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処刑された令嬢、十年前に戻ったので今度は誰も信じません  作者: ななほし


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第32話 死んだはずの父

「お父様……?」


 私は呆然と男を見つめた。


 ベルク公爵ではない。


 私が知らない男。


 けれど。


 なぜか。


 心の奥では知っている。


 この人が私の父だと。


「アリア」


 男が一歩近づく。


 ルシアンが剣を抜いた。


「止まれ」


「ルシアン」


「それ以上近づけば斬る」


 男は苦笑した。


「相変わらずだな」


「……お前は死んだはずだ」


「そうだな」


 男は自分の胸を指す。


「一度目の人生では、確かに死んだ」


 私は息を呑んだ。


「一度目……?」


 男は頷いた。


「俺も戻ってきた」


「……あなたも?」


「そうだ」


 レオンハルトが剣を構える。


「では、あなたも二度目の人生を?」


「違う」


 男の瞳が暗くなる。


「俺は三度目だ」


「……三度目?」


 地下聖堂に沈黙が落ちた。


「お前たちは知らないだろう」


 男は言った。


「この世界で“二度目の人生”を与えられた者は、アリアだけではない」


「……」


「だが、三度目まで辿り着いた者は少ない」


 私は震える。


「どうして……そんなことができるの?」


「記憶の王冠だ」


 男が王冠を見つめる。


「王冠は過去を変えるだけじゃない」


 彼は静かに続けた。


「時間そのものに干渉する」


「なら……」


 私は一歩近づく。


「私の一度目の人生も、誰かが変えたの?」


「違う」


 男は首を振った。


「変えられたのは“結果”ではない」


「……?」


「お前が見ていた過去だ」


 胸がざわめく。


 また同じ話。


 選ばれた過去。


 偽りの記憶。


「では、私は何を信じればいいの?」


 男は答えなかった。


 代わりに。


「何も信じるな」


 その言葉に、私は目を見開いた。


「それが、お前の母が最後に残した言葉だ」


「……お母様が?」


「ああ」


 男は懐から古い手紙を取り出した。


 封筒には、母の筆跡。


『アリアへ』


 私は震える手で受け取った。


 だが。


 開封する前に。


 ――バキッ。


 手紙が黒い炎に包まれた。


「え……?」


 灰が舞う。


 男の表情が変わった。


「来たか」


「誰が?」


 答えの代わりに。


 地下聖堂の入口から拍手が聞こえた。


 パチ。


 パチ。


 パチ。


「素晴らしい」


 白髪の男。


 黒い王冠。


 赤い瞳。


 第25話で現れた男だった。


「ようやく全員揃った」


 私の父が睨みつける。


「お前が……」


「久しぶりだな」


 白髪の男が笑った。


「息子よ」


 私は凍りついた。


「……息子?」


 白髪の男は私を見る。


「そうだ」


 そして。


「こいつは私の息子だ」


 父の顔が歪む。


「違う」


「違わない」


「俺はお前を父とは認めない」


「それでも血は繋がっている」


 私は二人を見つめる。


 そして気づいた。


 白髪の男と私の父。


 二人とも――。


 銀色の瞳をしていた。


 王家の血。


 記憶の王冠。


 三度目の人生。


 そして。


 私の出生。


 すべてが一つに繋がろうとしていた。


 しかし。


 白髪の男が笑う。


「アリア」


「……何?」


「お前はまだ知らない」


「何を?」


「お前の父親が――」


 男は私の父を指差した。


「一度目の人生で、お前を殺した張本人だということを」

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