 白髪の男の表情が変わった。


「私は――」


 私は銀色の魔力を解き放った。


「全部、自分のものにする!」


 地下聖堂が光に包まれる。


 無数の記憶が一気に私へ流れ込んできた。


 痛い。


 苦しい。


 それでも。


 目を閉じない。


 すると。


 その中に。


 一つだけ。


 今まで見たことのない記憶があった。


 幼い私。


 幼いエレナ。


 母。


 そして――。


 三人の前に立つ。


 銀髪の少女。


 私は息を呑んだ。


「……あなた」


 少女は幼い私に手を差し出していた。


『いつか、あなたを助ける』


 そして。


『でも、そのときには――』


 少女が振り返る。


 その顔を見た瞬間。


 私は叫んだ。


「……私?」


 銀髪の少女は。


 幼い頃の私と。


 まったく同じ顔をしていた。

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